軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バルディア家とグランドーク家の顔合わせ

アモンとティスの顔合わせ当日となった今日。

僕達バルディア家の面々はアモンの過ごす部族長屋敷を訪れ、来賓室に案内された。

室内を見渡せばグランドーク家側にはアモンとラファ、バルバロッサを初めとする現政権の忠臣達の他、ラファの部下であるピアニー達が腰掛けている。

一方、バルディア家側には僕、ダイナス、カペラを初めとする面々が並んでいた。

この場にいないティスとシトリー達は別室で最終調整を行っている。

「はは、何だか緊張するね」

「その気持ちわかるよ。僕も相当緊張したからね」

照れくさそうに頬を掻くアモンに、僕は微笑み掛けた。

レナルーテで行ったファラとの顔合わせが思い起こされる。

あの時は、バルディア領が目覚ましい発展を遂げる前だったし、僕の前評判はあまり良くなかった。

加えてマグノリア帝国の皇族とファラの婚姻を望む華族がとても多かったから、刺すような視線を浴びたんだよな。

振り返ってみれば、まさに針のむしろだった気がする。

でも、苦境こそ最大の好機。

当時を乗り越えたからこそ僕とファラ、レナルーテとバルディアの関係はとても良好だ。

この場にいる皆も緊張はあるけど、どちらかといえば期待感が強い。

アモンとティスの婚約は既に公表されているが、それでもまだ両家の結びつきを疑問視する者はいる。

今回の顔合わせは、両家の関係性とグランドーク家の体制が一新した事実を領内外へ改めて発信する機会となって、疑問視する者もいなくなるだろう。

アモンが部族長になって間もない頃、旧政権派の豪族達が近いうちに政権を簒奪するのでは、という見方も少なからずあったみたい。

だけど、そうした意見は豪族達の改易と今回の顔合わせで完全に聞こえなくなるはずだ。

政権が安定した上、バルディア家と縁を結んだグランドーク家となれば、各国のめざとい商人達はこぞって狐人族領に商機があると察するだろう。

商人が集まれば商流が生まれ、商流が生まれればモノと人が集まり、モノと人が集まれば経済が回っていく。

歯車が回り出せば、狐人族領もバルディアと同様に目覚ましい発展を遂げることになるだろう。

そして狐人族領が発展を遂げた時、より効果を発揮するのが父上がアモンと交わした密約、バルディア家とグランドーク家の婚姻関係だ。

領地が豊になればなるほど、悪い輩が寄ってくるのが世の常。

今のうちにそうした輩の入る隙間を無くしてしまうという意図も、今回の婚姻には含まれているという訳だ。

「そうか。リッドもファラ殿とは婚姻前にレナルーテに訪れて顔合わせをしているんだったね。君のことだ。さぞ、相手方を驚かせるようなことをしたんじゃないのかな」

「いやいや、そんなことないよ。普通だよ、普通の顔合わせさ。ね、カペラ」

アモンの言葉に頭を振って視線を向けると、彼は「普通の顔合わせ……」と何やら思案顔を浮かべた。

「そうですね。リッド様にとって、あれが『普通』だと仰せなら、そうなのでございましょう」

「……何だい、その含みのある言い方は」

僕が口を尖らせると、アモンが噴き出して笑みを溢した。

すると、その笑みが皆に伝わっていき、室内に漂う緊張がほぐれて和やかな雰囲気となる。

個人的には、少し腑に落ちないけど。

頬を膨らませてむっとしたところ、来賓室の扉が丁寧に叩かれた。

「シトリー様をご案内しました。入ってもよろしいでしょうか」

扉越しに聞こえたのはニーナの声だ。

目配せしてアモンが頷くと、「うん。どうぞ」と返事する。

扉がゆっくりと開くと、畏まったメイドのニーナと帝国様式のドレスに身を包んだシトリーが入室した。

「アモン兄様、お久しぶりです」

シトリーが白い歯を見せて元気な声を発すると、豪族達から驚くような声が漏れ聞こえた。

彼等は以前の彼女しか知らないから、驚くのも無理はないかもしれない。

バルディアにアモンと来たばかり時、彼女は痩せていたし、今のような明るさもなかった。

当時の彼女の性格は、狐人族領での生活環境のせいか自己肯定感が低くて、自信なさげな引っ込み思案だったのだ。

でも、バルディアで母上、ファラ、メル達を初めとする様々な人と触れあう内に、彼女は自身の生まれ持った気質を取り戻していった。

また、栄養のある食事も取っているから、痩せ細っていた体は年齢にあった適切な状態にまで回復していて血色も良い。

今のシトリーは、誰とでも明るく優しく接するし、元気な姿で走り回っている。

ちなみに、本人の希望で武術や魔法もバルディアでは教えたが、飲み込みはかなり良くて僕自身驚くほどだった。

彼女が何故、才能が無いと判断されたのか理解に苦しむ。

多分、ガレスの見る目がなかったんだろう。

「シトリー。凄い、何というか、見違えたね」

「えへへ。そうでしょ。バルディアで色々と学んでるんだ」

彼女はアモンに笑いかけると、彼の隣に座っているラファを見るなり目付きを急に鋭くした。

「あら。どうしたの、そんなに怖い顔して」

「ラファ姉様、私はどうしてもここでお伝えしなければならないことがあるんです」

シトリーは深呼吸をすると、意を決した様子でラファを指差した。

「いいですか。リッド兄様にはファラ姉様という相思相愛の方がいるんです。ラファ姉様のような……莫連女が付け入る隙なんて、お二人の間には全くないんですからね」

「え……」

彼女の突拍子もない発言で室内の空気が急にしんとなった。

僕、アモン、ラファの三人は呆気に取られ、豪族達は揃いも揃って決まりの悪い顔を浮かべている。

何とも言えない空気が漂う中、ラファは肩を震わせて喉を鳴らし始め、程なく大声で笑い始めた。

「面白いわ、私が莫連女ねぇ。それ、マルバスが私の陰口叩いていたやつでしょ。シトリーも言うようになったじゃない」

「私のことはいいんです。それより、さっきもお伝えしたようにリッド兄様にはファラ姉様がいるんですよ。手出し無用です」

「ふふ。さぁ、それはどうかしらね」

シトリーが鋭い目で睨み、それをいなすように不敵に笑うラファ。

二人の睨み合いに、室内が唖然としている。

どうしてくれよう、この空気。

僕は咳払いをして、「シトリー。あのね」と切り出した。

「えっと、僕はファラ以外に興味ないと公言しているし、ラファもそれ相応の立場にいるんだ。間違ってもそんなことは起きないよ」

「もう。だから、リッド兄様は脇が甘いって言われるんです」

「わ、脇が甘い……」

彼女の切り返しに僕がたじろぐと、室内から噴き出すような忍び笑う声が聞こえてきた。

「ラファ姉様はそのあたりの常識が通じません。こうして堂々と言わなければ、駄目なときもあるんです」

「あら、わかってるじゃない。背徳感で燃え上がる愛も、時にはあるものよ」

ラファは含みのある言い方をして笑みを溢すが「でもね、シトリー」と真面目な顔付きになった。