軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな音楽とダンス勝負

「な、なんだこの雷鳴は」

「あの騎士達が叩いている楽器の音みたいだぞ」

「こんな演奏は聞いたことありませんけど、何だかすっごくわくわくします」

子息令嬢達は初めて目の当たりにするであろうドラムの演奏とリズムに、揃いも揃って驚愕した様子で目を丸くしている。

ちらりと視線を変えれば、陛下やデーヴィド達も少し驚いた表情をしているようだ。

でも、その表情には『これから何がはじまるのか』という期待感に満ちていた。

ドラムと手拍子の演奏が響きわたる中、ファラと僕は会場をぐるりと見渡してから陛下に畏まって深く頭を下げる。

リズムに合わせて僕とファラが顔を上げたその瞬間、トランペット、サックス、トロンボーン、木琴、ピアノの演奏が一斉に始まって会場は明るく、楽しい雰囲気に包まれる。

僕とファラは笑顔を浮かべたまま体を引き寄せ、全身を使ってアップテンポで華やかで躍動感あるダンスを始め、躍りながらファラと一緒に軽やかなステップで会場を回っていくと、彼方此方から黄色い歓声が上がった。

いま会場に流れている音楽はサックス、トランペット、トロンボーン、ドラム、木琴、ピアノなどで奏でられるビッグバンドの演奏で、前世の記憶だと『スウィング・ジャズ』に分類される曲調だ。

前世で誰もが一度は聞いたことがあるだろう代表的な楽曲を、サティ先生の協力で可能なかぎり再現している。

音楽の勉強は前世でしていなかったけど、リズムやイメージだけは伝えられる。

サティ先生も最初は困惑していたけどね。

僕が曲を口ずさみながら身振り手振りで説明し、実際に楽器を使って演奏していくうちに、即興演奏【アドリブ】、リズムセクション、4ビートで奏でられる『ジャズ』の概念に先生は辿り着き、演奏が前奏【イントロ】、主旋律【テーマ】、各楽器の即興演奏【ソロ】、主旋律【テーマ】、終幕【エンディング】という流れで構成されていること。

そして、ほぼ同時に『スウィング・ジャズ』のこともサティ先生は理解し、言語化してくれたのだ。

ちなみに、曲を理解した当時のサティ先生は、それはもう鼻息を荒くして感動していた。

『リッド様は音楽の神が遣わした天才ですよ。跳ねたリズムを活かしてこんな楽しい曲を閃くなんて。これで私が先生なんておこがましい。弟子入りしたいぐらいです』

『いやいや、この曲はズベーラの王都を訪れた時、広場で楽しげに演奏している人達がいたんだ。それを模倣しただけで一から閃いたわけじゃないよ』

前世の記憶から引っ張り出してきた、とは言えないからね。

ズベーラの王都では各部族の音楽が混ざり合って、すでにジャズっぽい曲になっているのも事実だ。

先生に説明したこと全てが嘘というわけでもない。

でも、本当に凄いのは僕の口ずさむリズムと説明でジャズを理解してくれたサティ先生だと思うんだよね。

帝国で聞く音楽は静かなものから激しいものまで色々あるけど、基本的にどれもクラシック調だ。

ジャズのような即興演奏【アドリブ】、それもこんな大規模なビッグバンドで聞く機会なんてまずないだろう。

さすがに今回の演奏は楽譜に落としているけどね。

指揮者のサティ先生は『折角ですから必要に応じて即興も入れましょう』と言っていた。

実際、最初のオヴェリアとカルアのドラム演奏は多分、楽譜よりも激しく長めに叩かれていたように思える。

会場を飲み込むため、あえてそういう演奏にしたんだろう。

この演奏で踊っている僕とファラのダンスは、前世の記憶でいうところの『ジャズダンス』や『ラテンダンス』に該当するものに近い。

バルディアが持つ情熱、迫力、身体能力を活かすにもってこいだ。

あくまで結果的に、だけどね。

「……リッドの奴、本当に何でもありね」

音楽と僕とファラのダンスで会場が盛り上がる中、ヴァレリがため息を吐いてデイビッドの前に進み出たのが見えた。

「殿下、私達も負けていられませんわ。優雅に、そして情熱的に参りましょう」

「情熱的に、か。いいだろう、あの二人にこのまま、会場の注目を独占され続けるのはつまらないからな」

「あら、珍しい。殿下にもそういう対抗心を抱くことがあるのですね」

「何を言う、ヴァレリ。私は大の負けず嫌いだよ」

二人の声はよく聞こえないけど、デイビッドはヴァレリの背後に回って彼女の手を取って踊り出した。

一曲目のワルツ風で踊っていたダンスと違い、僕達と曲に合わせた情熱的で優雅な動きだ。

さすが皇太子とその婚約者、初めての曲でも臨機応変に対応できるらしい。

デイビッドとヴァレリが両手を繋いだまま体を引き寄せて会場を軽やかな足取りで舞っていくと、子息令嬢達から再び黄色い歓声があがった。

僕とファラも負けじと、会場を舞っていく。

程なく、僕達とデイビッド達は注目を一身に浴びる会場の中央で踊り、視線を交差させた。

デイビッドとヴァレリ、会場にいる皆もとっても楽しそうだ。

でも、そろそろ曲も終わる。

悪いけど二人にはできないだろう、僕達の動きで注目を浴びて、この場は締めさせてもらおう。

「ファラ、いけるかな」

「はい、いつでも大丈夫です」

僕の声にファラはこくりと頷き、飛びつくように腕と足を伸ばして勢いよく抱きついてくる。

僕はしっかりと彼女を受け取り支えつつ、勢いを活かしてその場で回転して彼女を降ろすと会場からどよめきが上がった。

でも、一度で終わらない。

これを音楽に合わせて何度も連続で繰り返していくと、会場は歓声と拍手に包まれていく。

力強く躍動感のある動きで見る者を魅了できるけど、その分、体力の消耗も激しい。

それでも、僕とファラはダンスを楽しむことを忘れず踊り続ける。

だけど、デイビッドとヴァレリも僕達に負けじと、激しい動きを取り入れて追い込みと仕上げにかかっていく。

僕達とデイビッド達のダンスと音楽で会場は大盛り上がりで熱気に包まれる中、程なく演奏が終わる。

同時に笑顔で僕達とデイビッド達が決めポーズを取って静止すると、会場は大歓声と拍手喝采の渦に包まれた。