軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

パドグリー家と守護十翼

イビを筆頭とする守護十翼【ブルートリッター】の護衛下で関所を出発してから、それなりの時間が経過した。

木炭車が移動している街道は整備されているみたいだけど、車窓の景色は高い木々の深森がずっと続いている。

どうやら、鳥人族領は森林豊かな土地みたいだ。

鳥人族は空を飛べるし、高い木々の森林に覆われていた方が外敵の侵入を防げるのかもしれない。

森の道を知らない者が街道を外れて深い森に入れば、たちまち遭難してしまうはずだ。

この世界に救助組織なんてないから、最悪はそのまま人知れずに亡くなってしまう可能性が高い。

斜に構えた見方をするなら、余所者はお断り。

もしくは、余所者に知られたくない何かが鳥人族領にあるか、だ。

「……静かですね」

近くの席に座っていたティンクがおもむろに切り出した。

「うん。本当に牢宮【ダンジョン】から魔物が溢れたのか……ちょっと気になっちゃうよね。ティンクは溢れた状況を見たことあるの?」

聞き返すと、彼女はこくりと頷いた。

「はい、冒険者をやっていた頃にあります。人の立ち入らない深山や廃村で発生した際、土地を管理している領主や国から冒険者ギルドに協力要請が出されることがありまして、それに何度が参加しました」

「へぇ、そうなんだ。でも、バルディアが冒険者ギルドに協力要請をしたって話はあんまり聞いたことがない気がするね」

バルディアにも冒険者ギルドはあるけど、バルディア家から協力要請を出した、というのはあまり聞いたことがない。

エルバ率いる狐人族との戦いが起きた時、傭兵急遽の依頼を出したぐらいだろうか。

ちなみにクリスティ商会は、結構こまめにギルドへ依頼を出しているらしい。

よくよく考えると、バルディア家がクリスに出した依頼の一部がクリスティ商会を通して冒険者ギルドに発注されているわけだ。

間接的には、バルディアも冒険者ギルドを活用していることになるのかな。

「それはバルディアの騎士団が優秀だから、ですよ」

ティンクはゆっくりと被りを振った。

「土地を管理している領主や国が自前の騎士団や軍で解決できるところもありますが、兵力が足りない。もしくは何かしらの事情で派遣できないとなった場合、冒険者ギルドに協力要請がだされます。バルディアは第一と第二騎士団がありますし、どちらも優秀ですからね。牢宮の件だけで言えば、冒険者ギルドに依頼を出すことはまずないと思います」

「なるほど。じゃあ、今頃ルーベンスが騎士団を率いて頑張ってくれているのかもね」

「ふふ、そうかもしれません。ディアナと結婚して子どもが生まれるとなってから、彼は以前にも増して頑張っているようですから」

彼女は笑みをこぼすと、「ところで、リッド様」と神妙な顔つきになった。

「どうしたの?」

「差し支えなければ、アリアのことを少し伺ってもよろしいでしょうか?」

「あぁ、そっか。ティンクはアリアがバルディアに来た時、まだ復帰してなかったね」

「はい。ディアナから引き継ぎはしていますが、よければこの機に本人の口からも聞いておきたいと思った次第です」

ティンクはそう告げると、さりげなく車内にいるアリアを見やった。

イビから冷たくあしらわれて以降、彼女はいつのも明るさがなくなってしゅんとしたままだ。

何度か励ましたんだけど、今も車窓からぼうっと外の景色を眺めている。

「……それに何か話した方がアリアも落ち着くと思います」

「そうだね。わかった」

僕は席を立ち上がると、ティンクと一緒にアリアの座席まで移動した。

ちなみに同じ車内にいるカペラも言葉や顔には出さないけど、アリアの近くに座っていて、彼なりに気をかけてくれているみたい。

「隣に座っていもいいかな?」

「私もいいですか?」

二人そろって声を掛けると、外を眺めていたアリアはハッとしてこちらを見やった。

「え、う、うん。大丈夫だよ」

「じゃあ、失礼するね」

僕はアリアの隣に腰かけ、ティンクが正面の座席に腰掛ける。

ちなみにカペラは通路を挟んだ隣の座席に座っていて、子猫姿のクッキーが正面の座席に座っている状況だ。

車内の空気が張り詰めていくなか、僕は咳払いして切り出した

「アリア、色々と悩んでいることや困惑していることも多いと思う。でも、確認の意味も込めて、改めて君がバルディアに来るまでの経緯。そして、イビやイリア。守護十翼とホルストについて知っていることを話してくれないかな」

「あ……」

言わんとしていることを察した様子でアリアが目を瞬くと、ティンクが優しく微笑みかけた。

「私は貴女のことをディアナやメイド長のマリエッタ、副メイド長のフラウ。それからバルディアに来たばかりの貴女達をお世話していたメイドのレオナやマーシオ達から、可愛らしい頑張り屋と聞きました」

「え、そうなの?」

アリアが首をかしげると、ティンクは目を細めて頷いた。

「はい。それと弱い部分を人に見せようとせず、抱え込んでしまうところがあるとも聞いています。皆、その点をとても心配していましたよ」

「え、えぇ……⁉ わ、私そんな風に見られてたの」

恥ずかしそうにアリアが顔を赤らめると、僕は思わず噴出してしまった。

「確かに、アリアは抱え込んじゃうところがあるよね。お姉ちゃんだからって、そんなに背伸びしなくてもいいのに」

「も、もう、お兄ちゃんまで……⁉」

アリアが頬を膨らませると、僕は彼女の頭を優しく手を置いた。

「僕はアリアにとって『お兄ちゃん』なんでしょ? じゃあ、可愛い妹の悩みや困ったことを解決してあげたいと思うのは、兄として当然じゃないか」

「お兄ちゃん……」

「アリアがイビやイリアにもバルディアに来てほしい、というなら僕は可能な限り協力すると約束したでしょ? 思い出すのは辛いかもしれないけど、もう一度教えてくれないかな」

「……うん、わかった」

こくりと頷くと、アリアは自身と異母姉妹達が鳥人族領にいた頃をぽつりぽつりと語りだした。

曰く、パドグリー家は獣人国ズベーラの中でも特に強化血統の考えが根強い種族だという。

強化血統とは、自らの部族を獣王とすべく優秀な者同士で子を成していく文化のことだ。

血が濃くなりすぎるとことでの弊害も確認されているようで、昨今ではその文化は少しずつ薄れているらしい。

ただ、一部では未だに強化血統の考えが根強い豪族もいるらしく、中でも鳥人族はその筆頭だそうだ。

帝国にも『帝国純血主義』なんていう思想もあるし、どの国にもそうした考えは一定数は存在するということだろう。

アリアと妹達は、パドグリー家で長年行われている強化血統による分家の血筋として生まれ、言葉も話せないうちから一緒に厳しい訓練を施されたそうだ。

能力差によって待遇がだんだんと変わっていき、アリアの双子の妹である『イリア』がアリア達姉妹のなかで抜きんでた力を持っていると判断がされた。

それから間もなく、激しい訓練で衰弱していたアリア達はバルストでまとめて奴隷として売られてしまうが、運よくバルディアに流れ着いたそうだ。

バルストに売られる際、アリアは豪族らしい人物から『これはホルスト様の指示だ』と言われたという。

でも、この点はホルストが王都で話していた『一部の豪族が独断で行った』という内容と食い違っている。

僕が信じるのは、もちろんアリアの言葉だけどね。

「……というのがバルディアに私達が流れ着くまでの流れだよ」

「なるほど、ディアナ達から聞いた話と同じですね」

合点がいった様子でティンクが頷いた。

その姿を横目に僕は「それじゃあ……」と切り出していく。

「次はイビ・パドグリー。そして、守護十翼について知っていることがあれば話してくれるかな」

「うん……」

アリアは頷くと、おもむろに口火を切った。