軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 終わりに向けて

けして(・・・) 全部を信じてくれると思っていたワケではないけれど。

それでも私は知っていることを話した。

まぁ、こんなこと黙っているのが順当な判断なのだろう。

極めて期間限定の予言じみた知識があるなどと言われても困るに違いない。

「……そんなことを言われても……何を言っているの、マリアンヌ嬢」

王妃様が困惑した表情でそう漏らす。

困惑しているのは全員ね。そうでしょう。

「公爵、マリアンヌは何か精神的な負担を負っていたのか?」

「いや、その……そんな兆候は今までなかったのですが」

精神異常を疑われているわ。いやいや、なんとも頼もしい国王陛下だ。

ここに居る人たちは常識的で真っ当な人々である。

「陛下、そして皆さん。私とヘレンさんは立場上、味方ではないですよね?」

「……そうだが」

「では、私たちが共謀している疑惑などありますか?」

「共謀? しているのか?」

「いいえ、していません。していないからこそ味方ではない私とヘレンさんが、もし同じことを言い出したら少しは信憑性が増すのではないでしょうか。このようなおかしなことでも」

「……いや、それは……どうだろうな」

「私の言葉が真実なら、アレクシス殿下やフィリップ様が真っ当な道に帰ってこられる可能性があります。一方的に公爵家との縁を踏みにじり、現状に対処出来ない愚か者『ではない』と。もし、私の懸念が当たっていて、ある時期を過ぎて彼らが目を覚ますようなら。……このようなことを言い出す者ですから、この先、王妃や王子妃にせよとは言いません。私が引き続き、アレクシス殿下を引き取っても構いません」

「……!」

私は焦らず、冷静な態度で話を続ける。

せめて信憑性がありそうな態度を取らないとね。

なにぶんファンタジー、いや、オカルトな話だから。

「王族籍の返上、臣籍降下して私なり、ヘレンさんなりの下へ婿入りすればいい。まぁ、私は公爵家を継ぐ身ではありませんが。お父様が保有する爵位などあれば」

「あるにはあるが……」

とは、お父様の言。

「ついでに王領なども一部与えてくだされば。それはあくまで殿下が私と婚姻するならですが」

「それもあるにはあるがな……」

これは陛下。

「信じがたいことを申し上げているのは分かっています。私の精神状態が一気に怪しくなったと疑われていることも分かっています。また、アレクシス殿下たちが私の懸念したような、せん妄状態である可能性は残念ながら低いと思っています」

「低いのか?」

「……はい。かなり、私の知っている運命、未来と言いますか。それとはズレていますので。それに私の婚約解消が可能と言われた時点で、私もその運命には縛られていないと思います」

「では、何なのだ……。何が言いたい、何がしたい? マリアンヌ」

私は陛下たちに微笑んだ。

「今回の一件、きちんと資料に残しておいてほしいのです。私がこのようなことを言い出したこと。このような懸念があることを」

「何のために?」

「これから未来で『同じこと』が起きるかもしれないから、ですね」

「同じことだと?」

「既に私とヘレンさんという二人がこういう状況に陥ったという事実があります。他に同じ事象が発生しないとは限らないですから。信じられない、信じるに値しないと一蹴するのは……常識的だと思いますけど。『過去の事例』として記録が残っていれば、この先に同じような者が現れた際にも対処する参考になります」

そこで陛下たちは互いに顔を見合わせる。

私は尚も平然として主張を続けるのみだ。

騙す気はない。あくまで誠実に話しているのだと。

「だが、そんな……」

「実際に第一王子殿下、宰相のご子息といった将来を期待されている者たちが愚か者のように振る舞い、失望され、私のような高位貴族の令嬢がそうなった人たちと対立してしまうという由々しき事態が我らが国に起きています。その原因を私は間違いなくこうだと断言出来るのです。すべてを信じろとは けして(・・・) 言いません。ですが、その記録を付け、事態を検証する権利を頂けませんか?」

「記録を付け、検証する権利?」

「はい、陛下。今回の一件を資料として残す権限……そういう部署を王宮に立ち上げ、その責任者に私を据えてください。権限さえいただけるなら、運営費用などは、私のお小遣いから出資するという形で。私以外、今のところ今回の件を信じられないでしょうし」

「そんなことをしてマリアンヌに何の得があるのだ?」

「陛下も王妃様も宰相閣下も、私に敬意を払ってくださった。正直に言ってこのようなことは黙っていても良かったと思います。頭のおかしいことを言っているのは分かっていますから。ですが、万が一にもアレクシス殿下やフィリップ様がそうだという可能性はありますから。……陛下たちへの恩返し、誠意への返礼のようなものと、あとは私の立場の危うさがなくなった、心のゆとりからの提案です。このまま黙ったままでいるのが、陛下たちや宰相に『申し訳なかった』。そういう感情に基づく提案です」

流石に頭を抱えられてしまう。

ますます真っ当な人たちだ。

「陛下、今回の話し合いへ向けて私も色々と考えて参りました。自分について考えた上で無責任なことを申し上げるのですが。私、王妃になるのに向いていません。能力はあると思うのですが、性格や性質が向いていないんです。それから私の中身が半分、貴族令嬢というより、市井の民化しているといいますか。他の令嬢と違って、もし今、家を追い出されてもどこかの食堂で運び手として働くなども苦とは思えないんです。ある程度の汚い部屋や狭い部屋、質素な食事でも平然としているでしょう。貴族としての責任を負うよりも、自由なことをしたいと思っています。前世の知識があれば、色々とやれることがあるようにも。私の才能と知識を活かし、生きていくには王子妃や王妃ではないと思うのです。出来れば、そういう風に生きたい。しかし、それは無責任だとも思っています」

貴族令嬢として今まで与えられた境遇に対する対価をきちんと払える行動なのかは怪しい。

「ですので、今回の記録や検証は私なりの『国への貢献』です。もちろん、私自身のための活動でもある。同様の事例があれば……国家的には好ましくありませんが、私にとっては同類ですから。大っぴらな活動でそういう人たちを見つけて、交流を取れればいいな、という思いがあります。現状、このことを信じてやれる者は私しか居ません。ヘレンさんが改心すれば可能性はありますが、今の段階では難しいでしょう。何より『次』があった時のために、意義はあると思います」

「次など、あると言うのか?」

「懸念はありますね。遠からず他国でも似たような事例が起きる可能性を捨て切れません」

「他国でも? 何だそれは?」

「先に申し上げたゲーム、予言書的なそれですが……実は『続編』がありまして」

「ゾクヘン? 何なのだ一体……」

「隣国でも似たようなことが起きるかもしれません」

「は?」

これはあるあるではなく、可能性。

隣国であるバロウ皇国が舞台の続編には、私たちは登場しない。

私もヘレンさんもアレクシス殿下もだ。

しかし唯一、一人だけ続編に登場する人物が居る。

「陛下、今から一ヶ月後に隣国であるバロウ皇国から、セドリック・バロウ第三皇子が留学してくる予定ではありませんか? それも偽名として名乗るのは『セド・セイン』。従者の名前はエドワード・メーリッヒ。しかし、留学時にはエドワード様の方が主人であると名乗る予定で、セドリック皇子は従者のフリをして学園で自由に動く予定」

「なっ……!?」

「……!?」

隠しキャラ、最後の攻略対象となる留学生、セドリックである。

陛下たちの反応を見る限り、どうやら登場予定らしい。

「ヘレンさんもこのことを知っています。彼女は確実にセドリック皇子に近付くでしょう。彼女の皇子への接触の仕方まで、私は言い当てることが出来ます。正直に言って、私の破滅さえ回避出来ればいいとも考えていましたが……。ヘレンさんが私の知るヒロインでない以上、国際問題になるかもしれません。まぁ、これも……陛下たちにこのことを言わずに人知れず対処することも考えていたのですけど。一人で悪戦苦闘するよりは、私に協力していただければと。アレクシス殿下たちにも可能性があることと、それだけでなく、ついでに私の将来の権利を獲得することも考えて。打ち明けさせていただきました」

陛下や宰相は絶句している。王妃様はきょとんとしていた。知らなかったのかな?

「宰相、誰にも話していないな?」

「はい、陛下……」

「公爵、お前は知っていたか?」

「いいえ、陛下。誓って聞いておりませんし、そのような情報も掴んでいません」

私はそのやり取りに頷いて。

「セドリック皇子の留学の目的は、学園での婚約者探し。第三皇子で自由奔放に生きてこられた方ですから。堅苦しい政略結婚を嫌っていて、自分の婚約者を探すことを隣国皇帝に許されている。それでも国に有益な人物をと皇帝に望まれている。またアレクシス殿下を始めとした者たちとの交流も兼ねている。ゆくゆくは殿下とフィリップ様には打ち明けられるご予定だった。……タイミング的には、まだお二人には話していないでしょうか。主人と偽るエドワード様には、偽りの身分である隣国伯爵を名乗ってもらう予定。……この予定は、まだ決まっていなかったですか?」

「いや……」

陛下が宰相に目を向けると、宰相は首を横に振った。

漏らしていないぞ、というジェスチャーね。

「今、マリアンヌ嬢が語ったことは本当ですか、陛下?」

「……ああ。まだ王妃にさえ伝えていないことだ。公爵、本当に知らないのだな?」

「はい、陛下。誓って」

「……そうだろうな。では、マリアンヌがそれだけの情報網を……」

「持っていませんよ。調べていただいて構いません。どの道、今後は私に監視を付けていただくことも考えていましたし」

「監視……?」

「運命通りに進みましたら、私は冤罪で陥れられる予定でしたから」

とうとう頭に手を添えて考え込む陛下。

「予言、予言か……そんなもの」

「信じないことが普通でしょう。ですが、この知識を利用すれば、少なくとも私は第三皇子の身分を知らぬ体で接触することも出来ました。問題はヘレンさんもそうだということです。アレクシス殿下に近付いたように。一応、第三皇子の口説き方も説明出来ますが……」

陛下が頭を上げたり、下げたり挙動不審になり始める。

葛藤していらっしゃるわぁ……。

「……何故、何故そのようなことを話すのだ、マリアンヌ。本当ならば黙っていたまま、もっと上手く立ち回る選択が出来たはず。それこそアレクシスとの婚約を解消した後、マリアンヌが第三皇子に接触することだって出来ただろう?」

「陛下、その質問が出る時点で、信じるに値すると少しは考えてくださったということでしょうか。ならば、アレクシス殿下たちの『可能性』についても信じていただけるものと?」

「…………」

「再度言いますが、陛下たちは私に敬意を払ってくださった。それについての私なりの誠意です。私は破滅する未来を回避出来ればそれでいいとも思っていましたが……陛下たちの真っ当な対応のお陰で『余裕』が生まれました。これが一番の理由かもしれません。余裕があるのですから、私もアレクシス殿下に最後の可能性を残すことは吝かではないと。……それなりの婚約期間でしたから」

「マリアンヌ」

色々と言ったけれど、結局はまぁ、アレだろう。

「信じ切れないというのが本音だ」

「そうでしょう。分かっています、流石に」

「だが、同時に『もしや』と思わされた」

「…………」

「件の男爵令嬢は、マリアンヌと同じ知識を持ち、悪用するつもりなのか?」

「悪用とは……どうでしょう。彼女が害するとすれば、それは私だけではないかと。結果的に殿下たちを追い詰めてもいますが。しかし、そうするつもりはないはずです。彼女が求めているのはおそらく美形の男性たちだけではないかと。あとは裕福で贅沢な暮らしぐらい」

「……我々がマリアンヌに謝罪せず、アレクシスの行動に対して沈黙を要求していた場合、どうしていた?」

「当然、このことは話しませんでした。私のアドバンテージですから。私なりに上手く立ち回ることを考えました。ですが、陛下も王妃様も、宰相閣下も私の『敵』ではなかった。ならば、正気を疑われるかもしれませんが、話した方が今後は動きやすいかと思いました」

「アレクシスとの婚約解消は……」

「殿下が『目覚める』可能性を考慮するならば、保留するべきでしょう。もし、この可能性が当たっていたなら、そこに居るのは話の分かる、真っ当なアレクシス殿下です。婚約や結婚を嫌がる理由はなくなります」

「あのタイミングで打ち明けると決めた理由は?」

「陛下が『アレクシスはどうせ婚約解消し、切り捨てるはずだった』という確証があった方がいいと思いました。どうせ切り捨てるはずだったのだから『万が一の可能性』に賭けてみるのも……そう考えると見越して」

「それは、あまり誠実ではないのだが……」

「でも、ベストなタイミングでしたでしょう? 少なくとも『マリアンヌの話を最後まで聞いてみよう』とは思えた。他のタイミングで切り出していたら、途中で止められていたのでは? アレクシス殿下に残された可能性のために陛下たちは私の話に耳を傾けてくれた」

「…………やはり、誠実ではないのでは」

「こんな突拍子もない話をするのですから」

「それでも、やはり簡単に信じるとは言えない。……何か他にないだろうか」

「私の話を、陛下たちに信じさせる別の証明ですね? それも出来ればセドリック皇子が留学に来るまでに」

「そうだ。出来るか? マリアンヌ。もし、それが出来るなら……ああ、なんだ? お前の望みは。義務や返礼ではなく、マリアンヌが望むことはあるのだろうか」

うーん。

「概ねは『自由』に動くことでしょうか。しかし、平民らしい自由とは少し違います。貴族の義務を果たして、領地を盛り立てて、領民に還元せよというものでもありません。私に、私の知識や才能を活かした別の形での国家貢献を認めていただければいいなと思います。この件の記録などは、それに含みます。強く何かをやりたいのではなく、『思い付きを実行出来る環境が欲しい』……でしょうか。要するに『壮大な私だけの実験場が欲しい』。そして、そこにアレクシス殿下が改心したのなら一緒に居てもいいと。今のままは嫌ですけど」

「正直だな。確かに貴族子女としては無責任とも言えるが……自信があるということか?」

「思い付く限りでは、それなりにあります。実現可能かはこれから次第ですけど、この国の文化を、文明を一足飛びで進めることさえ可能でしょう」

「……それほどに?」

「現状の環境から考えると、かなり未来の知識がありますので。とはいえ、私も争いの種になるようなことはしたくありません。慎重な発展が望まれるでしょう。私のせいで職を失う者が現れるのも嫌ですし、適度にこなしてみせます」

「…………そうか。ならば、お前の話をさらに真実だとする証明が出来るか?」

私はニコリと笑ってみせた。

「はい、陛下。そのためには……シルヴァン・レイト侯爵令息と王家の影の手を借りたいです。彼にはヘレンさんとの予言でのやり取りを『再現』していただきましょう。それに対するヘレンさんの言動を私は完璧に予言出来ます。今後の殿下たちが暴走しないように調整することも。囮……コホン、シルヴァン様による潜入調査です」