軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

牛人族領での朝

牛人族領での会談、懇親会が終わった翌朝。

部族長屋敷の来賓室で過ごした僕とアモン達は、朝食の席にも呼ばれた。

今日の服装はさすがに普段から着ている帝国様式だ。

アモンも同様に狐人族式の服を着ている。

あれはあれで良いんだけど、やっぱり着慣れているほうがどうしたって動きやすいところがある。

あと、仕草一つにしても文化的に大丈夫かなとか、動き慣れてないせいで服を破ってしまったらどうしようとか、結構な気を遣う。

バルディアに帰って、皆で着て楽しむ分はいいと思うけどね。

衣装は皆の分を手配したから、どんな姿になるのか。とても楽しみにしていることの一つだ。

牛人族の女性に朝食の場に案内されると、僕は目の前に広がる光景の既視感で唖然としてしまった。

バルディアとクリスやアモンのような関係者、熊人族部族長カルアと豪族関係者、牛人族部族長ハピスと豪族関係者。

朝食に参加する人が多いから、懇親会と同じ会場かつ立食式で好きな机で食べる、というのはまだわかるよ。

「……これ、本当に朝から食べるの。昨日の夜もあんなに食べたのに?」

そう眼前に広がっていたのは、懇親会で目を丸くした極盛り料理の皿が再び机一杯に置かれていたのだ。

皮肉なのか、なんなのか。

その量の多さから通常では考えられないほどの彩り豊かな食卓となっている。

昨日の夜の懇親会から、どれだけの時間が経過したというのか。

僕の感覚が間違っていなければ、一晩しか経っていないはず。

まさか、僕達以外の牛人族や熊人族は夜通しの稽古を行って、朝食に備えてお腹でも空かせていたとでもいうのだろうか。

「おぉ、これはまた美味そうだ。昨日の夜は、立ち話が多くて食い足りんかったからな」

「私もだ。多少は食べたが、夜のうちに腹が鳴り始めてしまったな。妻から怒られてしまったよ」

「父上、早く私の分も取ってよぉ」

「あぁ、そうだったな。どれ、これぐらいかな」

「えぇ、もうちょっとほしい。あ、それから母上の分も沢山だよ。お腹減ってるんだって」

牛人族の豪族らしき男性二人と子供が談笑しながら料理を装っているが、その手に持つ皿に載せる量がえげつない。

僕の顔一個分ぐらいの料理を載せているんじゃなかろうか。

というか、食い足りないとか、夜のうちに腹の虫が鳴りはじめただって? 懇親会の料理、みんなで綺麗さっぱり食べていたじゃないか。

食べ物で驚愕しただけに、開いた口が塞がらない、とはまさにこういったことをいうんだろうな。

僕のつぶやきに答えるように、アモンが「はは……」と乾いた笑いを噴き出した。

「牛人族と熊人族は、その体格から老若男女問わずに大食漢と聞いてけど。まさか此程とはね」

「昨日といい、見ているだけでお腹いっぱいになりそうだよ。まぁ、とりあえず食べようか」

あまりに食事量が違いすぎて、ここまでくると文化的衝撃だなぁ。

皆で座る場所を決めると、カペラやティンクが料理を取ってくると言ってくれたけど「折角だから、僕も自分で選んでみるよ」と答え、極盛りの料理を見て回った。

まぁ、最初はこれもたのしかったんだけどね。

「あら、リッド様。そんな量では失礼ながら大きくなれないのでありませんか? 是非、これぐらいは食召し上がってください」

僕が皿に取る料理の量を見る度、牛人族の女性達が心から心配そうに自分達の皿を見せてくれた。

でも、彼女達が見せてくれる『量』は、帝国人の成人男性でも食べきれないのではないか、というような最低でも『大盛り』である。

あれだけの量となれば、バルディア騎士団のルーベンスやダイナスといった大食漢じゃないと無理。

まして、絶対にその量は子供には無理だって。

「お気持ちは有り難いのですが、どうやら人族と牛人族の皆様では一度に摂取できる食事量が大分違うようでして。残念ながら、私はこれだけでも十分お腹いっぱいになりますよ」

「えぇ⁉ 本当ですか。それぐらいの量、赤ん坊でも食べてしまいますよ」

牛人族の女性達は目を丸くするが、僕が皿に取った量も結構あるよ? 赤ん坊からこれぐらいの量を食べるって、人族と違って牛人族の胃袋は四つぐらいあるんじゃないかと疑ってしまう。

「どうか、そんな遠慮せずに召し上がってください」

「いやぁ、本当にそんなに食べられないんですよ」

苦笑しながら断るも、彼女達は中々引いてくれない。

表情や声からして、本当に心配してくれているんだろうけど。

さすがに困ったな。

これなら、最初からカペラとティンクに料理を取ってきてもらえば良かったかも。

一応、二人は近くに控えてはいるけれど、彼女達は牛人族の豪族関係者。

カペラやティンクよりも身分が上だ。

下手に僕との間に入れば、国は違えど身分差でややこしいことになりかねない。

さて、どうしたものか。

横を見やれば、僕と一緒に料理を取りにきたアモンも牛人族の女性に囲まれて対応に困り顔を浮かべていた。

「その辺にしておくんだ」

低い声が聞こえて振り向けば、そこにはハピスとカムイが立っていた。

「ハピス様、カムイ様。おはようございます」

牛人族の女性達が畏まると、ハピスは「気にするな」と手を振った。

「それよりも、リッド殿は人族。アモン殿は狐人族だ。我らとは体の作りが違う。リッド殿が自分用に取った量は、人族の子供で考えれば多い方だ。それ以上は善意であっても失礼にあたるぞ」

「あ……」

僕とアモンが言っていたことを、ようやく信じてくれたらしい。

女性達はハッとして、僕達に頭を下げた。

「無理強いをするような形になり申し訳ありませんでした」

「いえいえ、気にされないでください」

彼女達に顔をあげてもらうと、僕は小さく咳払いをした。

「本当でしたら私も皆様のようにもっと沢山食べたかったんですが、こればっかりは体の仕組みが違うのかと。残念ですが、お気持ちは有り難く頂戴いたします。そして、牛人族の女性は皆とても優しく、慈しみに溢れている。素敵な方々であることがよくわかりました。本当に気を遣ってくださり、ありがとうございます」

僕の言葉に嘘偽りはなく、本心だ。

実際、牛人族の人達が食事する姿は、見ていて気持ち部分もある。

僕もあれだけ量を食べられたら、それはそれで食事がより楽しくなるだろう。

食費がすごいことになりそうだけど。

身長差から彼女達の顔を上目遣い見つめながら微笑み掛けたところ、何故か彼女達が一斉に何やら固まった。

「えっと。どうかされましたか?」

小首を傾げて聞き返すと、彼女達はハッとして勢いよく頭を振った。

「い、いえ。なんでもありません。では、私達はこれで失礼いたします」

蜘蛛の子を散らすように彼女達がこの場から去ってしまった。

はて、どうしたんだろうか。

きょとんとしていると、「ふふ……」とハピスが噴き出し始めた。

「なるほど。リッド殿はその活躍から型破りな風雲児と呼ばれる一方、国々の有力者と縁を次々と結ぶ姿から『人たらし』という噂があったが、こういう意味もあるのか」

「人たらし、ですか?」

『型破りな風雲児』は最近よく言われるけど、人たらしというのはあまり聞いたことがない。

また根も葉もない新しい噂でも飛び交い始めたのかな。

というか、どうして牛人族の女性と話していたことが『人たらし』になるのか、よくわからないんだけど。

「茶化すな、ハピス。お前の種族の女性達が『可愛いもの』に目がないだけだろう。リッド殿の仕草に牛人族の強い母性本能を擽られただけの話だ」

「え……?」

僕の仕草に牛人族の母性本能が擽られたって、どういうこと? 呆気に取られていると、カムイが咳払いをした。

「それよりも、だ。リッド殿、今日は牛人族領内で水田ができる場所の確認に回るのであろう」

「あ、そうですね。測量できるカペラ達と一緒に見ていくつもりです」

牛人族の衣装を着た僕とアモンが絵を描かれている間のこと。

カペラは豪族達から提示された地形図を確認して聞き取り調査を行い、地の傾斜と水脈を確認して決候補地を選んでくれたから間違いないだろう。

彼は暗部出身にもかかわらず、レナルーテ王国の様々な知識を持っている。

水田の測量、検地が素早く実行できるのもカペラの存在が大きい。

「そうか。私も測量には同行するが、途中で一足先に熊人族領へ戻らせてもらう。水田の件、貴殿達の提案で豪族達が強く関心を持ってな。候補地選定や他の資料をまとめるためだ。先に伝えておこうと思ってな」

「畏まりました。では、皆にもそのことを伝えておきますね」

良かった。

熊人族の豪族達にも、ちゃんと水田の魅力や可能性が伝わっていたようだ。

ただ、気になることもある。

牛人族と熊人族に沢山お米を作ってもらい、クリスティ商会がその米を買い付け。

バルディアに運び入れて様々な加工を施して販売という目的があったんだけど、昨日今日で見た牛人族の食事量から察するに大量買い付けできるほど、お米が余らないかもしれない。

まぁ、それはそれで、牛人族の食糧問題が解決したことで多大な恩が売れる。

これも、将来の断罪回避に向けた立派な布石になるはずだ。

僕が頷くと、ハピスが「ところで……」と切り出した。

「検地はできる限り早めに終わらせるか。カペラという者に任せた方がいいのではないか」

「え、どうしてですか」

聞き返すと、ハピスはにやりと口角を上げた。

「牛人族の獣化を教えてほしいのだろう。伝えるにしても、時間があまりない故な」

「……⁉ そうでしたね。では、水田候補地を見て回る件、カペラと相談してみます」

狸人族と続き、牛人族の獣化について学べる。

バルディアとしてみれば第二騎士団の強化に繋がるし、個人的にみれば対ヨハン戦の糸口探しの一つ。

僕は平静を装って微笑みつつも、内心ではワクワクが止まらなかった。