軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第207話】皇帝とロア⑨ 帝都デンタロス

現在の帝都のある場所にはかつて、小さな宿場町があったという。

少々曰く付きの町で、裏で盗賊と繋がって旅人を食い物にしていたため、土地勘のある旅人や商人は近づかないような所だった。

噂が広まり人が来なくなれば、周辺の町村を襲うという出稼ぎに出る。最終的には住民全員が野盗のような有様だったそうだ。

ただ、立地は良かった。そこに皇帝が目をつけた。

皇帝ドラクは力づくで野盗まがいの民を蹴散らすと、自分の理想の帝都を一から造り始めたのである。

そのため帝都は街として非常に新しい。

まず城を中心にぐるりと城壁があり、城を囲むようにして並び立つ商業、工房エリアを2つ目の城壁が包む。そうして一番外側に居住エリアや宿場を置いて、それら全てを囲む3つ目の外壁。呆れるばかりの規模の街であった。

現在も拡大を続けている帝都は、既に4つ目の外壁と新しい建物が作られ始めていた。

3つ目の城壁の内には、かつての宿場町の建物もそのまま残されている。

新しい街並みには相応しくないと取り壊しも検討されたそうだけど、帝都を建築する上で日雇い労働者の安宿としてすっかり定着してしまい、壊すに壊せなくなったそうだ。

ちなみに僕らの王都、ルデクトラドは縦に長い作りで一番南が正門になっている。

正門をくぐると居住エリアや商業エリアがあり、中門を抜けると軍部のあれこれ、さらに王宮門の奥、一番北に城がある。

ルデクトラドの場合、一応城だけは2重の城壁で守られているけれど、基本城壁は1枚だ。帝都の規模には及ばない。

そもそもきれいな円形に作られた街は、ルデクには存在しない。ラピリアをはじめ、王都を知る仲間でも、興味深そうに辺りを見渡しながら帝都へ足を踏み入れた。

未来と変わらず、というおかしな表現になるけれど、帝都は相変わらず活気がある。

日々拡大してゆく大陸最大の都には、商人や一旗上げようとする若者、仕事を求めてやってくる家族や流れ者などが引きも切らずにやってくる。みんな、帝都の甘美な香りに引き寄せられるのだ。

職にありつきやすく安宿や安酒場も多くある帝都は、流れ者にとってもありがたい場所だった。その流れ者の一人であった僕も、大いにその恩恵を享受していたのである。

そのため何年かに一度は訪れており、時には長期滞在をしたこともあった。定住するという気持ちには、最後までならなかったけれど。

そんな訳で皆とは違った思いを抱きながら帝都の街並みを進む僕に、ツェツィーが感心したように声をかけてくる。

「さすがですね。初めて帝都に連れてきた人の中でも、ロア殿ほど周囲を気にしない人は初めてです」

そう?

「緊張しすぎて周りを見る余裕がないんじゃない?」ルルリアが揶揄う。それ、採用。そういうことにしておこう。

こうして帝都まで問題なくやってきた僕らだったけれど、思わぬ場所で足止めをくらった。

「城には入らず、商家の屋敷で待機するように」とのお達しがあったのだ。

通常の外交官に対する扱いとしては問題があるけれど、状況が状況だ。僕らは諾々と従うしかない。

「すぐに父上に事情を聞いてきます。ポンモールさん、くれぐれも丁重にお願いします」

非常に申し訳なさそうなツェツィーだったけれど、ポンモールさんが率いるルモール商会は帝都でも屈指の大商家。未来の僕でも知っているというか、末端で働いたことさえある。

当然皇帝からの信任も厚い商人だ。城には入れられない事情があるが、そこまで軽んじている訳ではない。そんな配慮が垣間見られた。

「無論です。皆様には申し訳ございませんが、当家のあばら家でご辛抱いただきたくお願い申し上げます」

ポンモールさんはそんな風に答えているけれど、あばら屋どころか小さな街の領主の館より大きく豪奢な建物で、僕らは移動の疲れを癒すことになった。

早々に城へと急ぐツェツィーを見送りながらも、僕は足止めについて既に当たりを付けている。

皇帝が自ら呼びつけたのにも関わらず、僕らを止めおくということは、考えうるケースはただ一つ。

リフレアの使者が先に着いた。

おそらくそう言う事だろう。

けれど、これに関してはある程度覚悟していた。僕のやりようが少々回りくどくなる以上、リフレアに先んじられることはあり得る話だ。何せ未来では、王都襲撃後にリフレアが帝国をルデク侵攻に誘ったのだから。

懸念はリフレアがどんな”土産”を持ち込んできたのか。

ルデクよりもリフレアに利があると判断すれば、皇帝は躊躇なく僕らの首を刎ねる。

相手(リフレア) の提示が読めない以上、こればかりは予測もつかない。

リフレアが僕らよりも先に謁見しようが後に到着しようが、結局のところ選択権は皇帝にある。僕らはルデクが提示可能な内容を、最大限、最も効果的に伝えるしかないのである。

僕の考えはツェツィーが戻るよりも早く、同行してくれたみんなに伝えた。

ネルフィアやサザビーも概ね予想通りだったようだ。

双子は「じゃあ交渉が決裂したら、ひと暴れするか」などと嘯いている。

ラピリアとウィックハルトは2人して「覚悟はしてきた」とだけ。その表情には僕への信頼だけがあった。

そうして僕らは時を待つ。

ツェツィーが帰還するまでには、僕らが夕食を済ませるほどの時間がかかった。帰ってきたツェツィーの表情は芳しくない。

「、、、リフレアから使者が来て、今はそちらと話しているから、と」

そんな青い顔しなくても、予想通りだよ? それと、この一件である程度分かったこともある。

ただ、一つだけ僕の予想外のことが起きた。

ツェツィーと一緒に館へやってきた人物がいる。

僕がルデクで放った最初の矢。

歌姫ゾディアとの再会であった。