軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

対ヨハン戦訓練2

「そこまで。五分経過したぞ」

カーティスの声が聞こえてくると、アルマとベルカランはハッとして構えを解いた。

「……あと一歩だったのに」

「いいじゃないですかぁ。リッド様に重い一撃を与えられたのは、間違いなくアルマちゃんが考えた段取りのおかげですよぉ。私は満足ですねぇ」

「あら、ベル。貴女、わかってるじゃない」

口を尖らせていたアルマだったが、ベルカランの言葉で機嫌を取り戻したようだ。

この二人、意外と良い組み合わせなのかもしれない。

「んじゃ、次はあたし達の番、です」

「よろしくお願いします」

面倒くさそうな声を発したのが黒紫の長髪と緑色の瞳を持つ猫人族のレディ。

次いで、礼儀正しく会釈をしたのは狐人族のノワールだ。

「へぇ、珍しい組み合わせだね」

僕が深呼吸をして構えると、レディがため息を吐いた。

「本当ですよ。ノワールと一緒にいると小言が多くて堪りません。ラガードの気が知れませんね」

「言ってくれますね、レディ。貴女と一緒にいると、私まで礼儀知らずと思われて堪りません。エルムやロールは、さぞ気苦労が絶えないでしょうね」

「あぁ、んだと」

「なんですか」

二人は一歩も譲らずに睨み合うと、そのまま揃って獣化してしまった。

なお、エルムとロールというのは、血気盛んなミアやレディを支える男の子達だ。

支えるというよりは、振り回されていると言った方が正しいかもしれないけど。

「ま、まぁまぁ。二人とも落ち着いてよ。それより、訓練をはじめないと。カーティスから怒られちゃうよ」

「それもそうだな。いや、ですね」

「じゃあ、レディ。こうしましょう」

ノワールは目を細め、不敵に笑った。

「私と貴女、どちらがリッド様へ先に攻撃を通せるか。勝負しましょう」

「へぇ、そりゃ面白そうだ。じゃあ、負けた方が詫びをいれるってことだな」

レディは頷くなり、こちらに向かって駆けだした。

「ってことで、先手必勝」

「あ、ちょっと待ちなさい」

ノワールが声を荒らげるが、レディはすでに僕の間合いに入り込んで爪撃と蹴り技を繰り出してくる。

ノワールも即座に攻撃へ加わってくるあたり、仲が良いのか、悪いのか。

若干呆れながら二人の攻撃を捌いていくが、今までの面々と比べれば連携が雑と言わざるを得ない。

「競い合うのはいいけど、今はそれよりも連携を重視すべきだと思うよ」

僕はそう告げるとレディの攻撃をすり抜け、ノワールの懐に入り込む。

そのまま一撃を入れようとした瞬間、ノワールがにやりと笑った。

「必ずしも、仲良くすることが連携ではありません。時には仲違いを演じることも、また連携ではありませんか」

「え……」

きょとんとした次の瞬間、背中に凄まじい衝撃が走った。

「いったぁ⁉」

突然の痛みに驚き、僕はそのまま前倒しに転がってしまう。

何事かと、慌てて起きあがって見やれば、レディがにやにやしながら小石を持っていた。

「カーティス様直伝、指弾ってやつです」

「し、指弾だって」

指弾とは文字通り、石のつぶてやコインといった弾となる物を指で弾いて飛ばして対象にぶつける技だ。

でも、口で言うほど簡単な技じゃない。

実戦で使いこなすには、相当な鍛錬が必要なはず。

僕の疑問を察したのか、レディは「へへ」と笑みを溢した。

「あたしは昔から似たようなことやってたんで。その延長ですね。弾となるものに魔力付加をして弾くんです。こんな風に」

彼女はそう言うと、小石を親指と人差し指の間に挟んで弾いた。

次の瞬間、小石は僕の目の前にある地面に突き刺さる。

「弾に込める魔力量次第で威力と速度を調節もできます。便利でしょ」

「なるほど、素晴らしい技だね。でも、この訓練で飛び道具は禁止じゃないの」

口を尖らせると、ノワールがにこりと笑った。

「大丈夫です。カーティス様から事前に了承を得ておりますし、レディの持っている小石は訓練場に落ちていたものを拾っただけですから。このように場を上手く使う相手もいるかと存じます故、いまの一撃はリッド様の油断かと」

「ぐ……」

彼女の言うとおり『場にある物をどう使うか』というもの、戦いでは重要な要素だ。

ヨハンが指弾のような技を使う可能性だって、絶対にないとは言い切れない。

僕の油断と言われれば、確かにそのとおりだろう。

「五分経ちましたぞ」

カーティスの声にハッとすると、レディとノワールは揃って微笑んだ。

「お、もう交代の時間か。へへ、リッド様。この試合はあたし達の勝ちですね」

「今回は勝ち逃げさせていただきます」

「……そうだね。でも、次は負けないよ」

僕が頬を膨らませて告げると、二人は嬉しそうに互いを讃えながらこの場を後にした。

あの二人、仲が良いじゃないか。

まんまと騙されたのね。

がっくり項垂れていると、新たな足音が聞こえてきた。

「次の相手は俺だ。リッド様」

「……えっと、ボクも戦えばいいのかな」

下がった二人と入れ替わり出てきたのは、黒い髪と鋭い目付きに黒い瞳を持つ狼人族のベルジアと、白い髪と垂れ目で黒い瞳を持つ馬人族のマリスだ。

「また面白い組み合わせだね」

僕が顔を上げて構えると、ベルジアがにやりと笑って獣化する。

「おい、マリス。てめぇもさっさと獣化しろよ」

「あ、はい。わかりました」

ベルジアに指摘され、マリスが慌てた様子で獣化した。

好戦的かつ口調こそ少し乱暴だが、実は仲間思いのベルジア。

のんびりかつぼんやりとしたマイペースな性格だけど、実は第二騎士団の中でも飛び抜けた潜在能力を持つマリス。

この二人はどんな動きを見せてくれるのか。

「待たせたね。さぁ、はじめよう」

「その言葉。待ってたぜ」

僕が笑いかけると、ベルジアが大地を蹴って一気に間合いを詰めてくる。

速攻か、と身構えたその瞬間、彼は不敵に笑って拳を地面に叩きつけた。

激しい土煙に視界が覆われしまう。

「目くらましか。でも、こんなことで君を見失う僕じゃないよ」

砂煙を吸わないよう口と鼻を押さえつつ、即座に電界でベルジアの位置を把握する。

「これは、上か」

「ご名答」

僕が空を見上げると、彼は手の拳を開いた。

何のつもりだ、と訝しんだその時、僕の目に激痛が走る。

「ぐ……⁉ これは砂か」

「魔法で位置を把握できるとわかっているなら、それを逆手に取るまでだ」

彼は落下の勢いを利用した蹴りを繰り出してきたが、僕は何とか片目を開いて交差した両腕で受け止める。

しかし、目の痛みのせいでどうしても動きが乱れてしまう。

彼はすかさず僕の懐に入り込み、腹に拳をえぐり込んできた。

「が……」

「目に異物が入れば怯むのが人間ってもんだぜ、リッド様」

身体強化・烈火には術者の防御力上昇効果もある。

多少の衝撃や損傷を押さえることはできるが、それでも彼の拳は痛い。

お腹に走った衝撃に咳き込んでしまうが、ベルジアはここぞとばかりに猛攻を繰り出してきた。

直撃を受けないよう捌いていくが、片目だけだと死角からの攻撃が防ぎ切れない。

「リッド様は俺より強ぇが、喧嘩のやり方をわかっちゃいねぇんだ」

「そうかい。なら、こっちも得意技を出させてもらうよ」

僕はそう告げると、自身を囲う球体状の魔障壁を発動して強制的に彼を吹き飛ばした。

彼を相手に今のままでは対応が難しい、これで仕切り直す。

僕は魔法で水を操ると、目を瞬時に濯ぐ。

ここからが勝負だと目をやれば、吹き飛ばしたベルジアが舌打ちしていた。

「マリス、全力を出せ。リッド様の魔障壁をぶっ壊すんだ」

「はーい。じゃあ、いきます。よーい……」

のんびりした声とは裏腹に凄まじい魔力を背後に感じ、背筋がゾッとする。

急いで振り向けば、マリスが地面に両指を付けた前傾姿勢で構えていた。

「どん」

気の抜けた掛け声に似つかわしくない雷鳴が轟き、マリスが一気に距離を詰めてくる。

彼女が通った後には狂風が吹き荒れ、大地がえぐれていく。

普段であれば彼女が魔力を溜めていたことに察知できたが、ベルジアに押されて気付けなかった。

最初からこれが狙いだったのか。

もはや躱すことはままならず、直撃となれば命が危ういかもしれない。

僕は咄嗟に魔障壁の出力を最大にした。

「速度は威力。名付けて瞬息一蹴撃【しゅんそくいっしゅうげき】とか、どうですかね」

瞬足から蹴りを繰り出しつつ、首を傾げてのんびりとした声を発するマリス。

だが、彼女の蹴りと僕の魔障壁が打つかると硝子が割れたような甲高い音が響きわたる。

僕の魔障壁が砕かれたのだ。

「……いい技名だね。でも、この技は生死問わずの犯罪者とか、そういう対象にしか使っちゃ駄目だよ」

僕は顔を引きつらせ、彼女の足を両腕で受け止めていた。

最大出力で展開した魔障壁のおかげで蹴りの威力は相殺されていたが、それでも彼女の足は僕に届いていたのだ。とんでもない破壊力である。

「えぇ、どうしてですか」

「相手の首から上が無くなるからだよ」

「ほえ?」

マリスが首を傾げたその時、カーティスが声を上げた。

「終了だ。マリス、ベルジア、一旦こちらに戻ってこい」

「はーい。では、リッド様。ボクはこれで失礼します」

「うん、ありがとう。くれぐれもあの技の使用は注意してね」

「わかりました~」

マリスはのんびりとした口調で返事をすると、ベルジアのところに行ってそのまま訓練場の外に出て行った。