軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第96話 樹海を越えてきたらしい

「もぐもぐもぐ……美味い……美味すぎる……こんな美味い肉……もぐもぐもぐ……食べたことがない……もぐもぐもぐ……」

いきなり魔境近くの第二家庭菜園に入ってきたその青年は、どうやら怪我ではなく空腹で倒れただけらしかった。

菜園で採れた肉を焼いてあげると、凄まじい勢いで食べ始めたのだ。

「もぐもぐもぐもぐもぐ……おかわり!」

「ちょ、ちょっと待ってください。まだ焼いてますんで……」

焼くのが間に合わない。

人間離れした食いっぷりだ。

いや、そもそも人と言っていいのだろうか。

僕たちのように顔の横には耳がなく、犬や猫のように頭の上に三角形の耳が付いているのだ。

もしかして獣人?

話には聞いたことがある。

この世界には獣の特徴を宿した種族がいる、と。

アーセルの街では見かけたことないけど、王都などの大きな街に行けば、獣人はそれほど珍しくないそうだ。

ちょっと薄汚れてしまってはいるけれど、目の前の青年は獣人というには似つかわしくないほどの美形だ。

髪がボサボサになっているにもかかわらず、どこか気品すら感じさせる。

やがて用意した肉を食べ切ると、満足そうに「げふ」と息を吐いた。

……軽く十人分はあったのに、全部食べてしまったみたいだ。

「君のお陰で助かったよ。ありがとう」

頭を下げて礼を言ってくる。

「ぼくはイオ。君は?」

「えっと、僕はジオです」

「ジオ君か。ちょっと名前が似ているね」

そう言って、男の僕でも思わずドキリとしてしまうほどの微笑みを浮かべるイオ。

こ、これがイケメンの力なのか……。

「その、もしかしてイオさんは獣人ですか?」

「うん、そうだよ。ジオ君はニンゲンだね?」

「は、はい」

「聞いたことはあったよ。魔境の向こう側に住む、猿人族によく似た種族だって」

どうやらイオさんは魔境の向こう側から来たらしい。

……って、つまりこの魔境を抜けてきたってこと?

「さすがに一人では苦労したよ」

魔境〝死の樹海〟。

一度入ると生きて帰ってくることができないことからそう名付けられた広大な森だ。

高位の冒険者たちがパーティを組み、それでも樹海の浅いところを探索するのがやっとというほどの危険な場所である。

それを単身で抜けてくるなんて……。

実はとんでもなく強い人なのかもしれない。

死にかけていた理由がただの空腹だったし。

身長は僕より少し高いくらいで、体つきも細身だ。

だけどよく見ると鋼のような筋肉で覆われている。

もしイオさんに敵意があったら、僕なんて一溜りもないだろう。

まぁその前に菜園間転移で逃げればいいんだけど。

イオさんは周囲を不思議そうに見渡して言う。

「それにしてもここは畑かい……? なぜ魔境の近くに……?」

「僕の家庭菜園です。色々あって、今はここに移動してきました」

「家庭菜園……? 移動してきた……?」

「ええと……」

僕が言い淀んでいると、イオさんは察してくれたのか、

「いや、詳しくは詮索しまい。誰しも人には言えぬ事情を抱えているものだからね」

……何か脛に傷を持っていると思われてしまった感じだけど、詳しく説明しなくて済んだのでよしとしよう。

「ぼくも色々とあって……実は故郷から逃げてきたんだ」

「故郷から?」

「……うん。もう帰る場所もなければ、行く当てもない。一応、ニンゲンたちの世界にも獣人はいるそうだけど……」

「そうなんですね……」

確かに大きな街なら獣人は珍しくないと聞く。

だけど獣人はその特徴のせいで、迫害を受けることも多いという。

身寄りもないイオさんが、人間の世界で生きていくのは決して簡単なことではないだろう。

「その……よかったらここに住みます? 食べるものなら幾らでもありますし……」

不安そうな表情をするイオさんを見て、つい親切心でそんなふうに提案してしまった。

見ず知らずの相手に……と自分でも思うけど、ちょっと接しただけで分かるくらい、イオさんは良い人みたいだし、大丈夫だろう。

「えっ? いいのかい?」

「はい」

……どうせ他にもいるしね。約二名。

「なんて優しいんだ、君は……(惚れてしまいそうだ……)」

「ん? いま何か言いましたか?」

「ふふ、何でもないよ」

何だろう。

少し背筋の辺りがぞくっとした気が……?

「ありがとう。本当に助かるよ。魔物に対処することよりも、食べ物を確保するのが一番大変だったんだ。もちろん作業は手伝おう」

「あ、その必要はないです」

「? だけど、この広さだ。植えるのも収穫するのも一苦労だろう? あっ、もしかして従業員がいるのかい……?」

なぜかちょっと残念そうな顔をするイオさん。

「いえ、作業は全部一人でやってます」

「一人で……?」

説明するより実際に見てもらった方が早いだろう。

「まず収穫してみますね」

すでに実った作物たちを、イオさんの目の前で収穫してみせる。

いつものように作物が独りでに動き出し、籠の中へ。

「……は?」

目を丸くするイオさん。

「次は新しい作物を栽培しますね。えっと、やっぱりお肉がいいですかね?」

僕は肉類の栽培をスタートさせた。

「二時間くらいで実ってくると思います」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!? 肉が実る? どういうことだい?」

見ていれば分かります。