作品タイトル不明
79 もう、自分を騙せない(2)
「さあ、行きますわよ」
少し火照った顔のアセリアがゆっくりと立ち上がる。
金色の髪が揺れる。
スカートをサッと払うと、後ろを向いて歩き出す。
スカートが揺れる。
アセリア。
アセリア、こっちを向いて。
まるで、その心の声に反応したように、アセリアが振り向く。
手を繋いでしまったことを恥ずかしがっているのか、怒っているのか。
少し気まずそうにこちらに呼びかける。
「ハルム、何やってるんですの」
困った顔が、困った笑顔になる。
木漏れ日に照らされて、君が笑う。
つぼみが綻ぶみたいに。
ああ、なんだよもう。
可愛いな。
このまま腕に飛び込んで来てくれたらいいのに。
素直にそう思う。
ブーツでてこてこと小走りで近付いてきたアセリアは、まだ座り込んでいたハルムに両手を差し出した。
「こんなところで倒れられても、助けられませんわよ」
ハルムはその両手に手を乗せて、引き上げてもらった。
アセリアが勢いで2、3歩よろめきつつも、二人は手を取り合って向かい合う。
様子を伺う困り眉の顔が、下から覗き込んでくる。
その視線をまっすぐに受け止め、
「ありがとうございます」
丁寧にお礼を言った。
パッとアセリアの両手が離れる。
「さあ、行きますわよ」
目も合わせずに、アセリアが歩き出した。
ハルムは、一瞬だけ両手を見つめ、アセリアの後を追い、歩き出す。
その繋がっていた手に、意識が集中してしまう。
アセリアの一挙手一投足に、目が離せない。
もう、この気持ちに嘘をつくことは出来なかった。
忠誠心なんて言い訳だった。
もうそんなもの、どうでもよかった。
そもそも、忠誠心なんてそんなもの、最初からあったかどうかわからない。
ただもう、一緒にいたい、それだけだ。
君の隣に並んで。
「はぁ……」
こっそりとため息を吐く。
俺は今、なんて気持ちに気付いてしまったのか。
こんな気持ち持っていても、面倒なだけなのにな。
一緒に住んでいる主従関係。
例え家を追い出され、もう何の肩書きもないとしても、この関係を崩すつもりはなかった。
こんな気持ち知られてしまえば、アセリアを一人にさせてしまうのは明白だ。
一人で生きていけないだろうから。
この気持ちを伝えるわけにはいかない。
少し前を歩くアセリアの横顔を眺める。
タイムを見つけて摘み取ると、アセリアは満足そうに籠へ入れる。
真似をして、ハルムもタイムを摘み取った。
こうして二人で一緒にいる以上、無理に気持ちを押さえつけたところでうまく行くのか疑問だが。
まあ、言わなければなんてことないだろう。
世話をする以上、やることも変わらない。
君へのこの気持ちを抱えたまま、見守っていこうと、そう心に決めて。
ハルムはアセリアの隣で、優しく笑った。