軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドの新手2

「でも、それって、君は僕の記憶でしか見たことしかないでしょ」

「いやいや、味覚の記憶も再現できるからね。どんな味なのか、理解しているよ」

彼が目を細めて微笑んだその時、ガリエルが鬼の形相で凄んできた。

「おのれぇ……⁉ おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれぇぇえええ。許さん、許さんぞぉおおお」

魔波が奴を中心に吹き荒れ、傭兵達の悲鳴に似た声が電界を通じて聞こえてくる。

「あんまり時間がなさそうだ。頼むよ、ミニレッド」

「任された。やるだけやってみるさ」

「じゃあ、いくよ」

僕は大岩を勢いよく振り回し、思いっきり叩きつける。

辺りに凄まじい土煙が舞い上がるなか、電界でガリエルの位置を探って大岩を投げ飛ばす。

しかし、ガリエルは大剣で岩を砕き、土煙に突っ込んできた。

「この程度で目隠しのつもりか」

ガリエルは大剣と蛇頭達を振り回して、あっという間に土煙を掻き消した。

「あぁ、そうさ。まんまと君は足を止めただろう」

土煙の中に残っていたメモリーは、煽るように笑う。

ガリエルは「ぬかすな。小童」と声を荒らげ、蛇頭と連携して剣技を繰り出していく。

やっぱり、奴はだんだんと蛇頭の扱いが上手くなっているみたいだ。

メモリーは回避に徹しつつ、吸収されない樹と土の属性魔法を蛇頭やガリエルの顔を狙って発動するが、特に損傷は与えられない。

「貴様はゼロとやらが魔力によって産み出した存在。ならば、我が糧にしてくれる」

「お前みたいな気持ち悪い奴に吸収されるなんて、ごめん被るね」

「強がりおって。だが、ゼロとやらは貴様を捨て置き、この場から逃げたではないか」

ガリエルが鼻を鳴らして辺りを一瞥するが、奴の視界に僕はいない。

でも、こっちの視界には二人の動きが全て見えている。

(メモリー、お待たせ。こっちの準備は終わったよ)

(わかった)

念話と同時に視覚を共有すると、メモリーが間合いを取るように飛び退いた。

「逃がさんぞ」

「それはこっちの台詞さ」

不敵に笑ったメモリーが右手の親指を鳴らした瞬間、ガリエルの足が地面に沈む。

「な、なんだ⁉」

突然のことに体勢を崩して困惑するガリエルだが、自身の足を見てぎょっとする。

先程まで固い地面だった場所が沼のように泥濘み、足を取られていたのだ。

次いで、ガリエルの両手両足、蛇頭を樹の属性魔法で生み出された蔓が次々と拘束していく。

「ぬ……⁉ だが、この程度で俺を止められると……」

「驚くのはまだ早い」

言下も終わらぬうちにメモリーが冷淡に告げると、ガリエルと蛇頭にまとわりついていた蔓が凍って拘束が強くなる。

更に、とどめと言わんばかりに雷撃が迸り、ガリエルの動きを完全に封じた。

「き、貴様。一体どれだけの属性を扱えるというのだ⁉」

「さぁね。自分で数えてみたらどうだい」

苦悶の表情で目を丸くして戦くガリエルに、メモリーは目を細めて微笑んだ。

「ゼロ、とどめは任せるよ」

「わかってる」

僕の声に反応してガリエルは辺りを見渡すが、視界に僕の姿を捕らえられない。

「ど、どこだ。何処に居る⁉」

「上だよ」

「な、なに……⁉」

空を見上げると、ガリエルは驚愕の表情で目を瞬いた。

高い空にいる僕の全身から、薄緑色の魔力が湯気のように立ち上がっているからだろう。

この状態は風の属性素質と身体強化・弐式を組み合わせたもので、『身体属性強化・陣風』と名付けたものだ。

発動時、術者は風の魔力を纏うことで風属性魔法の威力強化と移動速度強化に加え、身近な気流に影響を与えて短距離、短時間なら飛翔も可能になる。

消費魔力量は『烈火』以上に激しいから、前の僕なら魔力量が足りずに使いこなせなかっただろう。

ちなみに、着想を得たのはクリスのお兄さんこと『マイティ』が風の属性魔法で飛翔した姿を目の当たりにした時だ。

ただ、真似をするだけというのもつまらない。

どうせならと、風の属性素質と身体属性強化・弐式を組み合わせてみようと思い立ち、忙しい日々の合間を縫って開発研究に勤しみ、完成させた魔法だ。

陣風を発動したのはついさっき。

地上で土煙を巻き上げて大岩を投げて、ガリエルの気を逸らした時だ。

彼の相手をメモリーにお願いして、僕は右手に持つ『レイピア』を回収。

その後、空へと舞い上がって奴を倒す魔力を溜めていたのだ。

「狂風がお前を貫く」

魔力を解放した僕は、荒れ狂う風を纏って疾風の如く急降下し、ガリエルの胸元で光る丸玉にレイピアを突き立てる。

硝子と金属が激しくぶつかって甲高い音が轟き、狂風と魔波が吹き荒れた。

「か、風の属性魔法まで扱うだと⁉ ぬぉおおお⁉」

ガリエルが苦悶の表情を浮かべたその時、丸玉全体に亀裂が入る。

間もなく、硝子が割れるような音と共に丸玉が砕け散り、魔力が止めどなく溢れ出た。

「これが、烈風閃だ」

丸玉が完全に砕け散ったことを確認し、僕はガリエルの胸元を蹴って飛び退いた。

「ば、馬鹿な。こんな馬鹿な⁉ 魔力が、俺の魔力がぁああああ⁉」

絶叫が響き渡った次の瞬間、ガリエルの胸元を中心に魔力暴走と思われる爆発が発生し、爆音が轟いた。

丸玉から溢れ出た魔力も次々と傭兵に戻っていく。

ただし、皆全裸で目のやり場に少し困るけど。

念のため電界で傭兵達の気配を探ってみたところ、かなり衰弱はしているみたい。

でも、命に別状はなさそうだ。

「ゼロ。君の読みが当たったみたいだね」

「うん。でも、まだ油断はできないよ」

メモリーに答えつつ、僕は爆煙の中で蠢く影を凄んだ。

「お、おのれぇ。俺は、エルバを……エルバ・グランドークを超える男だ。こんなところで、こんなところで終わってなるものか」

煙の中からよろめき歩き、大剣を引きずって現れたガリエルは全身が傷と火傷だらけで満身創痍だ。

彼の言動に、メモリーが肩を竦めて鼻を鳴らした。

「人の力を借りておきながら、エルバを超える男とは笑っちゃうね」

「なんだと……⁉」

鬼の形相で凄むガリエルを、僕は睨み返した。

「奴を、エルバ・グランドークの行いを認めるつもりはない。だが、奴は全て自身の実力だけで上り詰めた男だった。でも、お前は他人の魔力を吸収して強くなったと言った。そんなの、本当の実力じゃないだろ」

「綺麗ごとを抜かすな。この世は弱肉強食、勝てば官軍、負ければ賊軍。手段など関係ない。勝てば、勝ちさえすればそれでいいのだ」

「じゃあ、なんでお前は負けたんだ」

「ぐ……⁉」

僕の指摘に、ガリエルは顔を顰めて下唇を噛んだ。

「自分の実力を客観視できず、鍛錬を怠り、安易な力に頼った。それが、お前の敗因だ」

「いや、まだだ。まだ、負けておらん。死なない限り、俺は負けたことにはならぬ」

ガリエルは大剣をゆっくり構えるが、足はふらつき、体も揺れている。

「そうか。なら、次で最後だ」

殺しはしない。

翡翠色の丸玉の件を含め、色々と聞きたいこともあるからだ。

僕はレイピアを構え、地上を走るように跳躍して烈風閃を繰り出す。

溜めがない分、さっきよりも威力は格段に低い。

この一撃で大剣を破壊し、鳩尾に拳を入れてガリエルは気絶させる。

そう思った次の瞬間、人影が射線上に現れた。

「悪いが、こいつはやらせない」

「な……⁉」

咄嗟にレイピア引いて踏み留まると、辺りに狂風と魔波が吹き荒れた。

現れた人物に目をやれば、背中に羽がある。

おそらくは鳥人族だろうけど、顔は鳥の嘴を模したマスクと頭巾で隠すという異様な姿をしている。

体格は小柄で、普段の僕よりも小さいのではなかろうか。

くぐもってはいたけど、声質から察するに女の子の可能性が高い。

でも、何だろう。

電界を通して伝わってくる彼女の魔力にはアリア達と似た感じを覚え、とある女の子の名前が脳裏をよぎった。