軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

重要な問題

フェイが消えて程なく、牛鬼が倒れた場所に扉が出現した。

次の階層に進め、ということだろう。

ただ、僕達はすぐには先に進まなかった。

改めて互いのことに言及せずに平等な立場で牢宮【ダンジョン】攻略を果たすため、一時的に手を組むことを確認し、それぞれの情報を共有することにしたのだ。

質問をしても良いけど、答えるかどうかは各々の自由という条件でね。

最初に口火を切ったのは僕で、バルディアの山岳地帯で『助けを求める声』を聞いて返事をしたところで牢宮に誘われたことを伝えた。

合わせてバルディア領内で『一部の冒険者が唐突に牢宮に迷い込み、魔物に襲われて気を失った後、気が付けば装備と持っていた道具を無くして地上に戻っていた』という報告が上がっていたことも説明する。

僕も話を聞いた時は訝しんでいたけど、彼等が迷い込んだのはおそらくこの牢宮で間違いないだろうとも告げた。

報告にフェイの話はなかったから、牢宮に誘われたものの力不足か彼のお眼鏡にかなわず、追い出されたということなのかもしれないという僕の仮説も付け加えてね。

次に切り出したのはイビだ。

曰く、鳥人族領内でもバルディアと似たような現象が起きていたらしい。

生還者から牢宮に迷い込んだという報告があった場所を何カ所か回っていると、彼女も『助けを求める声』を聞いたそうだ。

咄嗟に『だれだ……⁉』と彼女が返事をしたところ、僕同様に誘われてしまったらしい。

牢宮の出口を探して彷徨いながら魔物を倒しているなかで子供を見つけて駆けつけたところ、それが僕だったそうだ。

最後はマルバスだけど、彼は僕を見て『どこで牢宮に迷い込んだかを言うつもりはない』と頭を振った。

でも、フェイの話にあった四人の狐人族は説明してくれて、旧グランドーク政権下から彼に仕えていた戦士達だそうだ。

狭間砦の戦いでエルバやマルバスが敗走した際、二人に合流してつい最近まで行動を共にしていたらしい。

その四人がマルバスの依頼で別行動をした末に連絡が取れなくなった。

彼独自の調査で四人が牢宮に迷い込んだ可能性が高いと判断し、彼は単独で牢宮に潜り込むことを決意。

優秀な四人を救うために活動を開始した結果、牢宮に潜り込みフェイと接触。

四人の命が無事であることを確認した上で、『遊戯【ゲーム】』を行うことになったそうだ。

「……という状況だな。それと、私がフェイと話して気付いた仮説も伝えておこう」

マルバスは眼鏡の山をくいっとして得意げに鼻を鳴らした。

「おそらく、この牢宮と地上で流れる時間にはズレが生じている」

「時間にズレだって?」

「おいおい、そんな牢宮の話は聞いたことがないぜ」

僕が首を傾げると、イビが肩を竦めた。

「どうやら、お前達は唐突にここにきたようだからな。気付かないのも無理はない」

マルバスはそう言うと、フェイとの会話であった違和感を教えてくれた。

地上で部下の四人が消息を絶ったのは一週間前だというのに、フェイは『あぁ、そういえば三ヶ月ぐらい前にそんな子達がいたね』とさも当然のように答えたそうだ。

「何だよ、大袈裟なことを言っておきながら根拠はそれだけか。あほくせぇ」

イビは呆れ顔でやれやれと頭を振るが、マルバスは真顔で「だから、鶏頭なのだ」と言ってため息を吐いた。

「んだと……⁉」

彼女は鬼の形相で詰め寄るも、マルバスは動じずににやりと笑った。

「ならば確認しようじゃないか。私達が牢宮に入り込んだ日時とここで過ごした時間が合っているかどうかをな」

「馬鹿馬鹿しい、そんなことあるわけねぇだろ」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」

イビとマルバスの間に割って入ると、僕は咳払いをして「でも……」と切り出した。

「入り込んだ日時と過ごした時間を確認するだけだし、検証しておく余地はあると思う。ちなみに僕が迷い込んだ日は……」

僕の言葉を皮切りに、マルバスとイビがそれぞれに牢宮に迷い込んだ日とここで過ごした肌感覚の時間を口にした。

驚いたことに、僕達がここに迷い込んだのは同じ日かつ近い時間帯であることが判明。

ただし、イビは五~六時間、マルバスは半日が経過した感覚を覚えていた。

なお、僕の感覚はまだ数時間だ。

「いや、でもよ。感覚にはどうしてもズレがあるだろ」

イビが訝しむと、マルバスは胸の内から懐中時計とメモ用紙を取り出した。

多分、懐中時計はバルディア製をどこかで手に入れたんだろう。

「私はここに迷い込むと同時に月日と時間を記している。そして、懐中時計はきっちりその時間を刻んでいるぞ」

マルバスが懐中時計の蓋を開けて文字盤を見せてくると、僕はハッして上着の懐から懐中時計を取り出して蓋を開ける。

そして、そこで指し示されている時間とマルバスの懐中時計が指し示す時間を見て背筋がゾッとした。

「……マルバス、懐中時計を地上で使っている時は当然時間を合わせていたんだよね」

「当たり前だ。言っておくが、牢宮に入ってから時計の時間は触っていないぞ」

彼がさも当然のように頷くと、僕は喉を鳴らして息をごくりと呑んだ。

「なら、君の時間軸がずれている仮説は当たりだ」

「おい、悪役主人公【ダークヒーロー】。どうしてそうなるんだよ」

イビが眉を顰めると、僕は手に持つ懐中時計の時間を見せた。

彼女は首を傾げると、すぐに気付いて「な……⁉」と目を丸くする。

マルバスの時計と僕の時計が指し示す時間は、約一二時間ずれていたのだ。

「僕、イビ、マルバスが牢宮に迷い込んだ時間帯から察するに、おそらく地上での一時間がここでは一二時間ぐらいなんだと思う」

「まじかよ……」

「やはりな」

イビは顔を引きつらせ、マルバスは合点がいった様子で頷いた。

前世の昔話の浦島太郎に出てくる竜宮城みたいなところだな。

ただ、浦島太郎の場合は竜宮城で過ごす時間がゆっくりで、地上での時間が早かったはずだ。

この牢宮はその逆だから、まだ何とかなるかもしれない。

僕は咳払いをして「でも……」と話頭を転じた。

「地上での一時間が一二時間なんだとしたら、牢宮攻略に多少の時間が掛かっても大丈夫ということでしょ。地上に戻った時、そこまで影響はないとも考えられるんじゃないかな」

「時間が掛かりすぎれば、私達は無駄に寿命を消費することになるがな」

マルバスは眼鏡の山をくいっとしてすまし顔を浮かべると、「それより、もっと重要な問題がある」と切り出した。

「重要な問題……?」

僕とイビが顔を見合わせると、マルバスはため息を吐いた。

「木偶共が、私達が攻略に使える時間だ。牢宮内であと七日、地上だと一四時間程度というところだな」