軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第75話】災難の日⑤ ルファの事情

僕の起こした火は、煙で誘拐犯の視界を遮るためのものじゃない。それはあくまで副産物。

これは目印で、合図。

「思ったよりも早いなぁ」

僕の視線の先、ゲードランドの方から土埃が上がっている。

「、、んん? 、、、多いな、、、」

いや、ザックハート様のこと、煙を立てれば異変を嗅ぎ取ってやって来るとは思っていたけれど、え? 1000騎以上はいるんじゃないの?

「何あれ? 戦でもするつもり?」

呆気に取られている僕の後ろから、ラピリア様の声がした。振り向けばラピリア様は、麻袋から顔だけ出したルファを抱えている。ルファは口にまだ猿轡を噛んでいた。

「ルファ! 大丈夫!?」

「むー!」

猿轡をされたままのルファだけど、元気そうな声と表情に胸を撫で下ろす。

ラピリア様とルファの背後、混乱している誘拐犯供も土煙に気付いて逃げ出そうとするのが見えた。

僕は咄嗟に、「ザックハート様! ルファを救出しました!」と叫ぶ!

僕の声が届いたのか、巨馬に乗ったザックハート様が「ぬうん!」と一声、自分の持つ槍を誘拐犯の集団に投げつけた。

宙を舞う巨大な槍は慌てる誘拐犯の一人に直撃し、貫かれた男は弾け飛んだ。文字通りの四散爆発である。衝撃で周辺の誘拐犯も地面に投げ出され、さらには投げ出された誘拐犯は仲間の馬に踏み潰されて、阿鼻叫喚の様相を呈している。

「後はべイリューズに任せる。全て捕らえよ」僕らの近くまできたザックハート様は、そのように指示して減速。

「リーダー格の男は右腕がないわ! 私が斬ったから! そいつだけは必ず生かして捕らえて!」

「承った!」

統制の取れた集団は一斉に、30人の誘拐集団、、、正確にはウィックハルトの矢とザックハート様の槍であと20人ほどになった誘拐犯達へ襲い掛かる。

少なく見積もって1000対20。騎士団対素人。誘拐犯に勝ち目など存在しない。

絶望に崩れ落ちる誘拐犯もいる中、彼らはなすすべなく第三騎士団の波の中へと消えていった。

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「おお、無事だったか! ルファ!」

「うん! びっくりしたけど、大丈夫!」

再会を喜ぶ孫とおじいちゃん。

誘拐犯は予想通り、ルファを狙ってあの騒動を起こしたようだ。ラピリアに腕を切られた男が一人で計画して、裏町で仲間を募ったらしい。

「高く売れる娘がいる。俺には伝手がある。山分けにするから手伝え」と。

高く売れる伝手、、、、、逃げる先は北、、、、ラピリアは何か知っているようだけど、、、

「、、、、話してもらえるのだろうな?」

ザックハート様が厳しい視線をラピリア様に向ける。

「ルファ。いい?」

ラピリア様はルファに視線を向け、ルファが小さく頷いた。

ゲードランドの街に戻ってくると、街は喧騒の最中にあった。第三騎士団が本腰を入れて裏町の一掃を行なっていたのだ。

何事かと集まる観光客や商人たちも、ルファを抱えたザックハート様が現れると慌てて道を空ける。

そうして第三騎士団の詰所に戻った僕ら、少し落ち着いたところで、ラピリアがゆっくりと口を開いた。

「ルファは、リフレア神聖国のとある神官の養女になる予定だったの、、、」

ルファは南の大陸のとある国の中級貴族の生まれ。その家の長女ではあったけれど、母を早く亡くし、父は新しい妻を迎え、新しい妻との間に2人の子を成した。

ルファと継母との折り合いはあまり良くなかった。

そんな中でリフレア神聖国の神官が、サルシャ人の養子を希望しているという話が持ち込まれる。

北の大陸へ渡れば、もはや再会する機会はないだろう。父は難色を示したが、妻は強く賛成した。そんな妻の様子を見て、ルファがこのまま家にいても、幸せな未来が見えないかもしれない、それならば良い家に行った方が、、、、と、養子縁組を了承する。

そうして北の大陸へやってきたルファ。ところが、ルデクとリフレアの国境付近で賊に襲われる。

そこをたまたま任務で通りかかった第10騎士団が助けたというわけだ。

「ん? では、リフレアの神官へ送り届ければ良いのではないか?」ザックハート様が首を傾げる。

「本来ならばそうなのですが、、、、」ラピリアは再びルファに視線を走らせる。

ルファは先ほどと同じく、小さく頷く。

「リフレアは同盟国。ここからは噂の域を出ない話です。他言無用をお約束いただけますか?」

「、、、、無論だ」

「リフレア神聖国の神官が南の大陸から養子を取る。実は同じような話で、黒い噂があります。リフレアの一部の狂信者が、サルシャ人を”生贄”にしていると言う」

「、、、生贄?」ザックハート様の表情がより険しくなる。

「我が第10騎士団は他国出身の新兵を積極的に受け入れています。その中からリフレアの市民の中で密かに広まっている噂がもたらされました。曰く、南の大陸から来たサルシャ人には近づくな。必ず野盗に襲われる、と」

「、、、つまり、養子が決まったサルシャ人は必ず野盗に攫われると?」

「はい。そしてその後の行方が分かることはない」

「たまたまと言うことはないのか?」

「わかりません」

「分からぬ?」

「ええ。ルファの場合はたまたまルデク領内で起きたので私たちが助けましたが、リフレアに入った者たちのことは分からないのです。あくまで、リフレアの市民の間でそのように言われていると。ただ、純血主義者という者たちのことは聞いたことはありますか?」

「うむ。古い考え方だな。ガロード人の血を継ぐ者こそが真の大地の民だと言う。しかし今時ほとんど聞かぬ考えだ」

「その考えの者たちは今も確実に存在しているようなのです。そして、彼らは自分達の信じる神に、異種族を生贄に」

「そのようなことがこの現代に?」

「全てはレイズ様の予測に過ぎません。けれど、さまざまな情報を集めたレイズ様が、このまま引き渡すのは危険と判断したのであれば、私は事実であると信じます」

ラピリア様が言い切り、ザックハート様はシワを深くする。

「、、、、確かにあのレイズが、なんの根拠もなくそのようなことを言い立てるとは思えぬが、、、」

「あ! だから誘拐犯は”高く売れる伝手がある”って言ったのか!」2人の会話に僕が口を挟んだ。

「そう。仮に養子のサルシャ人を道中で誘拐するまでが決まっていることだとしたら、狂信者が欲しいのは”誘拐された”と言う事実ね。後はどこでどうなろうと、神官は知らぬ存ぜぬで通すことができる」

「けれど、本当は誘拐されたと見せかけて、誘拐犯から引き取って、生贄にする、、、、そして、今回の誘拐劇を企てた男は、第10騎士団に蹴散らされた賊の生き残り…」

「そう考えれば、北に逃げたのも、買い手云々という話も意味が通ると思わない?」

「反吐が出るようなやり方であるな」ザックハート様が吐き捨てる。

まったくふざけた、そして人をバカにした話だ。

ふとルファを見れば、彼女は何かを達観したように、静かに僕らのやりとりを眺めていた。