作品タイトル不明
169 劇が始まりましたわ(2)
乙女が舞台の前に出た。
「私、お父様を説得するわ。そうしてすぐ戻ってくるから」
「いや、もう来ないで欲しい」
「どうして?ユニコーンは居ないんでしょう?」
「ユニコーンは居ない」
そこで、乙女が後ろへ下がる。
「いいの?あの子ともう話せなくなってしまっても」
「ガオガオ、ガオ」
「仕方がないんだ」
「俺等が力を貸そうか?」
「そうだ。人間くらいどうとでもなる」
「にゃん!にゃあん、なごなご」
「いや、やめてくれ。彼女には、自由で居て欲しい」
精霊たちは後ろを向き、下がったユニコーンを隠してしまう。
「ねえ、お父様!話を聞いて!」
「ダメだダメだ!この剣にかけて!」
「ねえ、お母様!ユニコーンはいないの!」
「ダメよダメよ!もしいたら、みんなの病気が治るかもしれないわ!」
乙女はすぐ森へ向かったけれど、ユニコーンと会うことは出来なかった。
「どうして?ねえどこにいるの?」
乙女は空を仰ぐ。
「もしかして、あなたが……?それならばすべて辻褄が合う。私の前に姿を現さなかったこと。つまりそれは、あなたが……ユニコーンだったということなの?」
そこで、乙女が最後の詩を読むことになっている。
乙女がユニコーンを想って、その言葉が届くように言葉を紡ぐ。
それを聞いたユニコーンが乙女を想い言葉を紡ぐ。
もう二度と会えない二人だけれど、心はお互いを向いている。
それがこの乙女とユニコーンの物語だ。
さあ、ミルデの暗唱シーンですわ。
けれど。
舞台には沈黙が降りた。
「…………」
あら?あらあら?
ミルデがゆっくりと、こちらを向く。
アセリアを、じっと泣きそうな目で見つめていた。
もしかして、忘れてしまったんですの!?
もしかしなくてもそうとしか思えない顔だった。
そ、そうですわね。
最初は、
『ああ、愛しのあなた』
ですわ。
アセリアは、なんとかミルデに伝えようと、口を動かして、その台詞を伝えようとした。
「『ああ』」
ミルデは、ピンとこない顔のままで、アセリアをじっと見ている。
たくさんのランプに照らされているとはいえ、辺りが暗いことには変わりない。
アセリアの口の動きがそんなにハッキリと見えるはずはない。
どうしたらいいんですの?
広場の中が、だんだんとざわついてくる。
「終わり?」
「ミルデ、なんか固まってない?」
「これってそういう劇なの?」
どうしたらいいんですの?
アセリアも困り果てた顔で、ハルムの方を向く。
ハルムは、すでに何か決意した顔で頷き、アセリアの手を握った。
「わたくしは……」
ハルムの瞳をじっと見る。
少しずつ、自分が落ち着いてくるのがわかる。
「わたくしに出来ることを、成すべきですわね」
「そうですね、お嬢様」