作品タイトル不明
第50話 感謝
まぁ受け入れがたい事実なのはわかっているが信じてもらうしかない。
「転生とかいう事実をようやく受け入れたって言うのに今度は異世界だと?」
「あんたの事だからどうせ証拠はあるんでしょうね」
当然用意はしてあるのだが…。
「見て分かるかは知らないが、これは向こうでしか取れない鉱物だ」
そういって魔石を差し出した。
濃い紫色に光る鉱石なのだが、実はこっちの世界にも似たような鉱石自体はある。
色合い的にはアメジストにも近いので詳しい人じゃなければ区別はつかないかもしれない。
「さすがに鉱石には詳しくないから、見てもわからんな」
「私も加工後ならともかくこの状態じゃね」
「まぁそう言われると思ってさ。これを見て欲しいんだ」
そういって動画を見せる。
「これが俺の母と祖母に妹なんだけどさ」
若返りの薬を飲む前の2人の姿を見せる。
「若い…中身おっさんのあんたが一緒に暮らすのは犯罪じゃない?」
「そうだな、うらや…」
何やら司馬は不穏な事を呟こうとしてカナに睨まれて言葉を濁していた。
「それで今の姿がこれ」
そういって出発前に撮った動画を見せる。
「はぁ?妹ちゃんが2人になってるじゃない」
「違う違う、こっちが母親で、こっちが祖母」
「「はぁあ??」」
まぁ当然の反応である。
「若返りの薬ってもんがあってさ飲んで若返ってる」
カナが突然立ち上がり俺の肩を掴む。
「もしかして…持ってるの?」
「そういうと思ってな…持ってきたんだけど。ここは怪しいもんは持ち込めなかったからな下のフロントに預けてある」
「すぐに取ってきて」
「まぁ待てって2人はこんなの飲んだらまずいだろ」
そこでカナも冷静になったのか椅子に再度座り直した。
「私達が飲んだら世間に問題にあがるわね…」
「そういうこと…それにあるのは残り1本だけだ。次に作るのはかなり時間がかかる」
メイの血が材料なのでポンポン作れるかというとそういう訳ではないらしい。
メイ曰く…。
「魔力の大小に応じて必要量が変わるんですけど…消費魔力が多いのでこっちでは精製出来ないです…」
基本的に飲む人間の魔力に応じて血の量が変わるそうだ。
魔力無しのこちらの人間であれば少量の血で出来るそうだが…。
精製に大量の魔力を消費するのでこちらでは精製出来ない。
向こうの世界で作ったときも1日1本が限界だった。
ちなみに魔力量が多い四英雄が若返ろうと思うとほぼ体内の血をすべてに加えて1年位精製し続けなければいけないそうだ。
「狙われる訳だ…」
「まぁおかげで生け捕りしか意味がないので助かってるんですが…」
村で見つかった時に範囲魔法を使われていたら危なかったそうだ。
所変わってこれで交渉出来ればいいのだが…。
「まぁ在庫は1本限りだし使いたければ使ってもらっても構わないんだが、これが報酬という事で助けて欲しい」
「うーん…」
「うむ…」
2人は悩んでいる。
報酬が足りなかっただろうか…。
「すまん、法に携わる2人に不正を頼むのはさすがにまずいよな…無茶を言った」
頭を下げる。
「ちょっ!違う違う!そうじゃない」
慌てて頭を下げるのを止められる。
「あなたに頼まれた時点で断るって選択肢は無いのよ…ただその薬って例えば病気の人間にはどう作用するの?」
「病気?さすがに詳しくは専門家に効かないわからないな」
「そうか…」
「そう…」
2人とも悩んでいるようだ。
「病気の人がいるのか?」
「…」
2人とも微妙な顔を浮かべている。
「姪にあたるんだけどね…病気なのよ。まぁそこまで若い訳じゃないんだけど若年性アルツハイマー患っててね」
なるほど…そういう事か。
「正直、あなたの頼みであれば無報酬で喜んで協力させてもらうつもりでいたの…」
「だけど、こんなものを見せられたのでちょっと欲がでてしまった」
「そういうことなら使ってくれよ、お前たちの姪なら俺に取っても家族みたいなもんだしな」
「いや、だけど貴重なものなんでしょう?それにあなたから報酬を受け取るなんて」
「報酬が嫌っていうなら善意のプレゼントで良い。所詮この世界での価値は不確かなもんだしな」
2人は静かに押し黙り同時に頭を下げた。
「すまん…恩に着る」
「ただ、病気はどうなるかわからんからちょっと確認してからな」
後で合流した時に病気の症状も含めて確認しなければ…。
「戸籍の方はなんとかしよう…ただどうするにしても会わせて欲しいのだが…」
「そうね…正直検疫の問題もあるし…」
まぁその話が出るのは当然だ。
仕方ないのも理解している。
「悪いが検疫等で俺の手の届く範囲から離れるような話は了承出来ない。検疫については俺を検査する事で見逃して欲しい」
「それは…」
「難しいのは承知しているが2人とも体質が特殊でな、残念ながらそういった検査を受けさせる事は出来ない。悪いがこれが飲めないなら戸籍等も必要はない」
これは絶対条件だ。
あの2人の体質を考えると検査等で記録が残れば確実に事態が悪化する。
その上、こちらの世界でも危険に晒される危険性すらある。
そんな事をさせる訳にはいかない。
「覚悟が決まった顔してるな…わかった。会うのも難しいか?」
「2人は信用してるけどな、でも2人に付き纏う連中もいるだろ?正直会うリスクが高すぎる。リモート位で勘弁して欲しい」
「わかったわ…」
俺の想いが伝わったのか2人は了承してくれた。
「方法と手段は考えてこちらから連絡する」
と言ってプライベートの連絡先を教えてくれた。
そして俺はホテルのフロントにいって荷物を受け取ってからまた部屋に戻る。
「これだ」
と言って瓶を渡す。
「これが…」
カナが慎重に瓶を受け取る。
「病気に効くかどうかは置いといてそれはプレゼントだ。気にせず使ってくれ、病気についても確認が取れたら連絡する」
「本当にありがとう…まさかこんな立場になっても助けられるとは…」
「おいおい、助けたなんて大げさな。俺は栄養ドリンクをプレゼントしただけだ。気にすることじゃないさ」
こっちもこんな重鎮2人に感謝されるのはあまり気分が良いものではない。
「とりあえず、心配なら自分で飲んで確かめてもらっても良いが検査機関とかには回すなよ…」
これを回されたら大変なことになる可能性が高い。
「ええ、大丈夫。ハルトの事は信頼してる」
「ああ、そいつはもう死んだ名前だ。今はハヤトっていうんだ…今度からはそっちで頼む」
「「うーん」」
2人が難しい顔をする。
「なんだよ」
「いや、私達はハルトって呼ばせてもらってもいいかしら…やっぱり私達の中では恩人であるハルトだから」
「やめろ…照れくさいだろうが…はぁ仕方ないな。まぁ好きにしてくれ」
呼びたいというなら無理に変えてもらう必要はない。
ホテルの扉を閉めようとする。
「ありがとう、また私達に会ってくれて…」
とカナが言うと同時に頭を下げた。
本当に止めて欲しい目に涙が滲む。
旧友との再会を果たし、当初の目的は恐らく完遂出来た。
その足で電車に乗ってアヤネ達と合流した。