作品タイトル不明
第59話 エルナside
彼と出会って私の生活は大きく変わった。
生活というより住む世界が変わったのだから当然とも言える⋯。
アヤネが規格外なのは昔からなのだが⋯それはあくまでも私の常識内では考えられないほどだからという理由だ。
しかし彼については本当に規格外という一言で片付けてしまっていいのかと思う事もある。
あちらの世界で暮らすようになって彼の異質さをより感じるようになった。
もちろん彼の『通販サイト』スキルは非常に稀有であることは理解している。
しかし、それを除いても彼は異質だった。
以前アヤネに聞いた事がある。
「アヤネ⋯もしかして彼ってこの世界においてはかなり優秀なんじゃ」
「うーん⋯転生者なのもあるけどそれを踏まえてもちょっと優秀すぎる位には」
身体能力においてはアヤネは彼に勝っているがそれ以外の能力に関しては勝てる気がしないそうだ。
「正直、私の転生特典が兄さんって言われてもおかしく無い位にはヤバイ人」
アヤネがここまで大きな事故を起こさずに生きて来られたのも彼の教育の賜物らしい。
「じゃなければ幼少期のうちに何人か殺してしまってたかも」
私達のいた世界の人の命は軽い。
下手すれば道端で肩が当たっただけでも命を落とす事もある位には⋯。
そういう世界で生きてきた私達にとっては他人の命など路傍の石と言っても遜色はない。
なんせ私達が魔王討伐に協力したのも好奇心が7割、人類が全滅すると困るからという義務感が2割で残り1割が使命感だった位には倫理観が破綻している。
唯一使命感をもって任についていたのはドランと勇者位だった気がする。
その使命感があったからこその勇者と呼ばれたのかもしれない。
他の四英雄のように自己の目的の為だけだったらあそこまで強くはなっていなかったのだろうと今では思える。
しかし、倫理観についてはアヤネも同じような物で身内以外はすべて意思の疎通が可能な魔物程度の認識だったに違いない。
幼少期から強大な力を持っていたアヤネは、下手すれば少し突っかかってきた人間はすべて敵として排除していた可能性が高い。
あちらの世界に渡る際に叩き込まれたのは人の命の重さである。
人1人が失われる事によって起こる事象を淡々と説明され恐怖を覚えた。
「価値観が違うのは仕方ないので人1人が死ぬことによって生じる事象を説明します」
と言われ人1人が失う事によって生じる経済損失、こちらに降りかかる不利益等などを淡々と説明された。
「命が尊いものだと盲目的に叫んでもアヤネは理解出来なかったのでこっちのが良いですよね?」
と軽い口調で言われたが、人1人の価値が低いこちらの世界においては全く想像もしなかった事だった。
彼の説明はすべて理にかなっている。
なぜならすべては損得勘定、以下に自分が不利益を被らないかにかかっているからだ。
「この不利益を享受出来ないほどの不利益が降りかかる場合のみ、正当防衛が許されます」
とあちらの世界では私達の力は規格外であり私達からすると一般人は虫程度の力しかないと思っててくださいと言われてしまった。
しかし、信じられないのはそれほどの力の差がありながら彼はこちらを恐れないのだ。
普通にはそれほどの力の差があれば恐れ、崇める、忌避するなどの行為があっても良いと思うのだが彼にはそういう感情は一切ない。
一度その事について尋ねてみたのだが⋯。
「アヤネが怖くないかって?ハハハ、意思の疎通が可能な相手を怖がる必要なんて無いですよ。本当に怖いのは話しが通じない奴なんで」
と笑いながら言っていた。
前世の彼の人生がどんなものだったのかは知らない、それでもこの胆力はとても興味を唆られた。
単純に頭が良いということだけで済ませるには彼の能力は高すぎる。
「一緒にいるとわかりますよ、力だけじゃどうにもならないんだなぁって」
こちらの世界で生きていくのに必要なのは圧倒的な力だった。
それさえあれば何不自由なく生きていける。
まぁさらに圧倒的な力には成すすべもないのが弱さなのだが⋯。
彼はその常識をひっくり返そうとしている。
彼と一緒にいるのは本当に面白い。
身の安全の為に彼と一緒にいると言われればその通りだが、私としてはそんな事は関係なく彼という存在がとても好ましくそして好奇心が抑えられない対象としていつの間にか見ていた。
彼が行った仕込みが今後どういう風になっていくのか⋯。
それを考えるだけでも興奮が止まらない。
あちらの世界に言ってすぐに私の耳のよさのせいでもあるのだが、彼がちゃんと男であることを知ってしまった。
こちらの世界では割と性は開放的な世界なので、一切そういう行為をする気配がなく男としての機能がないのかと心配していたのだがしっかりと男だったことを確認してしまい、少し異性としての興味も湧いてしまっている。
長く生きていたせいで自身の好奇心を満たせる対象が少ない私にとっては彼そのものが私の欲求を満たす塊になりつつあるのを彼を見ながら自覚していっていた。