軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

牛人族の問題……?

会談が終わってアモンと僕の絵がほぼ出来上がり、ようやく動けるようになった頃には、もう日が落ち始めていた。

いや、絶対に絵よりも現地調査と視察に行った方がよかったでしょ。

僕とアモンは互いに呆れていたけど、一方で部族長屋敷内では、バルディア関係者、狐人族、熊人族、牛人族で行う懇親会の用意がされていた。

合流したカペラの報告だと、牛人族の豪族達と調査候補地の確認と予定の調整は済ませてくれたそうだ。

彼曰く『外遊はまだまだ続きます故、今日は懇親会を通じてお休みください』ということだった。

絵のことは想定外だったんだろうけど、これ幸いと気を遣ってくれたみたい。

僕とアモンは普段の服装に着替える間もなく、牛人族の衣装のまま懇親会に参加することになった。

帝国人である僕や狐人族のアモンが文化交流とはいえ、牛人族の衣装を着ているのは珍しかったようで、しばらくは注目を浴びることになる。

ただ、僕としても牛人族と一部熊人族の豪族との懇親会は、ある意味で今まで一番の衝撃を受けることになった。

まず目を見張ったのが、会場の食卓にところ狭しと並べられた料理が大盛りというか特盛り、いや、そんな言葉じゃもの足りない。

月並みな表現でしか言えないけど、料理は全て極盛りで置かれ、ともかく圧倒される量だったのだ。

立食式の懇親会とはいえ、いくら何でもこんな量は食べられないでしょ。

こんなの、見ているだけでお腹いっぱいになっちゃうよ。

呆気にとられるばかりだが、僕はすぐにまた目を見張ることになった。

会談中は誰も彼もが席に座っていたし、会談が終わると僕はすぐに絵師の待つ別室に移動したから実感が遅れていただけだったんだけど。

会場にいる牛人族と熊人族は、どちらも身長が高く体格が良い人ばかりだったのだ。

牛人族と熊人族の成人男性は、誰も彼もが七尺(約210cm)を超えようかという高身長。

低くても父上と同じか、それ以上の身長を持つ人ばかり。

談笑は常に上を見上げながらで、気持ち的に首や肩が痛くなるような気がした。

一方、牛人族の成人女性に目をやれば、男性よりも小ぶりな二本の角が頭部に生え出ており、ふさっとした印象のある横耳が生えている。

身長は五尺(約150cm)から七尺弱(約210cm)ぐらいで、意外と身長はまばらだ。

しかし、彼女達は女性特有の上半身にある身体的特徴が共通して大きい。

ともかく大きくて抱擁力に満ち溢れていた。

牛人族の成人女性かつ高身長の方に目の前に立たれると、当然、僕は会話で相手の顔を見るために見上げる。

でも、その場合、類に漏れず女性特有の上半身にある身体的特徴にどうしても気圧されてしまうので気まずい。

多分、相手方の女性は意図していないだろうから、さりげなく一歩引くようにして会話することになった。

「リッド様とアモン様を含め、多種族のお子様は皆様とても小柄で愛らしいですね。よければ、一度抱きしてもよろしいでしょうか」

「あはは。公共の場ですし、皆様の目もありますからご遠慮ください。お気持ちだけ頂戴しておきます」

牛人族の女性達は自らの体格に自信を持ち、母性が強くて可愛いものにも目がないらしい。

数人の女性からそんなことを言われたけど、僕とアモンは頬を掻いて苦笑しながら丁重に断った。

懇親会の場にいる、ということは豪族関係者だから無下な断り方はできない。

最初に言われたときには意図を図りかね、どう断ろうかと相当に焦った。

途中、ハピスが助け船を出してくれたからよかったけど。

ある意味、会談で飛び交う質問に答えるよりも緊張した。

彼女達の申し出に悪気や悪意はなく、牛人族の女性が持つ包容力の高さからくるものだったように思う。

ただ、助け船を出してくれたとはいえ、ハピスが出てくるのは明らかに遅かったんだよね。

彼は口元を緩めていたから、僕とアモンが困惑する様子を遠目で楽しんでいたに違いない。

ハピスめ、この件は忘れないからな。

そういえば、帝国人の女性も大陸の中では高身長に入るそうだ。

でも、牛人族の女性の身長や包容力には、大陸で右に並ぶ種族はいないんじゃなかろうか。

唯一、熊人族の女性が近いかもしれないが、この場の熊人族は男性しかいないので確かめようがない。

レナルーテ王国のダークエルフを比較に思い返してみると、帝国人よりも男女ともに身長は低め。

体格もすらっとしている人が多かったように思うけど、男女ともに顔立ちが整っている人ばかりだった記憶がある。

ちなみに帝国人である母上は高身長でスタイルもいい。

体格で言うなら華奢だろうか。

ダークエルフのファラは、小顔でとても可愛らしい顔立ちをしている。

エルティア母様のことを考えれば、将来は凄い美人になるんじゃなかろうか。

バルディアの食事は栄養価も高いだろうから、身長も伸びるかもしれない。

何だか、ファラに会いたくなってきたな。

本当は彼女も一緒に来れればよかったんだけどね。

ファラはバルディアに嫁いだとはいえ、レナルーテの王族出身。

帝国とレナルーテの関係から『人質』という側面もあるから、遠出はなかなか許されない。

本当に残念だけど、こればっかしは国同士の政も関わるから今の僕にはどうにもできないところだ。

まぁ、いずれその辺りもどうにかできるような影響力を持ってみせるけどね。

バルディア断罪の未来を防ぐほどの影響力を僕が持てば、ファラも気兼ねなく一緒に遠方に行けるというわけだ。

そのためにも、こうして部族領を回って将来に備えているわけだからね。

この会談が終わったら、ファラに手紙を書こうかな。

それにしても……。

僕は会場にいる牛人族の女性達をそれとなく見渡した。

ないとは思うけど、母上がこの場にいたらちょっと苛立っていたかも、なんてね。

『リッド。何か言いましたか?』

『へぇ。リッド様はそういう女性がお好きなんですね』

『兄様、ちょっと幻滅する』

『リッドお兄様、そういう目で見るのはどうかと存じます』

『リッド兄様、不潔です』

突然、母上、ファラ、メル、ティス、シトリーのとてつもなく冷めた声が脳裏に響いて背筋に戦慄が走った。

慌てて周囲を見渡すが、当然、皆はいない。

「あ……」

でも、何やらジト目をしたクリス、ティンク、エマと目が合った。

特にティンクとエマの視線がちょっと暗いというか、怖い気がした。

僕は「あはは……」と苦笑しながら、とりあえず彼女達に向かって軽く頭を下げる。

そうしなければ、大変なことになるような気がしたからだ。

豪族との挨拶や談笑が落ち着いてくると、僕とアモンに歳が近い感じがする牛人族の令嬢達がやってきた。

毎度お決まりになってきたなぁ。

しかし、彼女達にも立場がある。

決して無下にしないよう挨拶を交わしつつ、僕は話題の中に『妻のファラを如何に大好きか』ということを入れていく。

少し離れた場所に控えているティンクを横目でちらりと一瞥し、彼女の夫であったクロスが妻自慢を語って聞かせてくれたように、ファラのことを令嬢達に自慢していった。

僕の語り口調で察したのか、ティンクが「ふふ、リッド様。うちの馬鹿旦那みたいだわ」と噴き出しているのが、うっすら見て取れた。

公衆の面前でファラを大好きであることを語って恥ずかしくないのかって?

そう問われれば、そりゃ、ちょっと気恥ずかしい気持ちもある。

でも、僕がファラを大切にしていることは事実だし、何よりも『リッド・バルディアは妻にのぼせ上がっていて、他の令嬢に全く興味を示さない』となれば縁談も減るし、何よりもこの場で話しかけてきた令嬢達の立場を守ることもできる。

『あわよくばと、リッド・バルディアに声を掛けてみたが噂通りに彼は愛妻家だった。入り込める隙間は微塵もない』

令嬢達もこれなら言い訳が立つし、彼女達をけしかける人達も『駄目元』という形になるだろう。

期待が大きければ、失敗したときの反動も大きい。

でも、駄目元なら、反動はほとんどないはずだ。

途中でアモンが呆気に取られていたけど、それとなく意図を伝えると彼はハッとして「それはいいな」と目から鱗が落ちた様子で頷いた。

それ以降、アモンは婚約者である「ティス・バルディアに夢中なんだ。どうすれば彼女の心を射止められるだろうか」と令嬢達に逆質問を始める始末。

一応、ティスは僕の義妹になるから、その話を傍でされるのは何とも言えない気持ちになった。

懇親会中にはハピスやカムイと談笑する時間もあって、二人にも『獣化の知識』を教えてほしいと依頼。

狸人族の時同様、『打ち込み君』を交渉材料にしてね。

獣化の依頼は快諾されたけど、やっぱり僕との手合わせは『部族長の肩入れになるのでできない』と二人揃って断られてしまった。

ズベーラの国内政治と文化の問題だから、この件については僕もそこまで食らいつくことはしない。

むしろ、獣化の知識を得られるだけでも十分だ。

懇親会が終わる頃、僕はとある光景に気付き、思わず二度見し、「な……⁉」と目を皿にしてしまった。

会場の食卓に極盛りで置かれていた途方もない料理の数々が、見るだけでお腹いっぱいになるような料理の数々が。

皿だけ残して、見事に綺麗さっぱり消え去っていたのだ。

しかも、よく見れば豪族達の手には大きな『おみや』らしきものまで下がっているじゃないか。

一体、どれだけ食べるのか。

「いやぁ、今日の料理は美味しかったな。だが、少々物足りんな」

「そうですね、あなた。でも、今回は来賓の方々がいらっしゃるからいつもより多く作ったそうですよ」

「父上、母上。まだ食べ足りませんよぉ」

「そうねぇ。おみやを沢山もらったから、後は家でご飯を作って一緒に食べましょうか」

「うん、やったぁ。母上の料理、だーいすき」

とある豪族の仲睦まじい家族の会話が聞こえてきて、僕は耳を疑い、目を瞬いた。

まだ、食べるのか。

いや、それよりも家族揃って食べ足りないって。

そりゃ、食糧不足にもなるよ……。