軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第90話】ゼッタの大戦⑤ 原因

「合計4万だと!? ありえん!」

指揮官が集まる部屋に、第四騎士団の部隊長の一人の怒声が響く。攻め手のゴルベルの総数は4万。この事実にみんなが顔色を変えた。

「しかしゴルベルの国力からすれば、総兵力は5万ほどのはずだぞ!? かの国に送った密偵が、偽情報を掴まされていたのか!?」

別の部隊長の疑問を、即座に否定したのはサザビーだ。

「それはありえません。ゴルベルに潜入している多数の密偵の情報から、王都首脳が導き出した数字です。そこまで大きな差はないはずです」

「しかし、それでは総兵力5万のうちの4万をここに差し向けたことになる。正気の沙汰ではないぞ!?」

「1〜2万は別の国の援軍ではないか!?」ある部隊長がそのように言えば、

「いえ、それも考え難いです。それほどの大部隊が援軍で来れば、それこそ密偵から一報があるはずです」と、再びサザビー。

思い切った、というレベルではない。もしここで大敗を喫すれば、ゴルベルという国は一気に滅ぶ可能性すらある。驚くのは当然である。

けれど、僕は知っている。この大軍勢は雪の降る直前のこの時期だから可能な策だったのだ。雪が積もれば、退却時の追撃は一気に難しくなる。天候次第では追いかけた方が孤立しかねないからだ。

実際にこの戦いが両軍に大きな犠牲を出しながら両者痛み分けに終わったのは、戦の最中、本格的な冬がやってきたからである。

ゆえに雪が本降りになるまでのわずかな時間を利用した、超短期決戦だから思いきった動員ができた。それでもとんでもない策ではあるけれど。

狙いはここ、キツァルの砦。キツァルの砦を取ることができれば、ゴルベルは今後の戦況を優位に進めることができる。

ゴルベルとしてはキツァルの砦か、南の要衝であるリーゼの砦、可能であればその両方を手に入れたかったのだと思う。

と、ここまで考えて僕はようやく気づいた。

僕の知る歴史ではハクシャの戦いで第六騎士団が負け、第六騎士団はリーゼの砦に籠ることになった。籠ることになったということは、そこを攻めている軍勢があるということだ。

僕らはハクシャで勝利を収めたとはいえ、撤退したゴルベルの兵の損失はそれほど多くない。

本来の歴史であれば第六騎士団とリーゼの砦で戦闘中のはずの兵が、こちらへ回されたのと考えれば想定外の兵数にも納得がいく。

僕が歴史を変えた結果、現在僕らを窮地に追い込んでいる。皮肉な話だけれど、だからと言って、僕はあの時の選択を間違いだとは思っていない。なら、なんとかするしかないのだ。

「ゴルベルの狙いは分からんが、このままでは第10騎士団は南の砦を守らざるを得ないだろうな。そうなると援軍なしで、キツァルの砦はここにいる7千が、2万の兵を引き受ける必要がある。仮に援軍が見込めたとしても、第10騎士団、第二騎士団ともに、合流まで時間がかかると見た方が良い。どうしたものか、、、」

ボルドラス様がうめく。守備に定評がある第四騎士団とはいえ、援軍なく3倍近い敵兵を押し返すのは正直言って厳しい。籠城とは援軍を見込むからこそ有効な手段だ。

僕の知る未来で、3万の兵を相手に数日間第四騎士団がこの砦を守り抜けたのは、第10騎士団が援軍に来ることが分かっていたからこそ、耐えられたという側面もある。

レイズ様がどのように動くかはまだ分からないけれど、南で攻められているシュワバの砦は小さい。それこそ第10騎士団が後詰めしなければ、あっというまに陥落するだろう。

シュワバの砦が落ちれば、そちらから1万のゴルベル兵がルデク領内になだれ込むことになるのは明らかだ。レイズ様はシュワバの砦の援護に回らざるをえないように思う。

ならば、やはり援軍は見込めそうにない。

「これから別の援軍を呼んではいかがか?」

「どの騎士団へだ? どれだけの時間がかかると思っている?」

「ではリーゼの砦にいる第七騎士団に、ゴルベル南部へ攻め入って貰うのはどうか?」

「いや、それは危険だろう。状況もわからないまま攻め込んで罠だったらどうする? そもそも今から第七騎士団へ伝令を放ち、第七騎士団が出陣するまでにどれだけの時間がかかるのだ?」

様々な意見が指揮官の間を飛び交い、その都度問題点が上がる。

「ならばリフレア神聖国へ援軍の打診をすれば!? ここから近いだろう!」とある部隊長がそう言ったけれど、残念ながらそれは無理だ。

これは別にリフレアがルデクを狙っているからではない。リフレア神聖国とゴルベルの関係性によるところが大きい。

元々ゴルベルはルデクともリフレア神聖国とも、加えて言えばゴルベルの西方にある2国とも比較的友好的に付き合っていた国だ。言い換えればゆるい同盟関係にあったと言っていい。

ゴルベル自体それほど強国ではないためどの国にも強く出ることはなく、良くも悪くも目立たぬ国という印象だった。

それが急変したのは帝国の侵攻にある。帝国がルデクと開戦し、ルデクが帝国にかかりきりになると突如宣戦を布告したのである。

兵力を帝国方面に集中しており、完全に虚を衝かれたルデクは、キツァルの砦を一時的に占拠されると言う苦境に陥った。

この時ルデクがとった戦略が、ルシファル率いる第一騎士団を差し向けることだった。王都の守りを捨てて、ゴルベルを追い返すことを選択したのである。

この策は功を奏し、第一騎士団は見事にキツァルの砦を奪還、ゴルベルの兵を追い返すことに成功する。

この一件により、ルシファルはレイズ様と並んで”ルデク王国の双頭”などと呼ばれるようになるのだ。

ルシファルのことはともかく、元々友好関係であったゴルベルとリフレア神聖国。

リフレア神聖国はルデクとの同盟に関して、対帝国では軍事的な協力も惜しまないとしたけれど、ゴルベルとの関係については和平を求めた。

ゆえに、リフレア神聖国は対ゴルベルに関しての出兵は非常に消極的であり、ほぼ中立の立場をとっているのである。

そのような同盟国など同盟国と呼べるか微妙なところだけど、東西から攻められたルデクには、リフレア神聖国と組む以外の選択肢がなかったのだから仕方がない。

「ロア殿はどう思われますか?」

不意にウィックハルトから声をかけられて思考の海から戻ってみれば、ウィックハルトの言葉に反応した将兵が一斉にこちらに注目するのが分かった。

僕は「3日、いえ、4日間だけ耐える方法を考えましょう」とみんなに聞こえるように言う。

「4日? 4日経つと何が起こるのかしら? 援軍の見込みでも?」ホックさんが代表して聞いてくる。

援軍といえば援軍がくる、それも強力な将軍が。

冬将軍が雪の精霊を従えて。

「多少前後するかもしれませんが、多分、雪が降ります。本格的な積雪になります。そうなれば敵も退くしかありませんから」

僕の言葉に、皆が一瞬ポカンとするのだった。