作品タイトル不明
89 牛なら出来ると思います!(1)
ハルムは、その日、アセリアと遠くを眺めていた。
「思ったより、多く豆が手に入りそうですね」
「ですわ。けど、麦畑を潰せるのは一部だけ。あとは、あそこですかしら」
「あそこですね」
目の前に広がるのは、麦畑。
二人で見ているのはその奥だ。
そこには、かつて畑だった土地がある。
あまりうまく育たなくなったと思い、その場所を使うのはやめてしまったのだろう。
とはいえ、雑草は生えているものの、木などはない。
開墾するならあそこだと、二人で目星をつけている最中だ。
「オタルさんは、なんておっしゃってますの?」
「やっぱり、突然麦を潰すことは出来ないそうです。けれど、豆自体はみんな期待していますので、開墾に手を貸してくれる人数は、かなり集まりそうですよ」
実際、村の女性たちが力を合わせて手に入れたものという触れ込みの豆に、村人たちは期待していた。
自分たちで、それも、母や妻や娘たちが力を合わせて手に入れたものは、尊いものだ、と。
村を変えてくれる力が必ずあると。
「そうですの」
ハルムは、アセリアの後をついて歩く。畑の端まで。
その金色の髪が、なびくのを見ながら。
畑として使われていた土地。
「それにしては、固そうな土ですね」
「そうですのね」
「本で読んだことがあります」
「本で?」
なんでも勉強していた時期がある。
アセリアが王太子妃として王宮に上がることになった時、流石に執事として一緒に行くことは許されないだろうと思った。
とはいえ、執事としてアセリアを支えることはやぶさかではないので、王太子妃として王宮に行く時には、自分も王宮で仕事をもらい王宮へ行けるようにと考えていたのだ。
例え離れていても、何か力になれるように。
そのために、仕事を得られそうな知識は片っ端から手に入れた。
農業についての知識も、その時に読んだ本からのものだ。
「牧場には、牛が居ますね?」
「ええ、それが何か?」
歩いていたアセリアが、こちらを振り返った。
風になびく髪を、左手で抑えて。
「牛をここで放し飼いにすれば、効果があるかもしれません」
「牛を……」
「うーん」と眉を寄せて悩ましい顔をするアセリアの脳内には、あの牛の細い足で地面をほじくり返すイメージでも湧き上がってるんだろうか。
俺としては、雑草を食べてもらい、肥料を出してもらうイメージなんだが。
「そうですわね。オエグさんのところに行って、牛を何頭か借りられないか、お話ししてみるのがよさそうですわ」
「そうですね」
甘いもの好きのオエグさんなら、作ってあるイチゴジャムで話を聞いてくれるだろう。
「じゃあ、牧場へ行ってみますか」