軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

イビの歌声とリッドの作戦

「やってくれたね、リッド」

広間正面の壁際、螺旋槍の爆発によって立ち上がっていた爆煙が吹き飛び、フェイが姿を現した。

大きな曲剣を振り回し、煙を掻き消したようだ。

「でも、残念ながら僕は無傷だ。愚かにも君は貴重な魔力を無駄に消費しただけだよ」

彼は勝ち誇ったように大声を轟かせ、僕に向かって曲剣の切っ先を向けてくる。

だけど、僕はにやりと笑い返した。

「さて、それはどうかな。勝負はやってみないと最後までわからないからね」

「木偶と横並びに立つのは不本意だが、奴に好き放題させるのはもっといけ好かんからな」

剣を構えてイビの前に出ると、隣に薙刀を構えたマルバスが並びたった。

「へぇ、イビを後衛にするのか。でも、今更、陣形を変えたところで無意味でしょ」

フェイがこちらに向かって跳躍したその時、背後のイビから「すー……」っと深呼吸をする息づかいが聞こえてきた。

「何かするつもりか知らないけど、僕には全部無意味だ」

迫ってきたフェイが曲剣を振るい、僕とマルバスが同時に受ける。

広間に武器が打ち合う甲高い音が響き、衝撃波が巻き起こった。

「ぐ……⁉」

「ぬぅ……⁉」

僕とマルバスは、曲剣の斬撃から繰り出される想像以上の衝撃に歯を食いしばった。

「初戦と同じと思うなよ。今の僕は手加減無しだからね」

間近に迫る兜の隙間からフェイの歪んだ瞳が怪しく光る。

動きこそ当初同様の経験不足感が否めないけど、彼が発する魔力量は桁違いに増えていた。

まさに、力でごり押しというやつだ。

第一階層からここに来るまで。

そして、幻覚を打ち破るのも合わせれば、魔力と体力はもう限界に近くなってきている。

一対二の鍔迫り合いで僕達が押し込まれそうになるなか、「……世の罪を憂い、天を舞う裁きの鳥たちよ」と静かで、厳かなイビの歌声が聞こえてきた。

「我らに破邪の力を授け賜え、罪を背負う彼らに安息を与え賜え」

「なんだ、歌っているのか……?」

フェイが訝しむと、マルバスが鼻を鳴らした。

「獣人族がミスティナ教の『聖歌』に頼るとな」

「ミスティナ教……?」

フェイがマルバスの言葉に首を捻ったその時、僕の体が暖かい魔力に包み込まれていく。

すごい、体の痛みや疲れが急に消えた。

魔力もとんでもない勢いで自然回復していくのを感じるし、体も軽くなって頭も冴えていく気がする……これが、イビの歌声による補助魔法か。

驚嘆していると、急にフェイの曲剣が軽くなっていく。

僕とマルバスの力が強くなった……?

いや、それだけじゃない。

フェイの力が急激に弱くなっているんだ。

僕とマルバスが魔力を解放して押し返すと、「ぐ……⁉」とフェイは苦悶の表情を浮かべて吹き飛んだ。

「なんだ⁉ なんなんだよ、これは。急に体が重くなって、力が抜けていく……⁉」

フェイは受け身を取って着地するも、ついさっきまで纏っていた莫大な魔力がない。

というか、魔力が体から湯気のように漏れ出ているみたいだ。

「世の罪を憂い、天を舞う裁きの鳥たちよ。我らに破邪の力を与え賜え、罪を背負う彼らに安息を与え賜え」

イビの荘厳な歌声は声量はどんどん大きくなり、広間の壁全体がびりびりと震えている。

「そうか、この歌か。イビの歌声が、邪魔をしているんだな⁉」

フェイはじろりと歌に集中しているイビを睨むと、曲剣を構えて突進してきた。

「女神よ、我らを永久の灯りで照らし賜え。女神よ、罪深き彼らには永遠の裁きを。あなたは慈悲深く在られるのだから。裁きの鳥たちよ、彼らに安息を与え賜え」

イビの歌声は大きくて力強いのに、聞いていてとても心地よくて、心が勇気づけられる。

これも補助効果なのかもしれないけど、彼女の声がとても綺麗で澄んでいるからかもしれない。

「うがぁ……⁉」

突進していたフェイの足が突然にもつれ、勢いよく転んだ。

歌による弱体化効果で体が思うように動かないんだろう。

フェイは牢宮核【ダンジョンコア】の化身だろうから、魔力は彼にとって血液のようなもの。

それが漏れ出ているんだから、力が入らないのも無理はない。

「好機だ、行くぞ。木偶」

「わかった」

マルバスが薙刀を構えて駆け出すと、すかさず僕はその後を追った。

「馬鹿な……⁉ 馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な。ここは牢宮【ダンジョン】、僕の世界なのに。どうして魔力が抜けていくんだ」

フェイは困惑した様子で片膝を突き、顔を上げてハッとする。

「く、くるなぁあああ⁉」

迫り来る僕達に気付き、咄嗟に曲剣を振るった。

「遅い」

マルバスが薙刀の切っ先で曲剣を弾き飛ばし、勢いそのままに彼の兜を柄で打ち上げて素顔を露わにする。

その素顔は、小さな妖精がそのまま大きくなった白金色の髪に緑の瞳を持つあどけない中性的な顔立ちだった。

「木偶、後は任せたぞ」

「わかってる」

僕は即答しながら両手に魔力を込め、跳躍して正面からフェイの顔に跨がった。

「な、何を……⁉」

「フローベルを起こす。彼女を返してもらうよ」

そう告げると、僕は両手をフェイの顔に押しつけた。

「魔力変換強制自覚」

「……⁉ がぁあああああああああ⁉」

フェイの絶叫が広間に轟き、魔波が吹き荒れる。

「世の罪を憂い、天を舞う裁きの鳥たちよ。我らに破邪の力を与え賜え、罪を背負う彼らに安息を与え賜え」

イビの荘厳で力強い歌声が聞こえてくるなか、僕はゆっくりと目を瞑って手から流す魔力に意識を集中していく。

そして、僕の意識は深い深い闇の中に落ちていった。

「マルバス様、あまり無理をされないでくださいね」

急に女性の声が聞こえてきてハッとして目を開ければ、そこには黒い長髪と黒い瞳を持つフローベルが立っていた。

ただ、冒険者姿ではなく、ドレスの令嬢姿だ。

周りを見渡せば、どうやらどこぞの執務室らしい。

彼女が視線を向けた先では、マルバスが執務机に向かって事務処理をしている。

「エルバ様から部族長代行を任されたとはいえ、マルバス様の身はお一つ。どうか大切なさってください」

「わかっている。妻の君にも心配をかけてすまないと思っているよ」

なるほど、二人は夫婦なのか。

雰囲気的にどこか父上と母上っぽいなと思ったんだ。

妙に納得するも、僕はすぐに目を見開いて二人を二度見した。

二人が夫婦だって⁉

仰天していると執務室の扉が開かれて、小さな女の子と男の子が入ってくる。

「ちちうえ、あそんでよぉ」

「ははうえもおしごとばっかり」

な……⁉ 二人の間には子供までいるのか。

僕は言葉を失い、目の前の光景に唖然としてしまった。