作品タイトル不明
【第238話】リフレアの異変
「ネロ様」
椅子に深く腰掛けた、法衣を纏った男が、ゆっくりと声の方に視線を移す。
「ご瞑想中でしたか?」
声をかけた者も同じ階位の法衣を纏っていたが、ネロと呼んだ男に対して随分と慮る口調で話しかけた。
「いえ、ニチャル殿。大丈夫です。何か?」
穏やかに見える表情だが、ニチャルはわずかな恐怖を感じつつ、遠慮がちに答える。
「帝国の件と、貴殿のおと、、、失礼、サクリの処分についてです」
帝国へ向かわせた使者が戻らない。それが問題になったのは先日のこと。
元々イリエクスが帝国に出かけると必要以上に長期滞在となるが、イリエクスはともかく誰一人として帰ってこないのは流石におかしい。
そこで改めて問い合わせの使者を派遣したのだが、帝国の反応は非常に淡白な物であった。
「使者は当面帝国に滞在してもらうことになった」
「リフレアからの情報提供は感謝するが、当国はツァナデフォルとの戦いに注力している最中のため、ルデクに出兵する予定はない」
リフレアの使者がイリエクス一行の所在を確認しても、滞在理由を求めても「機密に関わること」の一点張り。
さらにルデクへの侵攻について言及すれば「ルデクの騎士団が頼って行ったのは貴国である以上、貴国とルデクの問題であろう」とにべもない。
終いには「貴国もルデクとの対応で大変であろうから、早めに帰られたし」と、その日のうちに追い返される始末。
こうなれば流石にイリエクスが何かしでかしたことは想像できる。それも皇帝の逆鱗に触れるような真似を。
それに気になる情報もあった。ルデクの使者が帝国に入ったという。しかしこちらに関しても、その後の情報がなかった。
万が一帝国とルデクが同盟でもしよう物なら、窮地にあるルデクが大々的に喧伝しそうだが、今のところそう言った話も聞かない。
「、、、、やはり、異国の血を迎え入れるような野蛮人が皇帝では、あの国も目先のことしか見えぬようですな」
ニチャルが吐き捨てるように言うが、ネロは表情を崩さない。
それを見たニチャルはごくりと生唾を飲む。そして密かに、「この方はこういった時が一番恐ろしい」と思う。
また、サクリであるが、イリエクス出発前に宣言されていた通り、帝国との交渉失敗の責任により、指揮官の立場を外されて蟄居を命じられていた。
今回の件、サクリの非は一点もないのだが、このままではイリエクスの大失態ということになる。それは聖導会としては避けねばならない。
ゆえに”サクリの所為”にした。
「ルシファル殿からは、何か?」ネロが聞く。
「何度か帝国の動きについて質問が来ておりますな。全く、あの犬は待てもちゃんとできんのか」
明らかに見下した発言をするニチャル。それを見ながらネロは「ふむ」と一言。
それからしばし思案を巡らせ、「あのご老人を使うか、、、」と呟く。
それからニチャルに「ルシファル殿に伝えてくれ。一人、信頼の置ける者を寄越してほしいと。理由は、、、、そうだな、こちらとの連絡の齟齬をなくすため、とでも」
「畏まりました、、、」
ニチャルが退出すると、ネロは再び目を閉じた。
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ルシファルの元に、リフレアの宗都に出向いていたヒーノフから知らせがあったのは、レイズの死が公表されてからしばらく経ったのちだ。
そこにはネロの刻印とともに「ルデク攻略を始めよ」とだけあった。
ルシファルは少し眉根を寄せる。結局、リフレアと帝国の情報は入らぬままだ。同時に、噂にあったようなルデクと帝国の関係改善の話も聞こえてこない。
帝国は静観を決め込んだか、、、?
「まあ良い。どの道、ルデクの最期は私の手で、と決めている」
ルシファルはあえて言葉に出してみる。
状況は何も変わっていない。
ルデクから3つの騎士団が離脱し、ルデクは風前の灯。
対してこちらはリフレアから貸与された兵士と、第二騎士団も含め、3万を超える兵がある。
我々が動けば、帝国もゴルベルも慌てて出陣準備を進めるだろう。そうなれば、ルデクは両国にも兵士を割かねばならん。
そしてあの国にはもう、レイズ=シュタインはいない。
そしてこの俺、ルシファル=ベラスもいない。
ルデクの双頭を失った胴体が、ただのたうっているばかりだ。
ルシファルは変わっていないと考えたが、状況は大きく変化している。ルデクは少なくとも残された兵力を以て万全の体制でルシファル達を迎え撃つだろう。
以前の侵攻とは一転、ルシファルが王都を落とすにはそれ相応の激戦が待っている。
だが、ルシファルはその考えを封殺した。
数日後、さらに3000の増援を連れたヒーノフが帰還。
よく晴れた朝、ルシファルは白く輝く鎧を纏い、威風堂々と出陣を宣言する。
ホッケハルンの決戦が、始まる。