作品タイトル不明
174話 意外な提案でした!?
ベイロンは、宿の最高階にある広い特等室に俺を案内した。
応接間も備えた立派な部屋。
その中央にあるテーブルを挟んで、俺とベイロンは向かい合うようにソファに座った。
ベイロンはすぐにこう切り出す。
「今回……全て、お前たちがやったのか?」
「布告の取り消しの件か?」
「いや、それだけじゃない。このアンデッドの騒動を収めたことも含めて全てだ。イーリスの指揮のもと、フェンデル騎士団が王都奪還で活躍したという噂は聞いている。王冠もイーリスの協力者が奪ったとか……だが、実際はほとんどお前たちがやったんだろう?」
イーリスや王国人が何もしなかったわけではない。
だが、俺たちが考えた策ではある。
「手を貸したのは、事実だ……」
「やっぱりか。王国に手を貸したのは何故だ?」
「イーリスは俺の友人だ……といっても友人だから助けたというわけじゃない。友人が王になってくれれば、フェンデルにとってはありがたい」
「交渉がしやすいってことか。まあ、それは頷けるな。でも、どうして俺たちの布告なんかを取り消しにさせた?」
何の得があってそんなことをするのか、ということか。
「単純に、フェンデル同盟には亜人が多く集まっている。同盟外でも亜人が困っていれば今までも力を貸してきた」
「そして同盟に組み入れてきた」
「そういうことだ……つまるところ、俺たちがこんなことをするのは、お前たちにもフェンデル同盟に参加してほしいということだ」
ベイロンは、ははっと笑った。
「今までの話は合理的だと思ったが、お前はやっぱり感情で動いているんだな。俺たちを同盟に加えるってことが、どういうことか分かっているのか? お前がせっかく築き上げたイーリスとの話も、ご破算になるかもしれないんだぞ?」
「それでもかまわない。人間にも魔王軍にも頼れない亜人の砦。それがフェンデル同盟だ。そう言う場所があってもいいと思わないか?」
「否定はしないが……理解はできねえよ」
ベイロンはやはり首を縦には振らなかった。
もともと無理強いするつもりはない。
信頼を深め、いつか来てくれればいいという話だ。
「まあ、俺たちはいつでも歓迎する……それよりも魔王軍に、ヨモツという密偵がいたのは知っているか?」
「魔王の弟子の一人……そんな名前のやつがいたな。これだけの死霊魔法を使うのだから、普段は前線に出てこない幹部か弟子だと思ったが。この件は、ヨモツのせいなのか?」
「ああ。すでにヨモツとその子供を捕らえた。皆、人の姿と狐の姿を持つから、俺たちは狐人と呼んでいる」
「一族で動いていたってことか? しかし、子供を前線まで連れてくるとはな。弱みを晒しているようなもんじゃねえか」
「その件に関しては、リーセを野放しにしているお前も何も言えないと思うが……」
「言うなよ……」
しかし、とベイロンは不審そうな顔をする。
「魔王の弟子がどうして、自分と子供だけで来るか?」
「いや。もう一人、キュウビという男が北にいるらしい。こいつも、ヨモツと同じ狐の面を被っていた……」
「そいつも魔王の弟子だ。だが、ますます妙だな」
「妙?」
「魔王軍の本隊が、何故今回呼応しなかったということだ。王国や近隣諸国に攻めてきた話は聞いていない」
「それは俺も妙に思っていた。フェンデル村からは、毎日南からの連絡がやってくる。だが、不気味なぐらいに魔王軍はやってこない」
「とすると、そのキュウビとヨモツっていうのは、ひょっとしたら魔王に内緒で北までやってきたんじゃねえか?」
ベイロンの言葉に俺ははっとする。
「……ヨモツは魔王に返還されることを非常に恐れていた。魔王に無断で動いていたとしたら」
「独断専行。勝てばお咎めもないかもしれないが、負ければ恥ずかしいとかいう話じゃねえな」
魔王に渡したら、ヨモツは殺されてしまうかもしれない。いや、自分だけで済めばいいが、家族がどうなるか分からない。
だからヨモツは子供たちを連れてきたのかもな……
ベイロンは少し考えた後、こう切り出す。
「よし……じゃあ、ヨシュア。そのキュウビってのは俺に任せろ」
「お前が捕まえるのか?」
「ああ。人に売るのも、魔王に売るのも高く売れるだろう」
「そりゃそうだろうが……」
「だが、俺はお前に売ってやる」
「え?」
意外な申し出だった。
いや、俺たちがそれなりの金を持っていると考えてか。
それとも、亜人の居場所を作りたいという俺の話を聞いてくれてか。
「俺としては、問題ない。もしそうしてくれるなら、幻覚を治すポーションも提供できる。キュウビというのは、死霊魔法ではなく、幻覚魔法を得意としているみたいだからな。金や宝石も満足できる量を用意できるはずだ」
しかしベイロンは首を横に振った。
「金はいらん……ポーションは正直助かるが、今回の恩もある。それはいらねえ」
ベイロンは真剣な眼差しを俺に向ける。
「そうじゃなくて、ヨシュア……ネイアとリーセ、そして子供たちをお前の村に連れていってくれ」
「ベイロン……」
心中ではやはり、ベイロンも安住の地を求めていたようだ。
だが、グランク傭兵団全体が同盟に加わることで、同盟が人と魔王軍から忌避されてしまうかもしれない。さっきベイロンが言っていたように、イーリスとのやり取りがご破算になる可能性はある。
しかし、子供たちだけ同盟に参加し、自分たちは悪名を背負ったまま戦い続ければ……同盟にそこまで迷惑はかからないということか。
「何度も言うが、俺たちはいつでも歓迎する。しかし」
そう言いかけた時、扉がばたんと開き、ネイアとリーセが床に倒れる。
「ネイア、リーセ!? 風呂に入ったんじゃ」
「ち、父上! 私は行きません!」
「私も! お父さんを残してなんていかない!」
二人は目に涙を浮かべながら言った。
その後ろには、エクレシアやユミルたちもいる。
俺たちの話を聞きつけてやってきたのだろうか。
「二人とも……駄目だ。お前たちがいると、仕事にならねえ。お前たちは、ヨシュアと結婚してそこで暮らせ」
俺とネイアは「はっ?」と声を揃えた。
「私にこのひょろひょろの妻になれと!?」
「あれだけたくさん結婚しているんだ。お前ともきっとうまくやれるだろうよ」
ベイロンがそう言うと、リーセは口を開く。
「私はヨシュアお兄ちゃんだったら結婚してもいい! 優しいし、色々作ってくれるもん!」
「り、リーセ! 結婚相手はそう軽々しく決めるもんじゃない!」
必死に喋るネイアに、俺も慌てて口を開く。
「べ、ベイロン! なんか勘違いしているかもしれないが、イリアたちは別に!」
「ええ。皆、ただの婚約者ですから」
イリアの声が隣から響いた。
いつの間に、本当にいつの間にかイリアは俺の隣にいた。
一瞬の出来事に、その場にいる誰もが沈黙する。扉の近くにいたエクレシアたちですら、いつ通ったと目をパチパチとさせていた。
イリアはにっこりとほほ笑む。
「私たちとしては大歓迎ですよ。家族は多い方が楽しいですから」
「イリア……前から言おうと思っていたが、突然現れるのはやめてくれ……と、ともかく」
俺は声の調子を整えて言う。
「俺たちはいつでも歓迎する。だけど、それはフェンデルに加わりたいという意思がある者たちだけだ」
それを聞いたネイアが口を開く。
「私とリーセは……父上についていきます。どんなに頭の悪い父でも……私の父ですから」
「リーセも! お母さんもずっと見てくれているから!」
リーセはベイロンに近寄ると、俺たちも修理に協力したブレスレットを渡した。
「リーセ……」
ブレスレットを見て、ベイロンは後悔するような顔をする。
今までの自分のやり方を、反省しているのかもしれない。
「お父さんと行ったところで集めた石を使ったの。もう壊さないで」
「ああ……約束する」
ベイロンは頷くと、ブレスレットを持ったその手でリーセの手を握った。
「……ヨシュア。行きたいやつは連れていってくれないか? 実は、結構なケガをしているやつがいる」
「もちろんだ」
「ありがとよ……俺はもう少し、傭兵団として戦う。だが、やり方は改めるつもりだ。それからでも……俺たちを受け入れてくるか?」
そのベイロンの言葉に、ネイアとリーセは顔を合わせて喜ぶ。
やり方を改める……つまりベイロンはこれから悪名の付くことをやめ、慕われるような行動を取るということだろう。
無理ではないはずだ。
現に、俺たちフェンデル同盟は王都の人々の信頼を得た。ベイロンたちも民衆に手を出すような者じゃない。
俺とイリアは顔を合わせると一緒に首を縦に振った。
「いつでも歓迎する」
その言葉にベイロンは「頼む」と深く頭を下げた。
この後、グランク傭兵団から虎人を預かることとなった。深い傷を負ったりして、不自由な生活を強いられている者たちが三十名ほどだ。
だが、これではあまりにも急な別れになってしまう。そこで、グランク傭兵団はその晩、宴会を催すことにした。俺たちもそれに合わせ、フェンデル村への帰還を翌日に延期した。
そして俺たちも、ある物を振舞うため、宴会に参加させてもらうのだった。