軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都ベスティア

「うぇえ……」

「大丈夫かいリッド」

心配顔を浮かべたアモンが、被牽引車内で酔ってえずく僕の背中をさすってくれている。

気持ち的には楽になるが、辛いものは辛い。

この激しい揺れは、整備前のバルディアとレナルーテの道を彷彿とさせるものだ。

「ありがとう、アモン。王都ベスティアに続く道は早急に整備するようにしよう」

「そ、そうだね」

アモンは苦笑しながら頬を掻いている。

ギョウブやセクメトスと行われた会談から程なく、獣王セクメトスからズベーラ国内に向けて『緊急の部族長会議を数日中に行う』という告知が出されたのだ。

会談の時に『近日中』と聞かされていたが、あまりの早さに僕達は準備に大忙しとなった。

結局、当初予定していた各部族長達との会談は行えていない。

彼等とは王都で一斉に顔合わせすることになるだろう。

会談で起きた事の次第を通信魔法で報告した時には、通信手のセルビアが声色で父上の怒りを一生懸命再現してくれた。

『どうしてそうなったと、ライナー様は顔を顰めつつ、どこか呆れた様子で激烈にお怒りでございます』

『本当だよ。どうしてこうなったんだろう』

獣王という立場を持つセクメトスがシトリーとヨハンの縁談を言いだした時、バルディアの発言を内政干渉と受け取ると言い放った。

それ故、僕ができることがほとんどなかったのだ。

悔しさと己の不甲斐なさを噛みしめながら通信魔法で当時の状況を伝えると、父上はすぐに理解してくれたらしく『唐突な話ではあるが、二人の縁談は決して政治的に見て悪い話ではない』と前向きに捉えてくれた。

その上で、今後をどうしていくべきか、という部分を狐人族領出発ぎりぎりまで通信魔法を用いて父上、僕、アモンで打ち合わせを行っている。

なお、狐人族内で信用ができるとされた一部の豪族達には、会談終了早々にアモンの口からヨハンとシトリーの婚約が告げられている。

彼等も驚きこそはしたものの、狭間砦の戦いや腐敗豪族の改易によって弱まった狐人族の影響力や発信力回復に繋がるだろうという判断から歓迎していたようだった。

「リッドお兄様。大丈夫ですか」

「あ、シトリー。うん、少し横になっていれば大丈夫だから……う、うえぇ」

被牽引車に同乗していた彼女からも心配されるが、荒れた地面で車内が揺れて一気に吐き気が襲ってきた。

「リッド兄様、お気を確かに。これ、クリス様からもらったあめ玉です」

「ティスもありがとう」

シトリーとティスに背中をさすられながらもらったあめ玉を口に放り込むと、アモンがやれやれと肩を竦めた。

「凄まじい身体能力を持っているというのに、どうしてリッドはこんなに乗り物に弱いんだい」

「さぁ、どうしてだろうね。僕が知りたいぐらいだよ」

乗り物酔いは三半規管が弱いとなりやすいという話を前世で聞いた記憶がある。

でも、自分で言うのもなんだけど、今の僕は決して三半規管が弱いということはない。

むしろ、前世よりもずっと運動神経も良いし、三半規管も強いと思う。

これはもう乗り物に弱いという特異体質、もしくは何か別の原因がありそうな気がする。

「もう少しで王都ベスティアに到着するはずです。それまで耐えられますか。もし、リッド様があまりにお辛いようでしたら、休憩を挟んでもいいかと」

「気を遣ってくれてありがとう、ティンク。でも、大丈夫。酔いとの戦いは辛いけど、慣れてはいるし、移動を遅らせるわけにはいかないからね」

そう答えると、僕は椅子の背もたれに背中を預けて目を瞑った。

今回、王都に向かっている面々は、僕やアモンを初めとする会談に参列した面々とカペラやダイナス達。

別車両にはラファとピアニー達も乗っている。

バルディア家とグランドーク家、総動員という感じだ。

当初、ティスやティンクは領内で待ってもらうように伝えたんだけど、二人は揃っては頭を振った。

『いずれグランドーク家に嫁ぐ身です。なら、王都ベスティアも見ておきたいです』

『私もライナー様からディアナの後任を任されたおります故、何処にでもご一緒させていただく所存です』

結果、二人も王都ベスティアに出向くことになったわけである。

何にしても、行くからにはやれることはやるだけだ。

セクメトスやルヴァからすれば僕を、バルディア家を狐人族領から王都に引き出したつもりかもしれない。

でも、虎穴に入らずんば虎児を得ずという言葉もある通り、これは僕達にとって絶好の機会にもなるだろう。

「リッド。遠くに王都ベスティアが見えてきたよ」

「え……⁉ あ、本当だ」

アモンの声で目を開けて身体を起こすと車窓から遠目に城壁が見え、さらにその先には城壁よりも大きい城が見えた。

まだ結構離れているはずなのに、ここまでしっかり見えるということは近くに行った時はもっと大きいはずだ。

マグノリア帝国の帝都に負けず劣らず、立派な王都といったところだろうか。

僕達同様あそこに獣人国の各部族長達が集まっている、そう思うと何とも言えない武者震いのようなものを感じた。

気を引き締めていこう、そう思った直後、悪い道の上を通り始めたのか車内が激しく揺れ、車窓から遠目に見えていた王都がぐにゃりと歪む。

「う、うぇ……」

「リッド様。もう到着するまでお休みになりましょう」

「う、うん。悪いけどそうさせてもらうよ」

ティンクに促されるまま、車内に備え付けられている大きな椅子に横たってゆっくりと目を瞑った。

「リッド様、リッド様。起きてください」

「ん……」

ティンクの声と共に優しく身体を揺さぶられ、僕は目を擦りながら身体を起こした。

まだ、少し頭がぼうっとする。

「ティンク、どうしたの」

「ズベーラの王都ベスティアがもう目の前でございます」

「え、本当⁉」

ハッとして車内を見ればアモンを初め、皆が車窓から外を覗いていた。

それにあれだけ激しかった揺れも、今は感じない。

多分、王都近くの道は整備されているからだろう。

「リッド、起きたなら君も見てご覧よ。結構、壮大な眺めだよ」

「うん。どれどれ……」

車窓に近づいて、窓の外を覗くと「おぉ……」と思わず感嘆の声が漏れた。

遠目で見ていた通り、やっぱり帝都に負けず劣らずの高い城壁がそびえ立っている。

だけど僕の目を引いたのは、様々な獣人族の大人達が所かまわず闊歩している様子だった。

ここはまだ王都の外だが、数多くの宿屋や露店が立ち並んでいてとても賑わっているみたいだ。

ただ、ここではまだ木炭車は珍しいみたい。

外にいる獣人族の人達は揃って目を丸くしたり、唖然としたり、食べかけのお饅頭を地面に落としている。

その様子に僕は苦笑しつつ、視線をアモンに向けた。