軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第223話 クラス会で重大発表

「おっ、久しぶり、ってほどでもないか」

「御機嫌よう。確かにそうですけど、気持ち的にはそう言いたくなりますね」

3月の最終週。

都内のホテルにはつい先日離ればなれになったばかりのクラスメイトたちが集まり、賑やかに談笑を始めていた。

「千場ぁ、こっちこっち」

「おう、宝田。多田宮ももう来てたのか」

陽斗の友人である3人組もどこか着慣れていない様子のスーツ姿で挨拶を交わす。

「もう東京に引っ越したのか?」

「今日からな。まだ荷物も段ボールから出してねぇよ。宝田は実家だからともかく、多田宮はまた寮だったよな」

「自分でマンション借りるより寮費の方が高いけどな。でも高等部のより広いし風呂もトイレも部屋の中にあるから気楽だぜ。食堂で飯も食えるから手間と費用を考えると得かもしれん」

「俺の方は弟妹の面倒でちゃんと勉強できるか不安だよ。仕事が増えすぎて両親も忙しいみたいだし。卒業式の当日帰ったら滅茶苦茶喜ばれたんだぜ、労働力が帰ってきたって」

「「……ガンガレ」」

賑やかなものである。

「あ、生徒会長だ」

「いつまでそう呼ぶつもりだ。いい加減にしてくれ」

「ごめんごめん。あまりに生徒会長が板についてたからイメージが、ね? セラさんも一緒なのね」

「そ。天宮君卒業したばかりでクラス会もないだろうって言ってサボりそうだったから無理矢理引っ張ってきたのよ。賢弥もだけど」

壮史朗とセラ、賢弥の三人が連れ立って会場に入ると、元クラスメイトの女子がすかさず話しかけてきて、無愛想な男子ふたりに代わってセラが笑いながら言葉を返す。

卒業式の日、セラが提案した卒業パーティーという名目の集まりは、一部のノリの良い男子生徒を中心に盛り上がり、卒業式の余韻も覚めやらぬ大学入学前のこの日に決行されることになった。

当初は皇邸の迎賓館でという話も出て、陽斗も重斗から許可を得ていたのだが、話を聞きつけた1年の頃のクラスメイトたち(2年から3年の進級時はクラス替えがない)が参加を希望したため人数が多くなり、宿泊させるための部屋が足りなくなった。

陽斗の家はアクセスがあまりよくないこともあり、利便性を考えて都内に会場を用意することになったのだ。

クラスメイトの内、6割が付属の黎星大学へ進学し、2割が都内の、残りは地元や志望する学部のある大学へ進学が決まっている。

幸い、全員がすでに志望大学の合格通知を受け取っていて、心置きなく楽しめる状況らしい。

ほとんどのクラスメイトはすでに新居への引っ越しを終え、パーティーが終われば都内に進学する人は自宅に、それ以外はここと近隣のホテルに泊まることになっている。

わざわざこの日のために交通費と宿泊費が必要となるが、その程度が負担になるような家柄でもない。

「……俺たちまで呼ばなくても良かったんだぞ。10年後とかならともかく、教師が混ざってもつまらないだろう?」

「そうですよ。クラスメイトだけで羽目を外すのが楽しいんじゃないの」

3年間担任と副担任を務めてくれた 筧弘庸(かけいひろのぶ) と 小坂麻莉奈(こさかまりな) のふたりは苦笑を浮かべるが、教え子たちがこうして学校外の集まりに呼んでくれるのは嬉しいのだろう。少しばかり照れたように頬を掻いている。

パーティーの開始予定時間が近づき、ホテルのホールスタッフがテキパキと料理や飲み物の準備に奔走している中、会場入り口近くのクラスメイトからざわめきが聞こえてきた。

「穂乃香様、綺麗……」

「西蓮寺、なんか、雰囲気が変わってね?」

陽斗と穂乃香のふたりが会場に入ると、歓迎と困惑と称賛が混ざった奇妙な空気が流れ始めた。

ふたりの服装は他のクラスメイトたちとそれほど変わらない。

陽斗は淡い色合いのシャツにタイは着けず、モスグリーンのカジュアルなジャケット。穂乃香の方は春らしい桜色のワンピースにショールを羽織っている。

他の人たちも同じカジュアル目の服装なので特段目を引くものではないのだが、彼らが注目したのは雰囲気の違いだろう。

当然目敏い女子がそのわずかな変化を見逃すはずがない。

「え!? あれ、穂乃香様の左手、薬指!」

「きゃー! それって、アレよね!?」

「マジ? ってことは、とうとう」

「ってか、今さらかよ!」

ひとりの女子の言葉に周囲が反応し、瞬く間に会場中に広がる。

「やっほ、陽斗くん、穂乃香さん」

「やっと来たか」

「遅かったな」

「あっ、セラさん、天宮君、武藤君」

「御機嫌よう」

周囲のざわめきに困惑して足を止めた陽斗に、セラたちが近づいてくる。

「ニヒヒ、穂・乃・香・さん、薬指」

「え? ああ、み、見ての通りですわ」

「やっぱり! 正式に婚約したんだ!」

セラがことさら大きな声を出したため周囲のざわめきが大きくなる。

「穂乃香様、おめでとうございます!」

「おぉ! 西蓮寺、 漢(おとこ) を見せたな!」

「ふたりともおめでとう!」

一斉に上がる祝福の声。

そして穂乃香はあっという間に囲んだ女子たちに連れ去られてしまう。

「あ、あはは」

あまりの勢いにあっけにとられているうちに引き離された形の陽斗は乾いた笑いを浮かべるしかない。のだが、当然こちらになにもないわけがない。

「西蓮寺、マジ? ホントに四条院さんにプロポーズしたのか?」

「ようやくかぁ。いつかこうなるとは思ってたから遅いくらいだけどさぁ」

「でもさ、確か四条院の親父さんって滅茶苦茶子煩悩なんだろ? 大丈夫だったのか?」

「そう言えば、何年か前に雑誌のインタビューで娘に恋人ができたら全力で叩き潰すとか書いてあった気がするぞ」

こちらは男子たちが口々に陽斗に話を振ってきている。

男性にとっては恋愛関係にある女性にプロポーズするよりも、相手の親に挨拶をする方が精神的な負荷が大きいのだからやはり気になるのだろう。

特に穂乃香の父、彰彦の娘に対する溺愛っぷりは有名で、長女が結婚する時も相手はずいぶんと苦労したという話もある。

実際の陽斗の場合はというと、穂乃香の誘拐を阻止した恩人であり、四条院家にとって重要な取引相手の孫、すでに経済的な面では十分すぎるほどの資産を持ち、その人柄は優しく思いやりがあって家族と周囲の人を大切にする性格。

娘の相手としては難癖の付けようがなく、さらには母親も姉も兄も陽斗を気に入っているという、文句の一つでも言おうものなら逆に家庭内で窮地に陥るのは彰彦の方である。

陽斗が挨拶に行った時、彰彦は盛大に顔を顰めながら快く了承して祝福するという、実に複雑な態度だったという。

「な、なんか、大変そう、なのか?」

「いや、西蓮寺じゃなかったら血の雨が降ってたかもしれんないから、上手くいって良かったってことだろ」

「……まぁ、いつまでも中途半端な状態は見ていてイライラするからな。ケジメがついて一段落だろ」

「双方の家柄を考えると、結婚式は大変なことになりそうだがな」

男子たちが感想を言い合い、壮史朗と賢也も苦笑交じりにそう言い添える。

そんな風に男子たちは割と穏当な質疑応答だったわけだが、女子たちの方はというとその程度で済むわけもなく。

「それで、穂乃香さんはなんて言ってOKしたんですか?」

「もちろんその後はしっかりと……」

二人きりになった時のシチュエーションやプロポーズの言葉、陽斗の表情にいたるまで根掘り葉掘り、それはもう微に入り細に入り聞き出そうとする元同級生たちに圧倒されながら、穂乃香はなんとか肝心の部分は誤魔化しつつ答えていく。

「でも、陽斗くんから穂乃香さんに贈ったものにしては、その、言葉は悪いですが大人しい指輪ですわね」

ひとりが穂乃香の指輪をしげしげと見て呟くと、他の女子たちも確かにと意外そうな顔を向ける。

これは別に陽斗を蔑んでいるわけではなく、莫大な資産を受け継ぐ陽斗からであることが純粋に疑問だったのだろう。

「そうですわね。でも、わたくしにとってはどんな宝石や美術品よりも尊い、世界でただひとつの指輪ですわ。だって、これは陽斗さんがすっと使わずに大切にしていた、自分で働いて得たお金を全て注ぎ込んで選んでくれた物ですもの」

恵まれた家庭環境で育った彼女たちにとって、労働で得た賃金を注ぎ込んだプレゼントというものは特別な感じがするものだ。

その気になれば労することなく手に入れられるものを、汗水流して自分のために手に入れてくれる。

ましてやそれが、本来あり得ないはずの年齢で働かされ、身を削りながら手にした大切なお金。

これまで手を付けずに大切にしていたそれを、ただプレゼントのためだけに使った。

想いを伝えるために、与えられたものではなく自らが手に入れた全てを費やした。

これが穂乃香の琴線に触れないはずがない。

たとえそれが学生が気軽に買えるような安物であったとしても、彼女にとっては国宝を贈られるよりもずっと価値があるのだ。

「それに、ずっと着けているものですから、あまり大きかったり華美だったりするものよりこの大きさが嬉しいですね」

「と、尊い」

「わ、私も大学で相手を探します。本気で」

穏やかに微笑む穂乃香の表情が余裕を感じさせたのか、女子たちはまだ見ぬ未来の伴侶を得るべく決意を固めたりする。

そして、

「と、ところで、婚約までしたのですから、やはりその、だ、男女の関係も、ずっと進展したのでしょう?」

「ふぇ!? な、なんのことですの?」

「誤魔化さないで教えてくださいまし!」

「は、陽斗さんはあのように可愛らしい容姿ですけれど、夜は獣になったりするのですか?」

「し、知りません!」

「え~! ケチケチしないで教えてくださいよぉ」

……余裕はなさそうである。