軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

37 紹介

あくまでゲーム上では。

ヘレンさんは、アレクシス殿下やセドリック皇子と結ばれるルートがある。

アレクシス殿下の場合は分かりやすい。

婚約者である私の評判が著しく低くなり、王子妃として不適格の烙印を押されて『悪役令嬢よりマシ』となるから身分差を超えて二人は結ばれることが出来る。

もちろん、私を追い落としたところで、他の高位貴族から婚約者を立てるべきではないかとはなる。

でも、ゲーム上のヒロインは周囲からの評判も高くてアレクシス殿下との仲も良好なのだ。

加えて、候補に上がりそうな令嬢は既に婚約者が決まっていることも多く、新たな候補を用意するのはそれなりに難しい。

婚約してもアレクシス殿下の意中の相手が別に居て、その評判も高いとなると新たな婚約者になるのは貧乏くじだ。

なので、そのままヘレンさんが殿下の婚約者に……という流れも分からなくはない。

そこから王と王妃になれるかはまた怪しいところだけれど。

セドリック皇子とも結ばれるルートがある。

彼は隣国の皇子といっても第三皇子だ。

こうして留学してまで婚約者を探していて、男爵令嬢なヘレンさんを選んでもいいというのが彼の扱い。

彼が自国での評価が低いとは、別に書かれていなかったけれど。

要するに『愛さえあれば認めてもらえる』結婚であり、セドリック皇子とはそういう立場だ。

そういった事情を考えていくと、セドリック皇子は政略的な旨味を考えるような婚約相手ではない。

で、別に私も結婚相手に身分の高い人がーとか、特に拘りはない。

身分は元々高いので。いえ、まぁそれが将来はなくなる前提ではあるけれど。

「隣国には興味がありますが、セドリック皇子と婚約したいかと問われると微妙なところですね」

「……ふふ、手厳しいな」

「ヘレンさんも候補に上がるなら、貴方が婚約出来る相手は貴方が気に入り、かつ相手も同様の気持ちであるかが重要なのでしょう? その点を考えますと、あまり私が相応しいとは思えませんわ」

「俺は魅力がないかい?」

「魅力も何も、あまり関わっていませんしね」

「君は予言の力があるそうだけど?」

「正確には予言ではありませんが……その予言の内容を参考にしてもいいのですか?」

「うん? 君にとって重要なら、もちろん」

「では、この話は完全にお断りすることになりますが」

「……何故?」

「え? それはもちろん、ヘレンさんに絆されて私を糾弾する側になるような方ですから。普通に嫌です」

「……現実の俺は、そんなことしていないし、しないよ?」

「ええ、そうなりそうですわね。でも、予言の内容を参考にして返事をせよとなると、セドリック皇子の評価はマイナスになりますから」

「そ、そうか」

「はい」

あら、陛下たちが私たちの会話を聞きながらハラハラした様子だわ。

これは隣国との関係のために縁を繋いだ方がいいのかしら。

「アレクシス殿下が私の婚約者でなくなり、その理由はと考えますと、まぁ殿下の立太子は難しくなるでしょう。王族籍の剥奪はあり得ますよね。そうすると殿下は立場を追われることになるワケですが、ヘレンさんがその時にアレクシス殿下をまだ追いかけるかは怪しいかもしれません」

「うん? まぁ……そうなのかな、彼女は」

「身分を失った殿下には興味を失くし、すると次に一番身分が高い『攻略対象』はセドリック皇子になりますので。彼女は積極的にセドリック皇子と親密になろうと動き始めるかもしれませんよ。『可愛くて相性がいい女性』が目当てで、リムレート王国との縁を繋ぎたいだけならば、ヘレンさんがお勧めです」

「いや、彼女を押し付けたいだけだよね、それ」

「今なら、もれなく近衛騎士 風(・) のルドルフ様、 そこそこ(・・・・) 商人のロッツォさんも付いてきますので、お得です。アレクシス殿下も付いてくるかもしれませんので、彼に政務をやらせるのもいいかもですね」

「いや、要らないよ!? 何もお得じゃないね!? 何が悲しくてコブ付きの妻を迎えいれなきゃなんないの!?」

「それはまぁ……両国の『文化』の発展のために?」

「バロウ皇国にまで変な文化を発展させないでくれるかな!?」

まぁ、失礼な。

心から楽しんでいるご令嬢たちが沢山いらっしゃる 高尚な(・・・) 文化ですのに。

前世の現代だから広く普及している印象もあり、国や文化によってはタブー扱いでもあるけれど。

それはそれとして、昔からそういう話はそれなりにあったらしいのは確かだ、前世では。

なので、別に異世界だからといってその下地がないワケではない、というのは既に証明済み。

人間の性質に大差はないのだ。

ならば国境を越えてバロウ皇国にも『新たな文化』を広め、根付かせるのが、私が転生した意味なのでは?

そうか、そうだったのね、神様。私、納得。

「お嬢様、脳内で良からぬことを企んで黙り込むのはお止めください。お嬢様の容姿と相まって、とても不穏な気配を感じます」

「まぁ、弟子1号ったら失礼な」

ちょっと神様のご意思を捏造していただけなのに。

「まぁ、とにかく。せっかく縁談を探しに来たのですからヘレンさんや私のような訳あり物件を連れ帰るより、真っ当なご令嬢を選んで連れ帰った方が後々まで人生を充実させると思いますわ」

「……そうか、フラれてしまったな。君はそれで、他に当てはあるのかい?」

そう言いながらセドリック皇子はちらりとフィリップ様に目を向けた。

婚約者が居ない、侯爵令息で長男なフィリップ様がそばに居たら『普通は』そう考えるものだ。

我が国の学園生徒たちは、傷心中のフィリップ様扱いだけど。

「当てが誰とは特に考えておりませんわね。私の感覚や価値観が大いに人と違いますので。その折り合いが付けられる方が望ましい。アレクシス殿下が反省して従順な方になってくださるならそれもまた、とも思っていたのですが……どうも思った以上の『仕上がり』だったようで」

「あれは俺もお勧めしないな。君なら、もっとマシな男を見付けられる。……と、ご両親の前で言うのは気が引けるが」

陛下たちは『気にしなくていい』というように首を振った。

「セドリック皇子は高位貴族の令嬢をお求めで?」

「いや、そこまで厳密に拘ってはいない。国に連れ帰るつもりだから、それを許容してくれる女性がいいかな、ぐらいだ。あとは相性。令嬢たちほどではないかもしれないが、俺なりに婚約相手を真剣に求めているつもりだ」

ヘレンさんエンドもあり得る人だものね。

短期間で婚約者を見つけたい理由が、実はあるのかもしれない。

「でしたら、私以外にも婚約者の 空き(・・) が出来る予定のご令嬢が居ますよ? 私と違って『訳なし』物件です」

「……ほう?」

「例のグループ、アレクシス殿下の婚約者は私ですが、もう一人。ルドルフ様にも婚約者がいらっしゃるので。前々から態度がよろしくない相手なのでルドルフ様との婚約解消を考えていらっしゃいます。セドリック皇子が身分を明かして、かつ陛下たちの口添えがあるなら、先方の家も喜んで縁を結んでくださるのではないでしょうか」

「それは、確かレイト侯爵家のご令嬢、シルフィーネ・レイト嬢のことかな?」

「ええ、私の友人でもある、そのシルフィーネ様です。ご安心を。彼女は私とは違いますから」

「……彼女には兄が居て、シルヴァン・レイト小侯爵だったね。家督は彼が継ぐ予定だ」

「はい、その通りですわ」

「ならば、ご令嬢には嫁ぎ先が必要で、現在の婚約者は将来も怪しい立場か」

「そうなりそうですわね」

アレクシス殿下が失脚するなら、ルドルフ様も王の側近にはなれない。

実力はあるはずだから近衛騎士隊に所属することは可能かもしれないけど。

ちょっと彼らが婚約した頃に見込んだよりは下な扱いよね。さらに現状があの有様だ。

レイト侯爵家としては婚約関係の旨みが減っている。

シルフィーネ様も婚約解消を考えていたが、私と違って真っ当な彼女は、その前に次の縁談も視野に入れて活動中だ。

あとは当事者同士、家同士のお好みというところ。

「……悪くない話だね。もちろん、ご令嬢の考えや家の考えなど聞いてみないと分からないが」

「現時点では婚約者も居ますからね」

「それは問題じゃあないだろう?」

「それはまぁ」

むしろ、今こそが声の掛け時に違いない。

「でも、あちらもやっぱりヘレンさんに絆されるような男性はもうお断りでしょうから、縁を結びたいなら、その証明が必要ですね」

「……それはそうだろうな。何か案はあるかい、オードファラン公女」

どうやらセドリック皇子はシルフィーネ様との縁談に乗り気のようだ。

私に対してはあくまで声掛け程度かな。

ちょっと微妙な対応な気がして、紹介するのも躊躇するところ。

まぁ、シルフィーネ様なら問題なさそうな部分ではあるけど。

私だからいいが、世の追い詰められた状況の悪役令嬢にとってはヒーロー枠なのだ。

もっとシャンとしてほしいわ。

「同士として彼女のお兄様に話を付けてもらうのは如何でしょう? 既に多少の交流はありますわよね?」

「ああ、確かに。あまりレイト小侯爵は学園には来ないが」

「卒業生ですからね、シルヴァン様は」

「でも、縁はあるな。分かった、まずは彼と話をしてみよう」

「ええ、あとはまぁ陛下たちとお話しなさるのがよろしいかと」

私は陛下たちに目を向けると頷いてもらえた。

表情はにこやか。なかなか悪くない提案が出来たようだ。

自国の恥を晒した後だからこそ、先方の望む縁談を王家経由で叶えられる可能性が出るなら、中々だろう。

隣国の皇子に紹介するご令嬢が私というのもねぇ。

身分的には最高ではあるはずが、ちょっと訳ありになってしまったから。

「では、そろそろ失礼させていただいても?」

「ああ、マリアンヌ。構わない。色々とすまないな。また要望があれば遠慮なく言ってほしい」

「感謝致します、陛下。では、その時には、また。セドリック皇子、今回の件に関してはまとめた資料や今後の注意事項を後ほど送らせていただきますわね」

「ありがとう、オードファラン公女。貴女と話せて良かった」

「ふふ、こちらこそ」

私とフィリップ様は、陛下たちが居る部屋から退室した。

廊下に出て、元の部屋へ戻る途中、フィリップ様が問いかけてくる。

「よろしかったのですか、お嬢様」

「……セドリック皇子との縁談のこと?」

「はい、そうです。アレクシス殿下との婚約解消に踏み切られるなら、悪くない縁だったのではないかと」

「そうねぇ、普通はそうなのでしょうけど」

瑕疵付き、婚約解消された貴族令嬢。

まぁ、わりと絶望的な立場。でも。

「私の場合は『自由』を約束してくれそうな 王様(・・) の国に居る方がいいからね」

あとは記念パーティーの日まで、のらりくらりと過ごしながら残った問題を対処していくのみだ。

よーし、この後はシナリオスキップ!

一気に断罪パーティーの日まで!

という冗談はさておき。日々は連続して続いていくものなので、その日まで別のことをしましょう。

そろそろ新たな文化に対して動こうかな、と思っている。

今のところ、提案だけして投げっぱなしにして勝手に広まった状態だからね。

公な演劇、小説の出版により、文化の下地は出来た。

ならば、次は! 次は……。

アンダーグラウンドな、秘密の文化交流かしら?

劇場での演劇や大手の出版など、大っぴらに広まるものばかりが好まれるとは限らない。

公爵家の権力があればそれも可能だけど、人の欲望はもっとこう仄暗いものなのだ。

だからこそ、あえてアングラなところに文化を生み出す。

やがて、それらが彼女たちの 妄想(ちから) となるかもしれない。

前世とは順番があべこべな気がするけど、気にしない気にしない。

皆さんの中から、とても文化的な創作者が生まれる可能性に賭けてみましょう。