軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第97話 住人が増えた

見ていれば分かるとは言ったけれど、さすがに二時間も待つのは大変なので、僕はすでに肉類が収穫時にまで実っている菜園の一画へとイオさんを連れて行った。

「ほ、本当に肉が実っている……」

その光景にイオさんは呆然と立ち尽くす。

「僕のギフトの力なんです」

「ギフト……聞いたことがあるよ。ニンゲンには神々から特別な力が与えられているって……」

「あれ? もしかして獣人にはないんですか……?」

イオさんによると、獣人にギフトが与えられることはないらしい。

「その代わりそれぞれ獣の特性を受け継いで、高い身体能力や固有のスキルを持っているんだ」

それが恐らく僕たちにおけるギフトに相当するものなのだろう。

だけど各種族に固有のもので、一人一人違っているというわけではないそうだ。

「それにしても、ギフトがこんなにすごいものだったなんて。食料に困ることなんてないじゃないか」

「えっと、これはもしかしたら僕だけかもしれないです……。同じギフトを持ってる人、聞いたことも見たこともないですし……」

それから僕はイオさんとともに菜園の南西の角へ。

そこに、移動している間にこっそり家屋生成で作り出した一軒の家が建っていた。

「この家を使ってもらって構いません」

「え? まさか君の家にぼくを住まわせてくれるのかい……? いきなりの同棲……」

「あ、いえ、僕はここに住んでるわけじゃないです。別の家に妹と一緒に住んでますんで」

「そうか……」

なぜちょっと残念そうなのだろう?

「それとこの菜園、北東と南東にも一人ずつ住人がいます。二人には僕から話しておきますけど、見かけても喧嘩とかしないでくださいね」

「まさか、すでに二人も囲っているなんて……。君は見かけによらずなかなか大胆だね……」

「?」

何の話をしているのか、僕にはよく分からなかった。

家屋にはお風呂もあると伝えると、イオさんは「すぐに身体を洗ってくるよ」と言って中に駆け込んでいった。

その間に、僕はミランダさんとブラーディアさんにイオさんのことを話しておくことにした。

もし菜園内でいきなり鉢合わせたりすると、お互いを侵入者と認識して戦いに――なんてことが起こるかもしれないしね。

あれから少し菜園を広げたこともあって、普通に歩くと端から端まで移動するのにニ十分近くかかってしまう。

だけど菜園間移動は、同じ菜園内の移動には使えない。

そのため第二家庭菜園内での移動に、僕はいったん第一家庭菜園を経由するというやり方を取っている。

菜園間移動は移動先の指定ができるので、こんな応用が可能なのだ。

「ミランダさん。僕です。入りますよ」

ミランダさんの小屋をノックしたけど返事がないので、勝手にドアを開けて中に入った。

「臭っ」

するとその瞬間、強烈なアルコールの匂いが鼻を突いた。

「どれだけ飲んだんだよ……」

家具など何もない殺風景な一室。

カラになった酒瓶が、足の踏み場もないくらいあちこちに散乱していた。

ちなみにこの瓶はミランダさんが魔法で作り出しているもので、菜園で収穫された酒――ミルクなどと同じくヤシの実のような形状で実る――をわざわざ瓶に移し替えているのだ。

その方が保存性に優れているから、とのことだが、そもそも収穫した酒を片っ端から飲み干しているので、保存もくそもないと思う。

「ぐがああああ~~」

そのミランダさんは腹丸出しで、豪快な鼾を掻きながら寝ている。

最初こそ美女の無防備な姿に戸惑ったけれど、もう見慣れた光景なので見ても諦観しか覚えない。

この人、実は中身おっさんなんじゃないかな……?

「書置きしておくか」

起こすと酔っ払いの相手が面倒なので、僕は適当な紙に事情を書いて床に置いておいた。

続いて僕がやってきたのは、ブラーディアさんの小屋だ。

「……なんか真っ赤に塗られてるんだけど」

小屋の外壁が赤く染まって面食らう。

ブラーディアさんは吸血鬼らしい。

その名の通り、人の血を飲んで生きる魔族の一種なのだけど……まさかこの赤、血じゃないよね……?

僕は恐る恐る小屋の扉を叩こうとして、

「ジオか。入るがよい」

「あ、はい」

その前に向こうから声をかけられた。

どうやら僕が来たことが見なくても分かったようだ。

中に入ると、どこから持ち込んだのか、ベッドやテーブルなどのちゃんとした家具が設えられていた。

ミランダさんの方と違い、よく整理されていて綺麗に使っているようだ。

「えっと、どうして分かったんですか?」

「お主の匂いじゃよ、血の」

ブラーディアさんはこちらに背を向けたまま、そんな風に答えた。

血の匂いって……。

見た目こそ十歳かそこらの可愛らしい女の子だけど、実際には長い年月を生きている魔族だ。

人間の天敵とも言われ、過去には大規模な戦争が起こったこともあるという。

よく考えたらそんな相手と二人きりになるのは危険じゃないだろうか?

と、そこで僕は気づく。

ブラーディアさんから何やらクチャクチャという水っぽい音が鳴っているのを。

よく見ると彼女の手は真っ赤に染まっていて――

ま、まさか……人を……っ!?

「しかしお主のトマトは美味しいのう! 人間の血などよりよっぽど美味いのじゃ!」

――こっちを振り返った金髪赤目の幼女は、口の中いっぱいにトマトを詰め込んで咀嚼しているところだった。

……うん、この吸血鬼、無類のトマト好きなのである。

「小屋の色、変わってましたよね?」

「トマトを模して赤く塗ってみたのじゃ! もちろんトマトを使うなど勿体ないからの、赤い染料を使っておる」

「そうですか……」

そこは吸血鬼なんだから血を模すべきじゃないのかな……?

ともかく、この吸血鬼はトマトさえ与えておけば人畜無害のようだ。

僕はひとまず安心し、イオさんのことを伝えたのだった。