作品タイトル不明
32 今度は屋根修理ですわね!任せてくださいませ!(1)
翌朝の空は、よく晴れ渡っていた。
あら?わたくし、いつの間に眠ってしまったのですかしら。
いつもと同じ朝だった。
けれど、いつもと違うのは、部屋のそこら中に水でいっぱいになった桶やら皿やらが置いてあることだ。
もう既に水滴が落ちるようなことはなく、ただ水面が陽の光にキラキラと輝いていた。
食事の後、ハルムが困ったような顔で、
「今日は屋根を直さないといけませんね」
と言った。
「そうですわね。雨の日の度にあんな大騒ぎは困りますもの」
そう言ったはいいけれど、毎回ハルムとあんな大騒ぎをすることを考えると、なんだか心の中で楽しく思ってしまった。
その日は朝から、アセリアとハルムの二人は小屋と向き合っていた。
小屋の裏にある薪置き場に、かろうじて姿を保っている梯子をじっと見る。
「一応ありますね」
「一応ありますわね」
けど、流石にこれは上手くいかないのは、アセリアにもわかる。
ハルムが果敢にもその梯子を持ち上げようとしたけれど、手で持ち上げた瞬間、梯子はあっという間に崩れてしまった。
「梯子、何処かで調達してきましょうか」
「そうですわね」
二人して、梯子を探しに村まで歩く。
先に卵をもらいにオエグさんのところまで行った。
地面の水たまりで絵を描いて遊んでいる子供たちの姿をよく見かけた。
「こんにちは、お二人さん」
声をよくかけられた。
「ごきげんよう」
出来るだけ笑顔で対応する。
「この辺りに、梯子を借りられるところはありますかしら」
「梯子がいるのかい?」
「何か手伝おうかい?」
こういう、全体的に人が良さそうなところは、この村の長所だろうか。
ここへ来る前は、こんなことはあり得なかった。
大勢が集まるサロンであっても、見返りなしに何かしてやろうという人間は基本的にいなかった。触らぬ神に祟りなし、だ。
娯楽として消費されているにしても、なんだか新鮮だ。
「それなら、村長の家の物置にあったんじゃないか?」
誰かが言って、ドヤドヤと梯子が運ばれる。
「いいのですか?」
とハルムが聞くのももっともで、どう見ても村長に許可をもらっていない。
「大丈夫大丈夫」
と数人が太鼓判を押してくれる。
そんな風に、ドヤドヤと10人ほどで小屋に向かうことになった。
な、なんですの。そんなおおごとでもありませんのに。
アセリアがキョロキョロと落ち着かないまま、ドヤドヤと小屋へと戻ってきた。
気付けば、最初は10人だった人数も既に20人はくだらない。
「まさか人が住める場所だったなんてなぁ」
「足りないもんがあったら言えよ」
「今日はなんだ?」
「大丈夫ですよ。屋根の修理だけなので」
と、ハルムが執事らしく丁寧に受け応える。
「そっかそっか」
とみんな納得はしたはずなのに、なぜか庭から人が居なくなることはなかった。
「どういう状況ですの!?」
「騒がしくなってしまいましたね」
ハルムは、ひょいと屋根を眺める。
「じゃあ、私は屋根を見てきますので」
梯子をかけたところで、周りが湧き上がる。
「がんばれー!兄ちゃーん!」
「骨は拾ってやるからな!」
「ではわたくしも」
と、梯子に手をかけたところで、ハルムがアセリアの両肩を両手で押し返した。
「ダメですよ、お嬢様」
「え……?」
今まで、あまりダメとは言われたことがないのに少し驚く。
戸惑いつつもハルムの顔を覗くと、なんだか怖い顔をしていた。
「どうし、ましたの」
「ぜっっっっっったいにダメですよ」