軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

101話 実ってました!?

俺はフェンデル村に向け、馬車を走らせていた。

早朝にソルムたちの砦ヴァースブルグを出て、今は街道と村の間にある森の中だ。もう地平線近くの空がうっすら赤く染まっている。

本当だったら村まであと三十分はかかっただろうが、もう十分もあれば帰れるだろう。

本来は馬車では通れない森の中なのに、俺たちは馬車を進められているからだ。

「エントたちはこんなこともできる」

メルクは感心したように馬車の上で言った。

俺たちの前にあった木は、まるで道を開けるかのように移動していった。木でできたトンネルは、なかなかに幻想的だ。

イリアもそれに頷いて言う。

「本当にすごい! さすがエクレシアさんですね」

前を歩いて進む緑色の長髪の女性──エントのエクレシアは振り返って言う。

「たいしたことではないさ。木を伐り除去するより、移動させるほうが私たちも得意だからな。ヨシュアも木を伐るより、こちらのほうがいいだろう?」

「そうだな。道を作れば、人間や魔王軍に攻められやすくなる。森は天然の城壁みたいなものだ」

ソルムたちとの交易を考えると、街道から村までの道路はあったほうがいい。

だが、ソルム以外の人間や魔王軍にその道を利用される可能性もある。やはりフェンデルは森によって囲まれていたほうがこちらも安全だ。

再び歩き出すエクレシアに、メッテが荷台から声をかける。

「そんなことより、エクレシア。なんで来たんだ?」

「わ、私はたまたま森の整備をしていただけだ。ヨシュアの言ったように、森はフェンデルにとって重要だからな。木々の様子を見ていたら、お前たちが街道からやってくるのが見えただけだ」

メッテはエクレシアに疑うような目を向ける。

「それにしては、タイミングが良かったような。私たちが森に入ろうとしたら、すっと現れたし……」

「エクレシアもヨシュアのことが心配だっただけ。というより、それを言ったらメッテもアスハも一緒」

メルクの指摘に、メッテは顔を赤くする。

「ち、違う! 私は今朝も言ったがただ魔物たちの動向を!」

「断じて私たちは私欲のためには動きません」

アスハも断固としてそう答えた。

「まあまあ、皆。結果として、みんな無事で、しかも早く帰れたんだ。よかったじゃないか。それに、村には十分な防備が整っている。そもそも仕事の割り当ては、一族の長老たちがやってくれているんだ。過剰な心配は無用だ」

「そうですね。相手が話せる者の場合、こちらからは仕掛けない。見たこともない者や生き物を見たら、ともかく皆城壁の内側に逃げるように──子供まで、皆覚えています」

イリアの言葉に俺は頷く。

堀を備えた城壁もあるし、高い塔や櫓もある。四方には天狗やスライムたちの偵察隊もいる。防衛体制は十分に整っているのだ。

だから、心配することは何もない……そう思った矢先、

「メッメー! 大変っす! めっちゃやばいっす!!」

叫んだのは、どかどかという足音を立て、前から近づく毛玉だ。

あれはモープのセレスだ。

昨日毛を刈ったはずだが、もう毛が伸びている……さすがモープだな。

メッテは呆れた様子で言う。

「やばいじゃわからんぞ、セレス。どうしたんだ?」

「そ、そうすっね。やばいの畑っす! 畑がやばいっす!」

「畑? カラス……アロークローでも現れたか?」

「そうじゃないんっす! 危険とかじゃないんっすが……とにかく来て欲しいっす!」

セレスは「メッメー!」と叫びなら、来た道を駆けていく。

「ちょうど畑をどう拡大しようか考えていたところだ。暗くなる前に一度見に行こう」

俺たちはセレスの後を追って、畑に向かった。

森を抜け、城壁を横目に南へ走り、川沿いに設けられた畑を目指す。

植えたのはグランク麦と魔王カブ。もしかしたら、カブが実ったのかも? もう少しで、埋めて一か月ぐらい経つ。少し早いぐらいだけど、エントの植物の成長を促す力もある。

そう考えていた俺の目に見えてきたのは、

「これは……!」

金色の絨毯──川沿いには、夕日を受けて金色に輝く小麦畑が広がっていた。

俺は思わずその美しさに息を呑み、馬車を止めてしまう。

イリアやメルクたちも、目を輝かせて小麦畑を見ていた。

「綺麗……」

「……葦? 見たこともない」

メルクの言う通り、葦原かとも思った。

だが、あの場所は間違いなく、グランク麦が植わっていた場所だ。

俺は恐る恐る、エクレシアに顔を向けた。

「あんな、育っていたか? ……エクレシア?」

エクレシアも呆然と立ち尽くしていた。

「ど、どうして? あれは麦の一種のはずだ。今朝は穂すら出ていなかったはず……」

どうやら、エントのエクレシアからしても予想外の出来事だったようだ。

俺はグランク麦をくれたグランク傭兵団のベイロンの言葉を思い出す。少しの水で強く育つ、収穫に困るぐらいになると、ベイロンは口にしていた。

グランク傭兵団は、もともと砂漠地帯を故郷としていた虎人たち。

つまり、グランク麦は砂漠ないしはオアシスで育てられていた作物なのだろう。食料確保が難しい土地だから、成長が早まるよう品種改良されていたのかもしれない。

そんなグランク麦だから、このフェンデルの土壌とエントたちの成長促進の力が合わさって、ここまで早く育ったのだろうか。いや、いくらなんでも早すぎる気がするけど……

俺はともかく馬車を小麦畑に近づけた。

普通の小麦畑よりも、もっと光沢がある。本当に金糸で編まれた絨毯のように見えた。

馬車を降り近くで見ると、そこにはしっかりとした実が実っている。

風が吹くと、小麦の確かな香りが漂ってきた。

「いい匂い……」

メルクはすうっと大きく息を吸う。他の皆もそれを真似した。

匂いからしても、もう十分食べられるほどに成長しているようだ。

小鳥がついばんでいるのを見るに、毒などもなさそうだ。

「これならパンが作れるな」

「ヨシュアが砦で食べていたやつ? 意外にもちもちしてて美味しかった」

メルクの問いに俺は首を縦に振る。

「ああ。砦のは保存用の堅焼きだったが、焼きたてはもっと柔らかい。美味しいぞ」

「そのパンというのはよくわからんが、この香りだ。きっと美味しい食べ物だろう。私も食べてみたいな!」

メッテが言うと、セレスも「パン、食べたいっす! ごちそうっす!」と声を上げた。モープはパンを知っていたか。魔王軍は粗末な食事ばかりと言っていたので、パンはたまのごちそうだったのだろう。

「……よし、この麦を収穫しよう。もっと麦畑を広げるだけじゃなく、ヴァースブルグでもらった作物も植えて……でも、今日は」

俺の声に、イリアは微笑んで頷く。

「とてもきれいな景色です。今日は夜になるまで、この畑を眺めてませんか?」

「そうだな」

俺たちは斜陽の中、風に揺れる小麦畑を目に焼き付けるのだった。