軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

46 評価とその後

二日目は事前の想定参加者向けに一日目と同じ開催とした。

一日目にしか客が入らないということはなく、二日目も充分に盛況だ。

あと地味にカフェ『マリーゴールド』出張店のドリンク目当てな参加者も居る。

本店は数量限定で飲めないこともあるし、スポーツドリンクは新商品だからね。

とはいえレシピが広まれば、マリーゴールド以外でも飲めるようになるだろう。

今だけレアさで売上好調といったところ。

「スポーツドリンクを騎士団で大量販売するようにしたら、貢献になるかしら?」

「喜ばれそうですね」

夏場は農家にも配りたいわねぇ。

前世の勝手なイメージだけど、夏の作業は大変そうだ。

脱水症状には充分に気を付けてほしいわ。

「これ、この手法は通常の絵画でも活用されているのかしら?」

「ガラスでというのは見たことがありませんわね。では、別々に描いた絵を貼り合わせて?」

「とても、どう言えばいいのかしら。立体的で、何か別のところに感銘を受けましたわ」

あ。ガラスによるレイヤー構造の展示に別の注目が集まっている。

意外と注目度の高いコンテンツになったようだ。

また、注目されているのはそれだけではなかった。

「黒の線と塗り潰しだけでも絵として表現出来るのね。こういった絵はあまり見ませんもの。デッサン途中というワケでもなく、これが絵としての完成なのでしょう?」

「途中経過でも、手抜きでもない、とするなら新しい流派になるのかしら?」

他の絵画も昨日の熱狂とは別の意味で注目されている様子だわ。

「なんだか思った方向の盛り上がりじゃない気がするわね?」

「……普通に美術イベントとして催した方が良かったのではありませんか?」

「えー」

「えー、ではなく」

まぁ、絵を描いていただいている側からすると何とも言えないのだけど。

個展を開くような画家に絵を描いてもらったワケではない。

ミリアーナさんに至っては学生だ。もちろん才覚はあると思うけど。

そういった人たちを搔き集めて描いてもらって、ただの美術展には興味ないわ! と人が集まらなかったら目も当てられなかっただろう。

なのでテーマのあるイベントとして催したのは正解のはずだ。

「この学生のミリアーナ・Bという方、ベルジュ子爵令嬢のことらしいですわ」

「まぁ、ベルジュ家の? このような才能がおありだったとは……」

「あの方、成績も良いんですよ」

「そうなんですか?」

「ええ、目立たないですけれど、上位の成績らしいですわ」

「学生でもこれほどに描けるのですね」

ミリアーナさんへの注目も集まり始めたようだ。

皆さん、昨日は絵そのものに注目している方が多かったけれど。

二日目は誰がどのような作品を手掛けたのかに注目するようになっている。

今さらだけど、自分たちで創作するより、画家を抱え込んで描かせようとする方が多いかもしれないわね。

「二日目でこの様子ならば興行としては成功でしょうね」

「ふふ、そうね」

保護者の参加だけど、流石にだらだらとこのイベントを開催延長するのはよろしくない。

物販ベースの販売は止め、サンプルの展示に切り替える。

カフェ『マリーゴールド』出張店は閉店し、撤去ね。

色々と調整してから迎えたいと思う。

嘆願書を送ってきた方には、こちらから改めて招待状を送り、参加する方たちは私が案内をする。

さらに参加人数が減るでしょうから、今のお祭り状態より、しっとりとした美術鑑賞になるはずよ。

そして、終わった後の打ち上げ……はない。残念。

いえ、今回はまだ参加者枠の確保がまだまだだったからね。

一緒になって作品制作をしたワケでもないし。

とりあえず私のすることは、片付けるものと残すものの指示と、延長した後でまた片付けを頼む手配。

それから物販ベースとカフェベース、参加費に、参加者数の集計業務だ。

これらのデータも今後の役に立つだろう。

「手伝いますよ、お嬢様」

「あら、ありがとう。いいの?」

「まだ私が役に立てる分野ですので」

「ふふ、流石は次期宰相」

「宰相にはなりません」

あら、頑なねぇ。そういうところが攻略対象なところなのかも。

一度決めたことには頑固というやつだ。

「集計が終わって、結果を確認して。保護者たちの見学ツアーを組んで、それを実行して。黒字になった資金を分配して残りを寄付をしたら……アレクシス殿下たちに対する企画書の提出ね」

真実の愛を貫く殿下たち作戦だ。

当然、事前に陛下たちの了承を取っておく。

「その了承が取れる時点でどうかと思いますけどね」

「なんだかんだで陛下たちは私に甘いのよ」

あとは殿下本人が陛下たちをかなり失望させた影響だ。

これがかなり大きかった様子。

「フィリップ様はどう思う?」

「どうとは?」

「今のアレクシス殿下たち、生徒たちに嫌われていると思う?」

「……いえ。残念でしょうが、嫌われてはいないと思います。お嬢様の策略は、お嬢様への攻撃からはその身を守ったかもしれませんが、殿下たちの不利にはなり得ていません。本人たちが望む方向ではないにせよ、殿下たちの『愛』が応援されているでしょう。少なくとも現在、アレクシス殿下たちは『悪役』ではありません」

「そうよね、それは私も思うわ」

「そして、ヘレンはあくまで同情と嘲笑の対象です」

「ええ、そうよね」

するとどうなるか?

普通に断罪返しをして彼らを罰するというのは厳しい面があるのだ。

『え? マリアンヌ様って彼らの関係に納得していたんじゃなかったの?』と、これまでの評価がひっくり返るから。

私に冤罪を着せてこようとそれは受け流すだけ。

彼らを苛烈に裁くことはいただけない空気である。

穏便な婚約解消がいい落としどころなのは変わらず。

でも、全く罰を受けないままだと彼らが目を覚ます機会が一向に訪れない。

表向きは穏便な着地点を探りつつ、それでいて彼らが目を覚ますだけのペナルティが必要だ。

現在の状況は、普通の悪役令嬢断罪返しにはそぐわない。

実は彼らは、生徒たちからのヘイトを買っていないのだ。

むしろ遠巻きにその関係を祝福され、応援されているまま。

方向性が違うだけで、その点は原作と変わらない。

……という状況だからこそ、真実の愛を貫く殿下たち作戦だ。

ヘレンさんが少なからず誘導し、アレクシス殿下の口から私を陥れる発言が飛び出す日が来るだろう。

そこで真実の愛を口にさせ、彼らの願いを叶える形を取る。

そこで表舞台を退場になるかどうか。

彼らはまだまだ学生だ。

卒業パーティーでの断罪だったら、そのままどこかの屋敷に一緒に閉じ込めるのだけど。

真実の愛を叶えさせてあげるとして、その後はどうするのか。

まぁ、陛下から任されたといっても、それでも最終的な決断は陛下がするのだけどね。

なので企画書を提出するのだ。

雑談を重ねながら作業を進めている内に、諸々の集計が終わった。

フィリップ様が手伝ってくれたから早かったわね。

流石、頭脳労働担当。こういう系はとても頼りになる。

結果としては充分に黒字!

物販の売上もそこそこ良く、皆さんイメージ商品を購入してくれたわ。

カフェも出張店として充分な売上達成。

寄付金も捻出出来たわね。

では、これらも資料に残して親世代を歓迎する準備を進めましょう。

「親世代への招待状ですが」

「ええ、どうしたの?」

「……父も見学に来たいそうです」

「まぁ、宰相閣下が?」

「はい、構わないでしょうか」

「ええ、もちろんよ」

そうして物販ベースは、サンプル展示に変更。

カフェの出張店は撤退。

代わりに水とアルコール類を用意させて、大人たちの歓迎にシフト。

後日、私は招待主として彼らを歓迎することになった。

「皆様、本日はよくお越しくださいました。私、マリアンヌ・オードファランが皆様をご案内致します」

淑女の礼を取る私。

招かれてきたのは基本は夫人たちね。

ただ夫君を連れている方もいらっしゃるわ。

事前に聞いていたように宰相閣下も来ている。

「興行主はマリアンヌ様と聞いていますが、本当ですか?」

「ええ、その通りですわ」

「王都にあるカフェ、『マリーゴールド』が出店していたと聞きましたが、そちらは?」

「そちらは用意していたドリンクをもう出し切ってしまいましたので、皆様にお出しするのに余ったもの程度では申し訳なく、閉じさせていただきました。代わりにアルコール類を用意致しましたので、ご入用であれば給仕にお声掛けください」

「そうなの、残念だわ。人気のメニューと聞いていたから」

「申し訳ございません、夫人」

「あの、オードファラン公女」

「はい、何でしょう?」

「あの『マリーゴールド』が、公女の考案したドリンクを出しているというのは本当ですか? 公女はあの店の経営もなさっているとか……?」

あら、噂になっているのね。

秘匿しているはずだけれど、流石に高位貴族相手には隠し切れないか。

「はい、仰る通りです。カフェ『マリーゴールド』のオーナーは私であり、メニューにある新商品、スムージーやスポーツドリンクを提案したのも私です。といっても経営をしているというよりは、あくまでオーナーとしての立場や権利を持っていて、ドリンクメニューを発案しただけに過ぎませんが」

「では、学園を休学されて様々な事業を始めているというのは本当なのですね」

「ええ、そうですね。どれもまだまだですけれど」

「……その際、宰相閣下のご子息であるラビス侯爵令息を伴うことも多いとか?」

「否定はしません」

目撃証言とか沢山ありそうだもの。

「……なら」

「すまない。公女に興味のある方が多いのは理解するが、今日集まったのは催された美術品の鑑賞ではなかったかな」

「も、申し訳ございません、宰相閣下」

「いや、本当に気持ちは理解出来るのですがね。公女への質問はまた次の機会にしていただきたい」

「は、はい」

宰相の言葉で私に対する質問責めは一旦終わり、展示品の案内に移る。

どんなものだと品定めに来られた方も居つつ、明らかに女子生徒たちと同じ雰囲気で鑑賞している方もいらっしゃるわ。

奥への展示に進むと感嘆の声も上がる。

やはり幾分か子供よりも落ち着いた盛り上がり方だけど、楽しまれている様子。

『真実の愛』の3点絵画のところまでいくと、中々の反応だった。

「こ、これは中々……刺激的ですが、大丈夫なのですか? 宰相閣下」

「陛下の許可は降りていますよ」

「陛下の許可が!?」

宰相の言葉にざわめく皆さん。

うーん、国王公認のなまもの絵画。

とてつもないものが爆誕している気がする。

注目の仕方や着眼点など、趣味色が強い子供たちより、大人たちは芸術的な基準で見ている様子だ。

そのせいか、例のガラスのレイヤー構造展示の方が目を引いた様子。

「これは中々、面白いことをなさるのですね?」

「ふふ、ありがとうございます」

「え? まさか、こちらを用意したのはオードファラン公女なのですか?」

「絵画を描いてくださったのは、そちらに表示しているように画家の方です。ただ、この構造自体を展示するように提案したのは私ですわ」

「なんと……これは。その、何と言いますか。ここに展示してあるものは題材を変えても手法として価値があるのでは?」

「そうですね。いつかはこの手法で皆さんが絵画を楽しめる日が来るように願っております」

気軽に手を出せるのがいい、と思いつつ、本を一冊分仕上げるだけでも大変なものだ。

なので、まぁ……趣味と出来る方が増えるといいわねぇ。

出来れば漫画文化へと発展してほしいものだが、まだまだ。

この一コマ漫画風の絵画と台詞の組み合わせ手法を浸透させていかないと、読む側が理解出来ないと思う。

漫画を読むにも暗黙の理解というか、教養が必要なのだ。

台詞の位置はどこから読むのか? フキダシの意味は? とかね。

なので今はまだ無理である。

「「「はぁ……」」」

感嘆の声というか、深い溜め息? を皆さん吐き出す。

楽しみ方としては、やっぱり美術鑑賞のノリだ。

「オードファラン公女」

「はい、宰相閣下」

「公女は今、こういった美術展示だけではなく、他にも新たな農業の提案をしていたね」

「ええ、そうですわ」

「他にも何か始めていることはあるかい?」

あら? と私は首を傾げる。

というのも私の活動記録は陛下や宰相には隠していないのだ。

王家の影からも報告が上がっているはずだし、フィリップ様からも聞き出せるだろう。

まぁ、それでもこの場で聞くというのはさっきの質問責めの続きかしら?

「そうですわね、今は『ガラスの温室』を作るようにお願いしております」

「ガラスの温室? それは?」

私はふわっと知識プラス、専門家と相談した上で深掘りした建設予定の様子とその効果を話す。

「行く行くは、農業利用出来ないかとも考えていますの。冬場でも暖かい畑を作るようなものですわ。ただ、費用などを考えますと簡単には行かないと思っています」

何せ前世ではビニールハウスだったもの。

どうしても今世でやろうとすれば、コストの問題が出てくるし、そもそも効果があるのか。

他にも何か落とし穴がないかと、研究課題は沢山だ。

「ほ、他にも何か……なさっていますの、公女は?」

「他にですか? ええと、そうですね。馬の障害競技を提案したり、まぁこちらはあまり上手くいっていませんので、何でも良い案を出せるとは言えませんね。あとは……」

歯車に関しては既にあるところにはあるだろうから、ちょっと現時点では語るほどのことではないわね。

あと私のフワッと知識の範囲だと現状、何に活かせるか? というとアレ。

考えていることはあるのだけど、本当に考えているだけなので行動には移せていない。おいおいだ。

あとやっていることと言えばござ作り。

これは私の趣味活動なので……。

「まぁ、色々と。形になるものもあれば、泡と消えてしまうアイデアもありますので」

「な、なるほど。とても多才でいらっしゃるのですね、公女は」

「ありがとうございます」

多才ではなく、知識チート……というほど、知識は深くないからアイデアチートかな?

実現していくのは、あくまでこの世界の人々だ。

「宰相閣下の評価通りなのですね」

「あら? 宰相閣下の?」

もしかして今日の参加者たちは宰相の仕込みなのかしら?

「お間違えのないよう。私は補足説明をしただけですよ、公女。公女が誤解されぬように」

「そうでしたか。ありがとうございます、宰相閣下」

「……公女は」

「はい」

「これからもそうして、様々なアイデアを実現していきたいとお考えと息子から聞いております。そうなのですか?」

「ええ、宰相閣下。フィリップ様から聞いた通りですわ」

「それはつまり、未来の王子妃、そして未来の王妃の座に興味はないと?」

「……ええ、宰相閣下。私にはその荷は重いでしょう。相応しい方が他にいらっしゃるならば慎んでお譲り致しますわ」

「そうですか。分かりました。公女の考え、そして実力もすべて陛下にお伝えさせていただきたく思います」

「構いません。隠してはいませんから」

「そうですな」

こうして。

二日間のイベント開催と、大人たちへの展示会だけでなく、私と宰相のやり取りは複数の貴族家門に知れ渡ることになった。

何にせよ、興行は成功だ。

後日、私は陛下たちに例の企画書を提出した。

そこでアレクシス殿下たちへの対応は本決まりしたのだった。