軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッド、フェイを連れて帰る

牢宮から地上に僕が戻ると、山岳地帯での訓練は一旦終了。

捜索隊を率いた父上と一緒に山を降りてバルディアの屋敷に帰ることになった。

ルーベンスを隊長とする捜索隊と訓練参加者の皆には、僕が六時間行方不明になった理由は『昨今、噂されていた誘い牢宮によるものだった』と説明。

ただし、フェイの存在はまだ秘密にしておくべきだろうと、彼のことだけは伏せられる。

外部に漏れると無用な心配と混乱を招く恐れがあるとして、今回の件は箝口令が敷かれることになった。

『リッド様が見つからなければ責任を取って自害する』と申し出ていたカーティスをはじめ、心配を掛けてしまった皆には僕の口からも丁寧に状況を伝えている。

『唐突で予想できなかったことだから誰も悪くないし、誰にも責任はない。もし、責任があるとすれば僕にあるから気にしないで』

カーティス、カペラ、ティンクはそれでも深々と頭を下げていたから、『それでも責任を感じるって言うなら、今後も僕のことを支えてほしいな』と伝えたところ、三人は『畏まりました』と嬉しそうに頷いていた。

第二騎士団の子達も僕の姿を見て安堵し、ほっと胸を撫で下ろしていたみたい。

『……それにしても、リッド様って本当に色んな事に巻き込まれますよねぇ。今後のことも考えて、お祓いにでも行った方がいいんじゃないですか』

『だよね、僕もそう思うよ』

第二騎士団のオヴェリアがそう言って肩を竦め、僕が苦笑しながら頬を掻いて返事をしたところ、その場は小さな笑いに包まれた。

不可抗力とはいえ、僕が牢宮に誘われて六時間も行方不明となった事実が重く受け取られていたことを、この帰り道で身を以て思い知らされる。

父上が率いた騎士団と訓練に参加していた第二騎士団の子達で隊列の前後が固められ、僕の四方をカペラ、ティンク、ルーベンス、カーティスに囲まれて移動することになったからだ。

雰囲気も緊張感に包まれ、どこぞの王様か皇族を護送するような物々しい雰囲気である。

「すっごいなぁ。リッドって偉いんだねぇ」

物々しい警護の様子を見て、フェイが僕の肩に乗って耳元で囁いた。

彼は透明で気配を限りなく消しているから常人ではその姿に気付くことはない。

でも、父上ぐらいの実力者になれば彼がいる場所に違和感を抱くみたいだから、カーティス、カペラ、ティンク、ルーベンスにはフェイのことを先に伝えている。

「……僕が偉いわけじゃないさ。代々バルディア家が貴族の責任を果たした結果だよ」

視線を前に向けたまま小声で答えると、「へぇ、そうなんだね」とあまり興味なさそうな返事がきた。

ちらりと見やれば、彼は目をキラキラと輝かせながら周囲を見渡し、肌に感じる風と日の暖かさを満喫している様子だ。

牢宮に何十年といて、地上に憧れていたから当然と言えば当然の反応か。

ただ、舞い上がって彼の存在が皆に知られると説明が大変だから、釘は刺しておかないといけない。

「それよりもフェイ、屋敷に着くまでは喋っちゃ駄目って言ったでしょ」

「はーい、ごめんなさい」

小声で強めに注意すると、フェイは軽い口調で答えて僕の肩にちょこんと座った。

やがて山の麓に到着すると、僕達は来た時に使っていた木炭車に乗り込んだ。

フェイは「何これ⁉ 初めて見るよ!」と目を丸くして大喜びしていた。

無邪気なフェイの様子を見ていると、彼を地上に連れて来てよかったと心から思う。

ただ、そうほっこりできたのは束の間だった。

木炭車に乗り込むと両脇をカペラとティンク、後部座席にカーティス。

運転席に父上、助手席にルーベンスで固められたのだ。

凄まじい圧で息苦しい中、屋敷に辿り着いたのはその日の昼過ぎだった。

屋敷に到着すると、僕は父上に連れられて執務室に直行。

そこには、魔法の先生ことサンドラが待ち構えていた。

「ライナー様から通信魔法で事の次第は伺っております。リッド様、体に異常がないかの診察をいたしますので服をお脱ぎください」

「う、うん。でも、今ここでするの?」

サンドラの言葉に困惑していると、父上がこくりと頷いた。

「リッドは隠し事は上手だからな。私も直接この目で確認させてもらう」

「は、はぁ。畏まりました」

僕が返事をすると、父上は一緒に執務室にやって来たカペラとティンクを見やった。

「リッドの体を拭くものと新しい服を持ってきてくれ」

「畏まりました。すぐにお持ちいたします」

二人が退室して間もなく、僕は服を脱いでサンドラに全身をくまなく診察される。

診察中、フェイは執務室の中を飛び回ってあれこれ見て目を爛々とさせていた。

診察が始まって程なくして、カペラがお湯の入った桶と手拭い、ティンクが僕の服一式を持って戻ってくる。

自分では気付いていなかったけど、牢宮内で約三日を過ごしていたせいか体は意外と汚れていたらしく、カペラが持ってきた桶のお湯と手拭いはすぐに淀んでしまった。

もしかして、自分で気付かないだけで汗臭かったのかもしれない。

サンドラに許可を得て新しい服に着替えると、彼女は父上と僕を交互に見やった。

「全身に打ち身や手に傷が見られますが、どれも命に直結するようなものではありませんでした。ライナー様、リッド様、ご安心ください」

「そうか。とりあえずは一安心だな」

父上は安堵した様子で息を吐くと、部屋を見渡した。

「少しリッドと二人で話したいことがある。皆、悪いが席を外してくれ」

「畏まりました」

サンドラが頷いて皆が退室し、部屋は僕達二人だけになる。父上が執務室のソファーに腰掛けたので、僕も机を挟んだ正面に座った。

「リッド、早速だが牢宮に誘われて地上に戻れた経緯。そして、彼のことを説明してもらうぞ」

父上はそう言って執務室内を飛び回っているフェイを横目で見やった。

透明になっている彼のことを父上は視認できるわけじゃないみたいだけど、居場所は僅かに感じる気配で察知しているらしい。

「畏まりました。ほら、フェイ。姿を見せて挨拶して。僕の父上だよ」

「はいはーい」

彼は姿を現して机の上に舞い降りると、両手を腰に当てながらにかっと白い歯を見せて仁王立ちした。

「僕の名はフェイ、リッドと契約を結んだ牢宮核の化身さ。よろしくね。えっと、ライナーおじさん」

「……おじさん、か」

父上が眉をぴくりとさせ、顰め面になってしまう。

心なしかショックを受けているように見えなくもない。

僕は慌てて「こ、こら!」と怒った。

「僕の父上って言ったでしょ。フェイもこれからお世話になるんだから、おじさんなんて失礼な呼び方は駄目だよ」

「えぇ、そうなの。じゃあ、ライナーって呼べばいい?」

「フェイ、地上で貴族を呼び捨てにしたら不敬で処罰されることもあるんだよ。僕のことは呼び捨てでもいいけど、僕より目上の人には敬意を払って敬称をつけないと駄目。だから、この場合は『ライナー様』だね」

「面倒臭いなぁ。僕は牢宮核の化身なんだよ。人間の決めたことなんて関係ないじゃないか」

彼は頬を膨らませると腕を組み、口を尖らせてそっぽを向いてしまった。

「あのね、フェイ。郷に入っては郷に従えって言葉があるんだよ。牢宮内の決まり事は君が決めていたかもしれないけど、地上には地上の決まり事があるんだ。それを無視すれば、君は必ず処罰を受けることになる。それは僕も君も望まないでしょ」

「……わかったよ」

納得はいかずとも理解はしてくれたらしく、彼は父上に畏まった。

「えっと、改めて牢宮核の化身のフェイです。リッドのおかげで地上に出ることが出来ました。今後、彼の元で地上のことを学んでいくつもりです。よろしくお願いします、ライナー様」

フェイがぎこちなくぺこりと頭を下げようとすると、父上は「いや、気にしないで大丈夫だ」と制止した。

「君のおかげでリッドは牢宮を脱出できたと聞いた。まずはこちらが礼を言うべきだったな。申し訳ない」

父上が謝罪の言葉を口にした瞬間、僕は目を細めたままフェイをじろりと見やった。

話を円滑に進めるため、フェイが僕を牢宮に誘った挙げ句に体を乗っ取ろうとしたことは伝えていない。

『フェイが僕を助けてくれた』という最後の出来事だけを説明しているから、父上は感謝を述べてくれたのだ。

『君は自分の立場を重々承知しているはず。調子に乗ったらどうなるか、わかっているよね?』という目配せ、もとい圧である。

一瞬で青ざめた彼は、びくりと体を震わせ、慌てて頭を振った。