軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バルディアでの会食

エリアス陛下、レイシス、エルティア義母様。

皆と会食するべく屋敷の食堂にやってきた僕達。

それぞれが席に着くとキールがこちらに振り向いた。

「義父様、食事の前にエリアス陛下へご挨拶したいのですがよろしいでしょうか?」

僕と父上に目配せしてきた。

もちろん、事前に打ち合わせしていた通りの流れだ。

「あぁ、構わんよ。陛下、よろしいですか?」

「もちろんだ」

父上が相槌を打って尋ねると、エリアス陛下はにこりと微笑んだ。

二人の許可を得たキールは、やや緊張で顔を強ばらせつつもその場で立ち上がり畏まった。

「エリアス陛下、レイシス殿下。そして、エルティア様。この場にいない皇帝アーウィンに代わりましてキール・マグノリアがご挨拶申し上げます。ようこそ、マグノリア帝国においでくださいました。心より歓迎いたします」

「ご丁寧な挨拶痛み入る、キール皇子。こちらこそよろしくお願いするよ。今後の両国の繁栄を祈ってね」

「ありがとうございます。その言葉、私からお伝えしておきます。父と母も喜びましょう」

キールがこの場で言った『父』と『母』とは皇帝皇后、両陛下のことだ。

彼は諸事情でバルディア領にいるけど、皇族の第二皇子という立場であることは変わりない。

バルディア家とレナルーテ王族は僕とファラが婚姻して親しい関係性にあるし、両国両家の状況を鑑みてもキールの挨拶で国としての礼儀は果たせている、という認識だ。

エリアス陛下も聡明だし、こうしたことで怒る人物でもないからね。

挨拶を終えたキールが椅子に腰を下ろすと、父上が咳払いをして耳目を集めた。

「それでは会食を始めてよろしいでしょうか?」

「うむ、頼む」

エリアス陛下が頷くと、父上は食堂にいるメイドや給仕達に目配せする。

彼らは揃って小さく頷き、丁寧かつ迅速に動き始めた。

次々に運ばれてくる料理は、僕が前世の記憶にあるものをバルディアで再現したものばかりだ。

海の魚と鯉の刺身。

バルディア特産のオリーブで作った油を使った揚げ物。

養鶏で採れた鶏と卵をふんだんに使った料理の数々。

ごまドレッシングや野菜をすりおろしたドレッシングを使ったサラダ。

デザートにはプリンやカスタードクリームを使ったたい焼きなんかもある。

食卓に並ぶのは宮廷料理というよりも、前世の居酒屋みたいだ。

でも、宮廷料理に慣れ親しんだエリアス陛下や貴族達にはもの珍しい上、何よりもバルディアお抱えの料理人達が腕によりをかけて作っている。

一国の主に出すことは料理人にとって誉れであると同時に、この世界では重大な粗相があれば命すら危うい。

今、僕達の目の前に並べられた料理は、まさに命がけで臨んで作られたものなのだ。

美味しくないわけがない。

まぁ、僕も父上も粗相があったぐらいで料理人を処刑することはないけどね。

ただし、料理する本人達は『万が一の事があれば責任を取って自害する』といわんばかりに意気込んでいる。

個人的には懐石料理やフルコースのような宮廷料理も好きなんだけどね。

今は目新しいバルディアの料理がもてはやされているし、これが喜ばれるおもてなしとして最適解なんだろう。

最高級の食器に前世で見慣れた料理が置かれて並べられているのは、ちょっと違和感があるけど。

料理が食卓に出そろうと、エリアス陛下は目を楽しげに光らせた。

「これがバルディアの料理かね。噂に違わず美味そうでないか」

「お褒めいただき光栄です」

父上が軽く頭を下げるなか「父上」とファラが笑顔で切り出した。

「ここに並んでいる料理ですが、リッド様が考案されたものも多いのですよ」

「ほう、それは初耳だ。婿殿には料理の才もあったのかね?」

「い、いえ。考案なんて大それたものではありません。こういう料理をしたら美味しいんじゃないかなと、思いつきを料理人達に伝えただけですよ。素晴らしいのは形にしてくださった料理人の皆さんです」

「なるほど。では、そういうことにしておこう」

エリアス陛下は何やら口元を緩めるなか、父上が「エリアス陛下」と清酒が注がれたグラスを片手に切り出した。

ちなみに度数は低めのものだ。

「料理も出そろいました。乾杯の音頭をお願いしてもよろしいですかな」

「よかろう……と言いたいところだが、ここは婿殿に任そう」

「え……?」

急に振られて呆気に取られるも、エリアス陛下はにやりと笑った。

「婿殿は我が王国と帝国、そして、バルディア家を繋ぐ架け橋だ。この場で乾杯の音頭を取るのに適任なのは婿殿だと、私はそう考えるがどうかね?」

あ、これは陛下のちょっとした冗談あるいは意地悪だな。

食堂にいる皆も意図を察したらしくて苦笑している。

父上はやや呆れた様子でこちらを見て「リッド」と発した。

「陛下がこう仰っているんだ。乾杯をしなさい」

『もう面倒臭いから、さっさと乾杯の音頭を取れ』

父上の表情、声色、視線からして直訳するとこんな感じだろう。

「あはは、畏まりました」

僕は決まりの悪さと照れ隠しに頬を掻きつつ、グラスを片手に持って咳払いをする。

中身は果物を搾って作ったフルーツジュースだ。

「僭越ながら乾杯の音頭を取らせていただきます。両国両家の友愛、発展、繁栄を願いまして乾杯」

そう告げると食卓に着いている皆から「乾杯」という明るい声が返ってきた。

でも、エリアス陛下は答えた後にややつまらなそうに小さく肩を竦めている。

「普通だな。婿殿にはもう少し奇……うぐぅ⁉」

「陛下、お戯れはそろそろお止めください。折角の会食なのですから」

エリアス陛下が小さく呻き声を漏らし、エルティア義母様が笑顔で凜とした冷たい声を発した。

呻き声の正体は太股でも強烈につねられたか、あるいは足を強く踏まれたのかもしれない。

苦笑していると隣に座っていたファラが「父上」と微笑んだ。

「む……? どうしたファラ」

「リッド様にお任せになったのですから。母上が仰せの通り茶化すのはお止めくださいね?」

「う……⁉」

ファラがエルティア義母様に負けず劣らずの、いやそれ以上のとんでもない冷たい視線でエリアス陛下を射貫いた。

「な、なんだ。ファラの発するこの異様な威圧感は。これはまるで全盛期のエルティア、いや、それ以上の……うがぁ⁉」

「ですから、陛下。お戯れはお止めください」

エリアス陛下が再び呻き声を漏らし、天を仰いだ。

あれは相当に強い力でエルティア義母様に何かされたんだろう。

周囲からは何かを堪える声が聞こえてくるし、ちらりと見やれば揃いも揃って顔を逸らし、肩が小刻みに震えている。

「わ、わかった。わかったからやめろ。やめてくれ、エルティア」

「では、言動を慎んでくださいませ」

「あぁ。ふぅ、エルティアは相変わらず……」

「なんですか?」

「い、いや。なんでもない」

エルティア義母様にじろりと睨まれ、エリアス陛下は咳払いをして威儀を正した。

すると、「ふふ、父上」とファラが噴き出す。

「どうしたんだ、ファラ」

「随分、先程から母上と一緒に『奇抜』な真似をなさりますね。ある種の惚気、あるいは会食の余興でしょうか?」

「な、なんだと……⁉」

娘からの逆襲とも言うべき指摘を受けてエリアス陛下が絶句してたじろいだ。

その様子があまりに滑稽で笑いが込み上げてくるが、目上で他国の王族かつ義父の前で笑うわけにもいかず、俯いて耐えしのぐ。

横目で周りを窺えば皆も俯き、先程よりも肩を震わせて何かを堪えるのに必死の様子だ。

父上と母上だけは平然とにこにこ顔を保っているみたい。

「ふふ、あっははは」

急に笑い声が響き渡った。

誰かと思えばレイシス義兄さんがツンとした表情を崩し、お腹を抱えるように笑っている。

以前よりもかなり明るい表情だ。

「ファラも言うようになったじゃないか。皆も気にせず笑ってくれて構わないぞ。父上自ら堅苦しいことは抜きと仰ったからな」

「兄上の仰る通りですよ、皆様」

ファラが相槌を打って、横目でちらりとエリアス陛下を見やった。

「そもそも、最初に茶化してきたのは父上なんですから。人を茶化したのに、自らを茶化されて怒るなんて、父上はそんな器の小さな人ではありませんから」

「う……」

エリアス陛下が決まり悪そうに顔を顰めた。

それが切っ掛けで皆が堪えきれずに噴き出し、食堂に明るい笑いが響きわたっていく。

皆が笑みを溢す様子を見て、レイシスは目を細めて「さて、父上」と切り出した。

「折角の食事が冷めてしまいます。早くいただきましょう」

「う、うむ。そうだな。では、いただくとしよう」

レイシスがグラスに入ったフルーツジュースを口にし、エリアス陛下が咳払いをして目の前にある食事を口に運ぶ。

二人は間もなく目を丸くし「これは美味い」と口を揃え、これを皮切りに会食は和気あいあいとしていった。

会食中、レイシスの母である『リーゼル・レナルーテ王妃』は公務のために国に残ったこと。

また、彼女を『ザック・リバートン』が手伝っていることが話題に上がった。

『母上を一人にしておけません』とレイシスは渋ったらしいが、『いいえ、レイシス。母は大丈夫です。それよりも、貴方はこの機に見聞を広めるべきです』と諭されたそうだ。

エリアス陛下の曰く『リーゼルは今でこそ大分丸くなってはいるがね。以前は私に啖呵を切るほど勝ち気だったのだ。心配には及ばんよ』ということだった。

僕の知っているリーゼル王妃は、お淑やかな雰囲気しかないけどね。

会食は和やかに楽しく進むも、レイシス義兄さんだけは何か悩みでもあるのか。

陰があるというか、終始どこか虚ろな表情を浮かべていた。

何か悩み事でもあるのかな?

そう思って、僕は食事中に彼の様子を窺っていたんだけど、レイシス義兄さんの視線がちょくちょくキールに向けられていたことに気付き、ハッとした。

そうだ、二人は『ときレラ』の攻略対象同士。

もしかして、何か特別な感情や想いが湧き出ているのかもしれない。

思い過ごしかもしれないけど、少しでも可能性がある以上は放ってはおくべきじゃないだろう。

食後にでもレイシス義兄さんに声を掛けて話を聞いてみよう、と僕はそう決めて食事を続けた。