軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アマチュア狙いの偽金騒動

交代時間も迫っているので、自分達の店に戻ろうと移動している最中のことだった。不意に視界にちらつく赤い色に、 悠利(ゆうり) は思わず瞬きを繰り返した。何か異変があって【神の瞳】さんが教えてくれるのは解ったが、あまりにも突然過ぎて面食らったのである。

「……?」

何があったんだろうと首を傾げながら、悠利は詳細を確認するように意識を赤い光に集中させた。すぐさま【神の瞳】が鑑定結果を表示してくる。

――偽金の使用者。

支払いに偽金を紛れ込ませている常習犯。使用している偽金も精巧なもの。

商売に不慣れな素人には見抜くのが難しい偽金を使っています。

今後のためにも捕獲し、偽金を回収することをおすすめします。

常習犯なので遠慮はいりません。余罪は叩くほどに出るでしょう。

安定の【神の瞳】さんである。とても解りやすい説明はありがたいが、それはそれとして最後の一文は何だろうか……と悠利は思う。 技能(スキル) はあくまでも 技能(スキル) だというのに、ちょいちょい人格がありそうな不思議な感じなのである。

まぁ、悠利にとっては【神の瞳】さんはそういう 技能(スキル) であるという認識なので、あまり深くは考えない。それよりも、今は急いで大人に事態の報告をするべきだと理解した。

「レレイ、お願いがあるんだけど」

「何ー?」

「誰か大人の人呼んできてもらえる?」

「……何かあったの?」

「うん」

悠利の言葉に、レレイはそれまでののほほんとした雰囲気から一転、真剣な表情になった。こういう顔をすると、日々冒険者として仕事を果たしているのだと思える。……悠利が普段見ているレレイは、美味しいご飯に満面の笑みを浮かべている姿なので。

レレイは悠利の申し出を受け入れると同時に、ルークスへと視線を向けた。そしてそのまま、愛らしいスライムに向けて、真剣な顔で告げる。

「ルークス、あたしが戻ってくるまでユーリのことお願い」

「キュピ!」

「頼りにしてるよ!」

「……レレイが戻ってくるまで別に何もしないから、そこまで念押ししなくて大丈夫だよ……」

小さな子供じゃないんだから、とぼやく悠利を無視して、レレイとルークスは解り合っていた。ルークスに後を託せると理解したレレイは、人混みを縫うようにして走っていった。すぐに戻ってくるからね! という言葉を残して。

ルークスも気合いを入れているのか、真剣な眼差しで周囲を見ている。腕に抱えたルークスの妙に気合いの入った姿を見てため息をつきつつ、悠利は視線をもう一度偽金を使っている人物へと向けた。

そこにいたのは、ごくごく普通の青年という印象を受ける人物だった。これといった特徴もなく、一般市民と言われて納得できるような雰囲気の持ち主だ。顔立ちなどにも目立った特徴はなく、道ですれ違っても記憶に残らないような気がした。

得てして、そういう人物の方がこういう犯罪には向いているのかもしれない。他人の記憶に残りにくいということは、足が付きにくいということだ。

ひとまず相手が移動したら追いかけなければということで視線を向けていた悠利だが、買い物を楽しんでいる感じで移動する気配はなかった。【神の瞳】さんの鑑定結果がなければ、彼が偽金を使うために店を物色しているなんて思いもしなかっただろう。

偽金をそうと知らずに店側が受け取った結果、その後の支払いなどに使われてしまうと大変なことになる。おつりを渡すときに偽金が混ざってしまうと、そのまま広がってしまうからだ。出来る限り早い段階で食い止めたい。

とはいえ悠利が先走って男に声をかけるのは悪手である。相手がどういう人物かも解らないし、逆上されたときに対処できない。それと、普段から何か行動を起こす前にはちゃんと報告しろと言われているので、それに従っているのもあった。

そうこうしていると、レレイが戻ってくる姿が見える。運がいいと言うべきか、彼女が連れているのはアリーだった。

「ユーリ、リーダーいたから来てもらったよ」

「ありがとう、レレイ。アリーさんも、わざわざすみません」

「構わん。お前が呼ぶというなら、よほどのことだろうからな」

「よほどのことです」

アリーの言葉に、悠利はキリッとした表情で告げた。偽金にまつわることなのでその反応で間違いはないのだが、妙にコミカルに見えるのは悠利ならではなのかもしれない。当人は真剣なのだが、妙に微笑ましいのである。

微笑ましく見られているなんて思ってもいない悠利は、アリーを手招きして耳打ちをする。……なお、レレイには事前に「黙っててね」と言ってある。叫ばれると相手が逃げる可能性があるので。

「あそこに、偽金を使ってる人がいます」

「……何?」

「どうも、商売に不慣れな素人相手ならだませると思って使ってるみたいで……」

「実際に偽金を確認したのか?」

「現物は見てないです。でも、見たら解ります」

あそこと悠利が示したのは、少し離れた場所にいる青年だ。アリーが実際に確認したのかと聞いたのは、相手とそれぐらい近い場所にいたのかという意味の確認も兼ねている。……早い話が、顔を見られたのかという感じの確認だ。

ひとまず相手にこちらが認識されていないと理解したアリーは、悠利を連れて偽金を使っている青年の元へと歩いていく。レレイは何も言われていないのだが大人しく後を付いてきた。何かあったら飛び出そうと思っているのが気配で伝わる。

楽しそうに買い物をしている青年の元へと足を進めた悠利達。一同を代表して相手に声をかけるのはアリーの仕事だった。……まぁ、実際話題が話題なので、悠利やレレイのようなお子様オーラが抜けきっていない若手よりも、どっしり構えているアリーの方が適任と言えよう。

そもそも、よほど遠方から来たとかでない限り、アリーのことを知っているはずだ。相手が自覚ありで偽金を使っているのなら、なおのこと。少なくとも、悠利達の感覚で言うと、警戒対象としてアリーの存在は認識されているだろうと思える。

「ちょっと良いか?」

「え? あの、何か……」

「アンタが支払いに使ってる金を見せてもらいたいんだが」

「……はい?」

突然何をと言いたげな反応をする青年だが、アリーは静かに相手を見つめるだけでそれ以上何も言わない。その無言の圧力に屈したのか、青年は財布の中から金を取り出した。

その金を見て、アリーが顔をしかめる。【魔眼】の 技能(スキル) で確認してみても、それは普通のお金だった。偽金ではない。ちらりとアリーは視線を悠利に向けた。悠利はその視線の意味をちゃんと理解して、目の前の青年をじぃっと見つめた。

きっと、財布には普通のお金も入っているのだろう。そして、偽金は隠してあるのだ。こんな風に呼び止められたときに問題ないと示すためなのだろう。そういう小細工をしている段階で、自覚ありでやっている悪い人だと悠利は判断した。

そんな悠利の意志に従って、【神の瞳】さんは目の前の相手の状態を教えてくれる。ぼんやりと赤い光が示すのは、青年の上着の内ポケットだった。自分で手を入れなければ落とすこともなさそうな場所である。

「あのー、内ポケットに入ってるやつも見せてもらって良いですか?」

「……は?」

「上着の内ポケットに入っているお金です。それも確認させてもらえたら助かるんですけど」

「いきなり何を……」

「ちょっと確認するだけです。……ダメですか?」

悠利の言葉に、青年は面倒くさそうな顔をしている。なんだこの子供はと言いたげな表情である。それでも押し問答をするのが面倒だったのか、上着の内ポケットからお金を取り出し、悠利に差し出す。

……赤い光が出ていた偽金ではなく、普通のお金を。

「……」

「これで良いかい?」

言い分に従ったんだからもう良いだろうと言いたげな青年に、悠利は白い目を向けた。用意周到にもほどがあるなぁという感想しか出てこなかった。もういっそ、「持っているお金を全部出してください」とか言おうかなと思ってしまう悠利だった。

悠利の反応から諸々を理解したのだろう。アリーが盛大にため息をついた。相手に圧をかけるためのわざとらしいため息である。

「まどろっこしいな。持ってる金を全部見せてくれ」

「さっきから一体何ですか……!?」

いい加減にしてくれと言いたげな青年に、アリーは低く落とした声で決定打となる言葉を告げた。表情は感情をそぎ落とした無表情である。……下手に怒っている顔よりも恐ろしいのは何故だろうか。

「アンタが偽金を使ってるのは解ってるんだ。さっさと出せ」

「……ッ!?」

「口先で言い訳を並べたところで無駄だ」

青年が何かを言うよりも先にアリーが言い切る。そして、青年は気づく。自分達に注目が集まっていることに。

単なるもめ事ならば、そこまで周囲の視線も向かなかっただろう。だが、名の知れた真贋士であるアリーが真剣な顔をして問い詰めているという状況は、周囲の興味を引くのに十分だった。そしてそれは、彼が買い物をしてきた店の店主達も同様なのだ。

その店主達の視線を感じた悠利は、ちょっぴりわざとらしいと思いながらも周囲に聞こえるように隣のレレイに言葉をかけた。

「あの人、偽金でお会計してたんだよ。ひどいよね、レレイ」

「えー、何それ、最悪! 詐欺じゃん! 捕まえなきゃ!」

「捕まえなきゃだし、偽金を見つけなきゃだよねー」

「本当だ! この人がお買い物したお店を探さなきゃダメだね!」

「そうだね。名乗り出てくれたら探しやすくて良いよね」

「確かに!」

悠利はわざとやっているが、レレイは素である。彼女に腹芸なんてものは出来やしないのだ。しかし、この場合はそれが良い。あくまでも本心で思ったことを言っているだけなので、その言葉には説得力があるのだ。

ついでに、レレイの声はよく通る。決して甲高いわけではないのだが、実に通りの良い声をしている。声量を抑えていても周囲に届く彼女の声は、今回とても良い仕事をしてくれた。あちらこちらから、ざわざわと声が上がるのだ。

これで、目の前の青年に見覚えのある店主が自主的に名乗り出てくれるだろう。こちらから探し歩く手間が省けて大変助かる。

いや、【神の瞳】さんの力を持ってすれば、探すのは簡単だろうが。だとしても、突然現れて「偽金があるか確認してください!」なんて言い出すぽやぽやした少年なんていうものは、怪しいに違いないのだ。悠利にだってそのぐらいは解る。

なので、状況を周囲に知らせると同時に、この後の自分の仕事がスムーズに行えるように下準備をしたということになる。……そう、悠利は目の前の青年の相手はアリーにお任せして、偽金の有無を確認するのが自分の役目だと思っているのだ。小難しいことは解らないので。

アリーもそのつもりなのだろう。淡々と目の前の青年を追い詰めている。色々と言い訳をしているようだが、アリーは容赦しない。感情を乱さず無表情と落ち着いた口調で尋問される状況に焦れたのか、突然青年がきびすを返して走り出した。

が、彼の逃走は成功しなかった。何故ならば――。

「キュピー!」

「逃げるなー!」

「うわっ!?」

悠利の腕の中にいたルークスが身体の一部を伸ばして青年に足払いをしかけ、それとほぼ同時に飛び出したレレイがその場に引き倒して確保する。とても見事な連携だった。実は打ち合わせをしていたのか? みたいな完璧な連携であるが、ただの現場の判断が被っただけである。

レレイが青年を確保したのを確認したルークスは、悠利の腕の中からぴょんと飛び降りて青年の元へと近寄る。

「ん? ルークス、どしたの?」

「キュイ!」

「わー、縛ってくれるんだ。ありがとうー」

「キュキュー」

まるでそれが自分の仕事だというように、ルークスは伸ばした身体の一部で青年をぐるぐる巻きにした。簀巻きのようにされた状態の青年が何かを言おうとするのを、相変わらずの無表情で見下ろしているアリーが遮るように口を開いた。

「下らん詐欺に手を染めた自業自得だと思うんだな。詳しい話は衛兵にすれば良い」

「だから言いがかりだと……!」

「レレイー、上着の内ポケットの奥の方に偽金入ってるはずだから、引っ張り出してー」

「解ったー」

「なっ……!?」

「あ、あったー」

青年の隣にちょこんとしゃがんだ悠利が暢気な口調でお願いすれば、同じように暢気な口調で答えたレレイが言われた場所を探す。そのままひょいっと何枚かのお金を取り出して、満面の笑みを浮かべた。

ぱっと見は普通のお金だ。とてもとてもよく出来ている。けれど、【神の瞳】さんが赤判定を示すのだから、精巧に作られた偽金で間違いないのだ。レレイが手にした偽金を手に取ったアリーが、確認するようにじっと見つめた後に低い声で呟いた。

「ここまでの出来の偽金を作れるとはな……。迷惑な話だ」

「アリーさん、後のことお願いしても良いです?」

「あぁ、構わん」

「じゃあ僕、他のお店に偽金が出回ってないかを確認してきますね!」

「レレイとルークスは連れて行けよ。店には他のやつが交代するように伝えてあるから安心しろ」

「はーい」

頼れる保護者様は、きちんとしてくれている。交代時間が迫っていた悠利達がトラブルに関わっていると理解して、手すきの他のメンバーで店を回すように言っておいてくれたらしい。大変助かる。

そうこうしている間に騒ぎを聞きつけたらしい衛兵が駆けつけてくれたので、青年の身柄は彼らに託すことになった。そのままアリーは彼らに同行して尋問を手伝うことになったので、悠利とレレイは頼れる保護者様を笑顔で見送った。

なお、ルークスは簀巻きにした青年を解放する前に一度、ちょっとぐらいやっても良いよね? という感じに青年の身体を頭上高くでぐるんぐるんと回していた。悪い人なのでお仕置きが必要だと思ったらしい。怪我はさせていないのでセーフです。多分。

「よし、それじゃあレレイ、偽金を使われたお店の確認に行こう!」

「おー!」

「キュピー!」

元気よくやる気に満ちる悠利達。とりあえず、直前まで青年が買い物をしようとしていたお店に向かう。ただ、その店ではまだお会計はしていなかったらしいので、騒がせたことをお詫びするだけで終わった。

次はどこを探そうかと思っていると、お店側から声をかけてくれた。

「あの、偽金かどうかが解るって本当ですか?」

「本当ですよ。僕、鑑定 技能(スキル) を持ってるので」

「それじゃあ、うちのお金を確認してもらえますか? あの人がお買い物をしてたので……」

「もちろんです」

おずおずと言いたげに声をかけてきたのは、年若い女性だった。若奥さんという雰囲気のある女性である。優しげな雰囲気と、エプロン姿が板に付いたところが何とも言えず和む。

彼女の店へ向かうと、悠利は目の前に出されたお金入れを確認する。偽金があるかどうかは、【神の瞳】さんが一瞬で見抜いてくれる。なので悠利は、赤い光が付いているお金を数枚、ひょいひょいと抜いた。

「これは偽金ですね。よく出来てますけど」

「本当に偽金があったなんて……」

「僕の鑑定だけじゃ信用できないというなら、後ほど衛兵さんに伝えてください。多分、何らかの補塡をしてもらえると思うんで」

「えぇ、ありがとう。助かるわ」

「いえいえ。適材適所なので」

そんなやりとりをする悠利と女性の隣で、レレイが感心したように偽金を見ていた。感嘆の声を上げながら、偽金と本物のお金を見比べている。

「これ、一生懸命見ても違いが解らないねー」

「レレイ?」

「あたし、視力とかは良いから細かい細工までちゃんと見えるけど、これそっくりすぎて見分けるの無理だよ」

「鑑定持ちか、その道のプロとかしか解らないんじゃないかな」

「その道のプロって?」

「正規でお金作ってる人とか……?」

本物と偽物のお金のプロって何だろうと考えた結果の、悠利のそんな答えであった。レレイは一応それで納得したらしい。本職の人なら解るのかなぁーと興味深そうに呟いている。実際に気づけるかどうかは、聞いてみないことには解らないが。

そんな風に雑談をしていると、他の店からもお金を確認してほしいという声がかかる。悠利は二つ返事で引き受けて偽金の有無を確認し、レレイとルークスはそんな悠利の護衛よろしく同行する。

予想外のトラブルに遭遇したものの、大事になる前に何とかなって良かったと思いながら、自分に出来ることを頑張る悠利なのでした。

なお、偽金を使用していた青年はきちんとお咎めを受け、被害に遭ったお店にはちゃんと補償がされるのでありました。お祭りにかこつけて悪さを働くのはよくありません。