軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドの手

「あっはは、当たり。当たりだよ、リッド」

「貴様、消えたくせにしゃしゃり出てくるな」

咲き乱れる花の中から忽然と現れたフェイに向かって、マルバスが声を荒らげる。

フェイは悪戯好きな妖精らしく、僕達の頭上に舞い上がって続けた。

「マルバス君はね。以前、ここに来た四人の狐人族を探して自らやってきたのさ」

「四人の狐人族……?」

僕が首を傾げて横目で見やると、マルバスは「余計な事を……」と舌打ちした。

「そうさ、大切な人達だったらしくてね。僕の友達になって遊戯【ゲーム】する条件として、彼に四人の存在と門番のことを伝えていたんだよ」

フェイが楽しそうに告げると、イビが「くっくく……」と喉を鳴らしながらマルバスを横目でにやりと見やった。

「ぼんぼん眼鏡がクソ蝶と友達か。お似合いの二人だぜ」

「……そういうお前も友達になったはずだ。その言葉、そっくりそのままお返しするぞ。提灯持ち」

「んだと……⁉」

「ふん……⁉」

イビが鋭い眼光を放ち睨み付けるも、マルバスは鼻を鳴らして一歩も引かない。

そのやり取りを見ていたフェイがけらけらと笑い出した。

「まぁ、そうしたことで僕はマルバス君に教えてあげたのさ。君の探す人物は門番となって、下の階層に続く道を守っているとね。そして、皆を助けたくば牢宮の最下層に辿り着く必要があることも教えてあげたんだ。はは、僕って優しいでしょ」

「そ、そうだね」

相槌は打ったけど、フェイはマルバスの話を聞き、友達を事実上強制したということだろう。

僕は口元を若干引きつらせつつも、マルバスに視線を向けた。

「つまり、お前は、いや、君にとって大切な人達を救うためにやってきたってことか」

「勘違いしてもらっては困る」

マルバスは冷たく告げると、眼鏡の山をくいっと上げた。

「大切な人ではない、優秀な部下の誤りだ。アモンや木偶達の家族ごっこと一緒にするな」

「……そうか、それならそれでいいよ」

彼の答えに頷きつつも、僕の心の中で強い憤りが湧き上がった。

「でも、優秀な部下だろうが何だろうが、他人を大切に思える心があるなら、どうしてそれをもっと沢山の人達に向けなかったんだ」

「ここにきて下らんことを尋ねるな。そもそも、優秀な部下と無能な者の命は等価値ではない。一騎当千という言葉があるように、一人で千人の働きをする者は存在する。リッド・バルディア。認めたくないが、貴様がそうであるようにな」

「だとしても、それは他人を踏みつけにして良い理由にはならないはずだ」

彼と話していると、どうしても『狭間砦の戦い』のことが脳裏をよぎる。

戦で亡くなったクロスをはじめとするバルディアの騎士達、旧グランドーク家に仕えていた狐人族の戦士達。

彼等は前部族長ガレスやエルバ、マルバス達が行った政策による犠牲者という見方もできるからだ。

僕とマルバスが睨み合っているなかで「おい……」とイビが切り出した。

「ぼんぼん眼鏡と木偶が、道徳の問答なら地上に帰ってからやりやがれ。下らねぇことで言い争ってんじゃねぇよ」

「いやぁ、リッドとマルバス君には面白い因縁があったんだねぇ」

僕達の頭上にいたフェイが嬉々とした表情を浮かべ、楽しげに続けた。

「憎み合う二人が牢宮【ダンジョン】で出会うも、止むなく協力するなんて最高の劇だよ。果たして、君達が牢宮の最奥に辿り着くことができるのか。改めて楽しみだよ。それじゃあ、ばっはは~い」

そう告げると、彼は再び光の粒となって霧散してしまう。

光が消えてなくなると、マルバスが顔を顰めて舌打ちをした。

「……全く、いけ好かない奴だ」

「お前もな」

イビがすかさず突っ込みを入れて「くっくく……」と笑い出すと、僕は深いため息を吐いてマルバスに手を差し出した。

「君の部下を救出することに手を貸すよ。その代わり、牢宮攻略に協力してほしい」

「下らん、私一人でも門番を倒すことはできる。やり方もわかったからな」

「それはどうかな」

「なに……?」

僕が目を細めると、マルバスは眉をぴくりとさせた。

「フェイの口ぶりと性格上、次の門番でも簡単に翡翠の丸玉を破壊させてくれると思っているのかな」

「む……」

「まぁ、そりゃそうだわな。あのクソ蝶のことだ。何かしら仕掛けを入れてくるだろうぜ」

彼が言い淀むと、イビが頭の後ろで両手を組みながらおどけた。

「僕が支援、イビが遊撃、君が主力。役割分担を決めて動けば勝率は確実に上がる。おまけに階層はまだ六階もあるんだ。交代制で休みを取る必要性も出てくるでしょ」

そう告げると、僕は自分の手を見つめた。

「それにこの手は、決して君のために差し出すんじゃない。バルディアで帰りを待ってくれている皆のためだ。君だって失敗できない、絶対的な理由があって部下を救いにここまできたはずだ」

「……良いだろう」

マルバスは顔を顰めたまま頷くと、彼も自身の手を見つめた。

「私のこの手も、断じて貴様達のためなどではないぞ。本音を言えば、木偶共と手を組むなど口が裂けても言いたくない、反吐が出る。だが、私達が返り咲く未来のためだ。甘んじてその手を握ってやろう」

彼がそう言って手を握ろうとすると、僕は目を細めてスッと手を引いた。

「甘んじて握るのも結構だけどね。僕達はこれから互いのことに言及せず、平等な立場で接するんだ。最初にこちらの申し出を袖に振っている以上、せめて人に頼る時に使う七文字の言葉ぐらい使ってほしいものだね」

「なんだと……?」

彼がむっとして眉を顰めると、イビが「はは、さすが悪役主人公【ダークヒーロー】だ」と笑い出した。

「生憎、あたしも頭の悪い鶏頭なんでねぇ。背中を預ける以上は最低限、人を頼る時に使う言葉ぐらい聞きてぇもんだ」

「木偶共が……」

マルバスは舌打ちをして口を尖らせ、わなわなと苛立った様子で自らの頭をかきむしる。

そして、深いため息を吐いて眼鏡の山をくいっとして僕とイビを見やった。

「お、お……が……ます」

「おがます? 僕達を拝んでもしょうがないでしょ」

わざとらしく首を捻って聞き返すと、マルバスはかっと目を見開いた。

「お願いします。これで良いだろう」

「えぇ、こちらこそお願いします」

マルバスは僕の手をほんの一瞬だけ握って手を離し、鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

「はは、おもしれぇ。中々おもしれぇことになってきたじゃねぇか。あっははは」

僕達のやり取りを見ていたイビは破顔して腹を抱えながら大声で笑い出し、その笑い声は牢宮内に響きわたっていた。