軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第33話】奇人、ドリュー

天才、ドリュー。

表向き、彼女をそう呼ぶ人間は多い。ただし、少しの嘲笑を含んで。

彼女はある商家の次女として生まれた。港街、ゲードランドでも有数の屋号で、僕でも名前を知っているほどの家だ。

文字通り箱入り娘であるはずの彼女だけど、彼女の興味はまだ見ぬ良家の子息ではなく、自分の店が扱っている商売の一つ、造船業へと向けられることになる。

特に工作に強い興味を持ち、一枚板から船の模型を作るなど、幼少から非凡な才を発揮したらしい。

けれど大商家の次女としての役割は一切省みなかった事により、父親と言い争いの末に実家を飛び出し文官へと仕官。

商売と造船に関する知識を買われての採用だったので、当初は海軍への配属だった。

だけど、ドリューは次第に暴走し始める。造船そっちのけでおかしなものを次々と作り始めたのだ。彼女の興味は造船にあったのではなく、”創る”という行為そのものにあった。

おかしなものを作るなと注意しても全く改めない彼女に、ついには海軍の上役も匙を投げて、配属を決めた王宮へ突っ返してきた。

本来であればこのまま彼女のキャリアは終わるところだが、王都に戻ったドリューに目を付けた者がいる。レイズ様だ。

レイズ様は彼女の作る工作に興味を持ち、実際に使えるレベルに落とし込んで実戦に採用し、一定の戦果を上げてみせたのである。

これをきっかけに彼女の評価は改められて、現在は兵器部門に籍を置いている。

ちなみに、この兵器部門、人員は彼女一人であり、別に兵器ばかり作っているわけでもない。好き勝手に作りたいものを作っているだけだ。つまり、レイズ様がドリューのために作った部署なのである。

一名の部署とはいえ、まがりなりにも部門のトップであり、文官も参加するような会議には駆り出される。

基本的に頭の回転は恐ろしく速いし、商家の娘らしく数字にも明るい。さらに発想の柔軟さで会議では想像以上に有益なことを言ったりするので、周辺からは「扱いづらいがたまに役に立つ奴」として、なんとなく放置されている。

つまりこの場合の”天才”とは、”理解できない奴”という意味が多分に含まれているのである。

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「それで、なんなの? 自分、暇じゃないんだけど?」

この場にはレイズ様も、つい先日まで第六騎士団長だったウィックハルトもいるのに、不機嫌そうな表情を隠そうともしない。

これがドリューの平常運転だ。

「まぁ、そう言うな、ドリュー。お前にも興味深いものが見られると思うぞ」とレイズ様がなだめる。

現在この場所、瓶詰めの秘密研究所である王宮の予備の調理場に集まっているのは、僕ら瓶詰めのメンバーと、ウィックハルト、ドリューに加えて、レイズ様とラピリア様。

今日はドリューとウィックハルトに瓶詰めをお披露目するために集まったのだ。

ドリューは街道整備の力になってくれるかもしれないため、ウィックハルトは僕の側近となったため、秘密にしておくわけにはいかないからだ。

ゼウラシア王からきちんと許可を取るのに数日かかり、本日、満を持して集まってもらった。

「ウィックハルトとドリューに見てもらいたいのはこれなんだけど、、、」僕が瓶詰めを2人に手渡すと、ウィックハルトは不思議そうに掌にのせ、ドリューは摘むようにして瓶底を覗き込む。

「これは、、、、」「多分、保存食ね、これ。中に入っている液体は何? どのくらい持つの?」

僕が口を開くよりも先に、ドリューが特定する。

「中に入っているのは水だよ。どのくらい持つかは今、実験中。ドリューが持っているのはもう2ヶ月ちょっとそのままかな」

「2ヶ月!? しかし、中の野菜はまだ瑞々しく見える、、、」ウィックハルトが感心したように瓶詰めを眺める。

「ひとつ開けて味を見てみようか?」

ウィックハルトの持っていた瓶詰めを引き取り、蝋を剥がしてコルクを抜くと、「プシュ」と空気の音がする。

「先に食べられるか試すからちょっと待って」水を捨て、中身を出す。匂いを確認して、ほんの少し齧ってみる。問題なさそうだ。

「本当は簡単に調理した方がいいけれど、今回はそのままどうぞ」

皿に出した野菜にそれぞれ手を差し出す。

「ほお、確かに全く問題なく食べられるな」と感心するのはレイズ様。レイズ様が瓶詰めの中身を実際に食べるのは2回目。前回食べた瓶詰めは保管期間が10日ほどだったけれど、それほど大きく味は落ちていないはずだ。

対して瓶詰め初体験の2人は無言。

ウィックハルトは驚きで目を丸くしており、齧りかけの野菜を持ったまま固まっている。

ドリューの野菜はすでに口の中。コリコリと小気味の良い音を立てながら、目を瞑って眉根を寄せている。

口の中の野菜が全て消えたのだろう。音が消えた口から

「さっきの音は、空気よね? 空気を入れる、、? いえ、抜くのかしら。なんで空気を抜くと保存ができるの? そもそもどうやって空気を抜くの?」

と次々と疑問が溢れ出す。しかし、この短時間でそこまで行き着くのか、、、すごいな。

「熱湯を注いで、そのまま瓶ごと煮るんだよ」

「熱で、、、、空気が瓶から逃げる、、、? 空気が逃げると保存できるなら、より空気を抜いて、瓶の密封度が高くなれば保存性が増す?」

ものすごい勢いで瓶詰めに対して理解を深めてゆくドリュー。ウィックハルトはそんなドリューの勢いにも押され、視線だけドリューに向けて固まったままだ。

「なるほどなるほど。これは面白い。これは面白い」というと、突然僕の両手をガッと掴む。

「ロアと言いましたね。これは面白いし、流通に革命が起こります。とんでもないですよ」と興奮しながらブンブンと振った。

「実はコレを運ぶ過程で、ロアから街道を広げるべきだと提案があった。ちょうどドリューが似たような事を提案していたからな、瓶詰めの利益を街道整備に繋げられないか検討してもらいたい」

そのように言うレイズ様に、ドリューはうんうんと頷く。

「計算するまでもないでしょう。まずは広くこの商品を売り、程よく広まったところで技術を売る。なんなら技術者を各国に貸し出しても良いでしょう。人を出し、技術は隠せば定期的な利益が入ります」

捲し立てるドリューは、「今からでも説得に行きましょう! さあ!」と言い出して、まだ機密だからと説得するのに小一時間かかるのだった。