軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

来訪者とリッドの推理

「レナルーテにいる頃よりも、かなり可憐な顔付きになっているぞ。相当、婿殿にほだかされたとみた」

「え、えぇ……⁉」

ファラは顔を真っ赤にして耳を上下させながらたじろぐも、エリアスは「おやおや、その様子は図星かな」と意地悪そうに続け、口元に手を添えながら僕を見てにやにやし始めた。

「婿殿が愛妻家という帝国での噂はレナルーテまで届いておるぞ。ズベーラでは『妻馬鹿』とも呼ばれているそうではないか」

「あはは。噂は全て事実ですし、否定するつもりもありません。ですが、そう茶化さないでくださいエリアスお義父様。皆の目もありますから」

「そ、そうです。茶化すのは止めてください、父上」

「はは、エルティアから聞いていたとおり、二人が仲睦まじい様子で喜ばしい限りだ。これならレナルーテと帝国、もとい我らとバルディアは安泰だな。いやぁ結構結構」

「で、ですから、茶化すのは止めてください、父上」

ファラが珍しく大声を上げるも、エリアス陛下は豪快に笑ったままだ。

気さくなやり取りに、この場にいる皆は呆気に取られている。

この場でエリアス陛下と面識があるのは僕、父上、ファラ、メルなどの一部のみ。

加えてエリアスのこうした気の良い部分を知っているとなれば僕、父上、ファラぐらいだから無理もない。

「……陛下、そろそろお止めください。皆、困惑しております」

「そうですよ、父上。それに積もる話はここでしなくても良いでしょう」

エルティアとレイシスがため息を吐くと、エリアス陛下は「それもそうだな」と頷いた。

「では、ライナー殿。案内をお願いしてもよろしいかね」

「畏ま……」

「ライナー殿。口調を崩してくれたまえ」

「……わかりました。では、こちらへどうぞ」

父上は小さなため息を吐き、屋敷に向かって歩き出す。

その後をエリアス陛下、エルティア義母様、レイシス義兄が続いて行く。

僕達もその後を追いかけていった。

「ほほう。つまり、この屋敷がファラに用意した別邸というわけだな。婿殿」

「はい。ただ、本邸は先の戦いによる襲撃で全焼してしまいましたので、今はこちらが本邸の扱いになっております」

「父上、こちらではレナルーテ式と帝国式のお部屋。それから双方の特徴を取り入れた和洋折衷のお部屋もございます。どれも素晴らしい造りですので、きっと旅の疲れが癒やされると存じます」

ファラが補足するように僕に続くと、エリアス陛下は目を細めて「そうか、そうか」と頷いた。

邸内の案内をエリアス陛下にお願いされた僕は、皆を先導するべくファラと並んで先頭を歩いている。

陛下の隣にはレイシス義兄さん、背後にはエルティア義母様が続いている。

レイシス義兄さんは平静を装いつつも、屋敷の造りに興味津々らしくて目線が忙しない。

エルティア義母様は前回に続いて二回目の訪問になるし、落ち着いた雰囲気で淡々としているようだ。

「……ところで婿殿」

「はい、何でしょうか?」

陛下はそう切り出すと、僕の耳元に顔を寄せてきた。

「婿殿はライナー殿と私が交わした『例の件』を知っているのかな?」

「父上と交わした例の件……ですか?」

はて、何のことだろう。

父上とエリアス陛下が特別に交わした約束があるのだろうか。

だけど、僕は何も聞かされていない。

つまり、知らなくて良いこと。

あるいは知らない方が良いことだろう。

僕は素知らぬ顔で首を横に振った。

「申し訳ありません。これといって心当たりがありません。父上に尋ねてみましょうか?」

「いやいや、知らないならそれはそれで構わんよ。忘れてくれたまえ」

「はい、わかりました」

にこりと微笑みつつ、ちらりと背後を見やれば父上がこちらを見て微笑んでいた。

ただし、目の奥が笑っていない。

僕はすっと前を向いて、平静を装いつつ考えを巡らせた。

エリアス陛下は屋敷の造りを見て、父上と交わした『例の件』と言ってきたわけだから、おそらく『例の件』とやらはこの屋敷に関わっているはず。

でも、父上は『例の件』の詳細を僕に伝えていない。

もし教える必要がない、あるいは僕が知らなくていい……そういう判断を下したと仮定するなら、僕が嫌がる、もしくは気を遣ってしまう問題なのかもしれない。

父上とエリアス陛下が交わした約束、新屋敷、僕が気を遣うもしくは嫌がること、か。

うー……んと、皆に悟られぬよう唸ったその時、ファラが「父上。こちらのお屋敷なんですけど……」と嬉しそうに切り出した。

「レナルーテでリッド様と顔合わせした後、『バルディア領で暮らすなら、どんなお屋敷が良いですか?』って聞いて下さって、その要望のほとんどを叶えて下さったのです」

「ほう、それは初耳だ。しかし、王族との顔合わせでそのような求婚同然の発言をするとは。やはり婿殿は隅に置けぬな」

「あ、あはは。恐縮です」

照れ隠しに頬を掻くも、何やらエリアス陛下から鋭い視線で射貫かれた気がした。

それになんだろう。

名刀で銅をばっさり横一文字に一刀両断されたような、この感覚は。

血の気が引いてぞっとするも、結果的に頭も冴えたのか、僕の脳裏で全てが繋がったような気がした。

そういえば、この屋敷を新築で建設することが決まった時、駄目元で全ての要望を突っ込んだ超、超高額の申請書を出したんだよね。

でも、予想に反して父上は一言も反対せずに通してしまい、こちらが面を喰らったほどだ。

あの時は唖然として、お金の出所を深く考えていなかった。

だけど、屋敷の造りを見てエリアス陛下が父上との『例の件』という発言をした以上、お金の出所はエリアス陛下もといレナルーテだったのかもしれない。

ファラとの顔合わせで初めてレナルーテに出向いた際、高位華族の『ノリス・タムースカ』の陰謀に僕は巻き込まれた。

詳しいことは知らないけど、父上は内心憤慨していたみたいだし、『例の件』とはあの一件を元に引き出したことなのかもしれない。

ふいにファラを見やれば、エリアス陛下に満面の笑みで屋敷のことを語っている。

僕の考えが事実かどうかわからないけど、確認すればファラは気を遣ってしまうだろう。

ファラの笑顔と、レナルーテの国庫あるいはエリアス陛下のお財布事情。

どちらを取るべきかと言われれば、僕が選ぶのは『ファラの笑顔』一択のみ。

うん、決まりだね。

『例の件』は金輪際忘れよう。

一、二の……ポカン。

僕は『例の件』について綺麗に忘れた。

そして、にこりと微笑み、エリアス陛下に振り向いた。

「エリアス陛下。ところで昼食は取られましたか?」

「いや、まだだ。バルディアでの食事は実に美味と聞いていたのでな」

「では、部屋にご案内した後、皆で会食するのは如何でしょうか?」

「うむ、そうしてもらえると有り難いな。レイシス、エルティア。二人も異論ないかね?」

「はい、私は構いません」

「私も異論ございません」

二人がこくりと頷くと、エリアス陛下はこちらに視線を戻した。

「だそうだ。婿殿、改めて案内を頼むぞ」

「畏まりました。では、こちらへどうぞ」

僕は威儀を正し、エリアス陛下達をこの屋敷で最も位の高い部屋に案内した。