軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第336話】フェマスの大戦22 ひと匙の吉報

「、、、、なぜだ?」

サクリは絞り出すように呟いた。隠し砦にはもうほとんどの兵士が残っていない。サクリと共に部屋にいるのもムナールだけだ。

ムナールは話しかけないと大抵黙っているので、サクリの独り言は虚しく部屋に溶ける。

仕掛けは全て上手くいった、にも関わらず今、戦況は互角。それがサクリには気に食わない。隠し砦から見下ろせるような場所で、なぜ、激戦が繰り広げられているのだ? 本来であればすでに、ルデクは撤退を開始している頃のはずなのに。

勢いはルデクにある。それは認めざるを得ない。だが、あやつらの兵の疲弊を考えれば、まだ充分に勝機はある。サクリは不満を漏らしながらも、冷静に状況を判断してゆく。

何かもうひと押ししてやれば、ルデク兵の戦意をくじくことができれば、そこから形勢は一気に定まるだろう。

そのためには何が必要か? 仕込んだ策を使い切った以上、さらに新たな何かを生み出すしかない。

「、、、ムナール、南西の戦いはどうなっておる?」

ルデクの第七騎士団が壊滅に近ければ、そちらの余剰兵を北の戦場に動かすこともできる。或いは大きく迂回させて敵の背後をつくか。

西の戦場は兵の質と士気の差で、序盤こそ苦戦を強いられると読んでいたが、最終的には数で押しきれているはずだ。それだけの人数を投入している。

しかしムナールの返答は芳しくない。

「未だ一進一退。いえ、少々こちらが不利のようですな」

「なぜか? 兵数では圧倒しておる筈だが?」

「後詰があったようです」

「後詰? ルデクの隠し兵か?」

「いえ、どうも敵の傷兵が次々に戦線に復帰しているようで。その都度敵の士気が上がっていると」

この時、第三騎士団の兵士を中心に、ルファたちに治療を受けた兵士は、動けるものから次々に第七騎士団の支援に向かっていたのである。

これはネルフィアの指示によるものだ。ネルフィアも無理に出陣させるつもりはなかったのだが、兵士たちが自主的にロアたちを追いかけようとしたため、状況を考えれば第七騎士団の支援に向かわせた方が良いという判断。

同地にはロアから守備を任されていたヴィオラ隊長もいたが、彼女は肩書きで言えば第八騎士団の騎士団長である。現場の指揮権はロアより預かっていた。

尤もロアは「危なくなったら撤退の指示は任せるよ」という意味合いで、ネルフィアに任せたのだが。

結果的に第七騎士団の元にはそれなりの兵士が援軍に向かい、第七騎士団は勢いづき、リフレア軍を押し込んでいた。

対するリフレア側は現在、当該の戦場に兵を回す余裕がない。士気も下がる一方。当初あった圧倒的な数的優位は、既にその差がほとんどなくなっているような状況であった。

「あれだけの兵士を投じておいて、、、」

ムナールの言葉にサクリは小さく舌打ち。それから部屋の窓に歩み寄ると、下方に視線を落とす。

今、残った両軍が、総力を上げて激突している戦場である。数の上ではリフレアの旗が多く見えたが、予断を許さぬことは遠目からでも嫌というほど伝わってきた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「副団長!!」

「ヴィオラさん!」

後方で戦況を見守っていた僕の元に、ラピリア達と後方守備を交代したヴィオラ隊が到着した。

「状況は?」

挨拶もそこそこに、聞いてくるヴィオラさん。

「なかなか突き崩せずにいます」

「第二騎士団と第三騎士団をもってしてもですか?」

「こちらは手負いですし、向こうも必死です」

状況の厳しさから、既にリュゼル隊も投入している。

本隊はフレイン中隊のもう一部隊、ラスター隊のみが残っていた。

「ロア、ヴィオラ隊長が来たなら、ここは任せて俺たちは出るぞ。いいか?」

会話に割って入ってきたフレインが聞いてくる。

「ああ。頼むよ。ヴィオラ隊はフレイン隊と交代で本隊としてここに」

「承った。フレイン、武運を」

「はい。あとは任せます」

ヴィオラさんと握った拳を当てたフレインは、すぐに踵を返すと槍を前方へ付き出した。

「ラスター! フレイン中隊、出るぞ! まずはリュゼル隊と合流を目指す!」

「はっ!」

僕はフレインの背中を見送りながら考える。互いに満身創痍の総力戦になっているこの戦場、あと一手、何かがあれば一気に決着がつきそうな状況だ。

その一手を掴み取るのは、僕らか、、、、それともサクリか。

一瞬、北の空を見る。そして僕は頭を振った。運を天に任せている場合ではない。そんな暇があったら、決着をつける一手を探し出せ!

気合を入れ直して再び戦場を睨みつける僕に、ヴィオラさんが「そうだ、忘れるところでした」と声をかけてきた。

「何かありましたか?」

「あの新兵、レニーは無事です。一命を取り留めましたぞ」

そのささやかな報告は、運命の天秤を傾ける、ひと匙の吉報であったのかもしれなかった。