軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッド、狐人族領の報告3

「理由如何では許可するが、まずは話を聞かせてもらおう」

「畏まりました。では……」

何故、ティスとシトリーを狐人族領に連れて行く必要があるのか。

一つ目は、アモンとティスの婚約発表に伴う顔合わせを行う事で、狐人族領内外にバルディアとグランドークの繋がりが確固たるものになったという示すため。

二つ目は、旧グランドーク家派筆頭サンタス家の没落と一部の豪族達が改易されたより、シトリーを狙う輩が居なくなったからだ。

ティスとアモンの顔合わせに、シトリーだけバルディアに残されて不在……というのは政治色の印象が強まってしまう。

狐人族や豪族達の感情を考えても、あまり良い気はしないはず。

それに狭間砦の戦い前に行われたグランドーク家との会談以降、シトリーはまだ一度も狐人族領に帰っていない。

彼女が人質という側面はあるけど、現状ではそれが強すぎるし、バルディアに居てもらう明確な口実がない。

そこで今回、ティスとアモンの顔合わせに際してシトリーを一度狐人族領に帰郷させ、『シトリーは見聞を広げるため、バルディアに留学させる』という発表をアモンにしてもらう予定だ。

この件は事前にアモン、ラファ、シトリーの了承も得ている。

アモンは『是非、シトリーには見聞を広めてほしい』と二つ返事だったし、ラファも同様の意見だった。

二人の確認が取れた後、僕の考えを手紙にして、まずファラに送った。

そして、彼女からシトリーに確認してもらったところ『私もバルディアで色んなことを学んで、将来はアモン兄様のお役に立ちたいです』という返事をもらっている。

ファラを通じて確認した理由は、手紙だけでは僕の真意が伝わりにくし、誤解を生む可能性も少なからずあったからだ。

文字では様々なことを表現できるし、伝えられる。

だけど、唯一にして最大の弱点は、文字には感情を込めることができないという点だ。

勿論、僕だって手紙や本の内容に感動することはある。

しかし、それはあくまで『読み手』が自らの知識、体験、経験と照らし合わせた読解力によって『書き手』の心情を想像し、察せられることが大前提だ。

文字を読んで書き手の心情を理解する。

言葉にするのは簡単だけど、これって高度な技術と知恵が必要だと思う。

前世の記憶で営業職だった時、何も考えずに誰も彼もが自分と同程度の読解力があると思っていた結果、取引先の信用を失いかけたこともある。

その取引先にはすぐ謝罪に直接出向き、対面口頭で真意を説明して事なきは得られたけどね。

特にシトリーのようにまだ幼い場合、書き手の心情を想像して察するというのは相当に難しいだろう。

まだ、知識、体験、経験が少ない分、読解力が育ちきっていないからだ。

でも、ファラの場合は少し違う。

彼女はレナルーテでずっと厳しい王女教育を受けていたことで、既に大人顔負けと言える読解力を持ち合わせている。

かつ気心の知れた仲だから『手紙』の真意も伝わりやすい。

何より、第二騎士団情報局のサルビアを介した『通信魔法』を用いれば、言葉で補足説明もできる。

手紙、通信魔法による打ち合わせなど再三の注意を払った上で、ファラの口からシトリーに説明してもらったというわけだ。

「……私の考えとしては以上です。アモン達、グランドーク家側とシトリーの了承も得られております故、問題はないかと存じますが如何でしょうか」

「うむ……」

父上は眉間に皺を寄せて相槌を打ち、表情を崩した。

「よかろう。そこまで考えているのであれば、言うことはない。だが、さっき伝えた通り、私はバルディアからは動けん。その辺りは本当に大丈夫なんだろうな」

「はい。旧政権派の豪族達が次々と改易され、没落した事実。これは、『新政権になっても何も変わらない』と内心諦めていた狐人族領民に相当な衝撃が走ったようです。父上が狭間砦の戦いの後、すぐに狐人族領内に入ったことも思いのほか知られているようですし、問題はないかと」

圧政を敷いていた豪族達が改易されて一番喜んだのは、何を隠そう彼等が管理していた領地に住んでいた人達だった。

中には復讐や仇討ちを言い出す者もいたが、『それは絶対に許されない』と狐人族領内に周知されている。

当初は反対の声もあったけど、『豪族であった者が豪族として死ぬことも許されず、生涯平民として生きなければならない。これは豪族という立場を驕っていた者にとって、一時の死より辛いであろう、これ以上ない辱めである』とアモンが声明を出して以降、反対の声は聞こえなくなった。

実際、処分が下されて間もない時の報告だと、改易された豪族達のほとんどは狐人族領内で相当肩身の狭い生活を送っていたようだ。

じゃあ、僕やアモンの評判はどうかといえば、言わずもがな右肩上がりである。

新制グランドーク家の裏にバルディアがいることに懐疑的な狐人族も少なからずいるけど、今のところ問題視するほどじゃない。

狐人族領内の状況がみるみる改善されていく状況がある以上、変な行動を起こす領民もいないだろう。

「わかった。では、リッドを私の名代とし、狐人族領でのアモンとティスの顔合わせ。そして、シトリーの一時的な帰郷を許可する」

「ありがとうございます」

僕は会釈して顔を上げると、ディアナを横目で一瞥する。

そして、視線を戻すと威儀を正し、「ところで、父上」と話頭を転じた。

「どうした。急に改まって……」

「いえ、此度のバルディア帰郷に伴いお願いしたいことがございます」

「なんだ」

父上の表情がみるみる険しくなった。

また、とんでもないことを言い出すとでも思われているのだろうか。

というか、『とんでもないこと』なんていつも言ってないけど。

僕は咳払いをして畏まると、ゆっくりと身を乗り出した。

「この度、僕の専属護衛であるディアナ。彼女の任を解き、暇を与えていただきたく存じます」

「なんだと……?」

僕の答えが予想外だったらしく、父上が珍しく呆気に取られている。

でも、すぐに我に返った父上は、ため息を吐いて首を横に振った。

「正当な理由もなく、任を解くことも、暇を与えることもできんだろうが。この場合、まずは理由を話すのが先だ」

「あはは。すみません、事を急ぎ過ぎました」

苦笑しながら頬を掻くと、僕は真剣な表情を浮かべて父上を見据えた。

「実は狐人族領にいる間に、ディアナの懐妊が発覚したんです」

「そうか、懐妊か。ならば、仕方ないな」

父上は何事もなく、さも当然のように頷くと、少しの間を置いてハッとした。

「か、懐妊だと。誰が⁉」

「え、ですからディアナです」

「な……⁉」

父上は目を丸くし、彼女に視線をゆっくり向けていった。