軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ガリエルの禁じ手

あれだ、あの丸玉が嫌な気配の正体だ。

見た目は綺麗な色で宝石のような見た目なのに、電界を通じてあれから伝わってくるのは、様々な負の感情で異様としか言いようがない。

全身から嫌な汗が噴き出し、丸玉から離れるように後ずさったその時、服の袖を掴まれてハッとする。

「あれ、駄目だよ。怖いよ、お兄ちゃん」

ふと見れば、アリアが真っ青になって戦いていた。

彼女は僕以上に電界を扱えるから、不快感は相当なものだろう。

「大丈夫、大丈夫だよ。ピンク」

そう言って彼女の震える手を握った。

何にしても、あの丸玉は破壊するか、鹵獲して早急に正体を調べる必要がある。

しかしその時、ガリエルが拘束の合間から無理矢理に腕を伸ばして丸玉を掴み、自身の口へ放り込んだ。

「……⁉ 何をするつもりだ」

「さぁな、俺にも何が起こるかわからん。だが、『奴』は言った。窮地に陥った時、これを飲めば凄まじい力を得られるとな」

ガリエルは不敵に笑うと、喉をごくりと鳴らして丸球を飲み込んだ。

これは、ここで止めないと大変なことになる。

あまりの嫌な気配にそう直感した僕は、地面に転がっていた自身のレイピアを瞬時に手に取った。

魔力付与をレイピアに施し、身体強化・弐式を発動すると、やむを得ず彼の心臓を目掛けて刺突を繰り出す。

「ぐ……⁉」

レイピアの切先は胸を貫き、彼の背後にあった岩をも砕く。

ガリエルは苦悶の表情を浮かべて吐血し、ゆっくりと俯いた。

「……やったか」

手応えは確かにあった。

でも、あの丸玉がどうしても引っかかる。

訝しんでいると、ガリエルの体から凄まじい魔波が吹き荒れた。

「な、なんだ⁉」

僕は驚きつつも距離を取ろうとするが、レイピアがどうやっても抜けない。

やがて、ガリエルの体からおぞましい黒い魔力が溢れて拘束していた蔓を解かし……いや、違う。

これは飲み込んでいるのか。

直後、顔を上げたガリエルの表情を間近で見た僕はゾッとした。

生気が失われて肌が灰色に変わっていき、光が無くなった瞳は濁って白く、皮膚にはあちこち青筋が走っていたのだ。

「く……⁉」

このまま彼の傍に居ては危険だ。

やむなくレイピアから手を離し、皆がいる場所まで飛び退いた。

次の瞬間、ガリエルの全身から出てきたおぞましい黒い魔力が、こちらに向かって飛んでくる。

それも、大口を開けて何かを飲み込もうとするように。

「皆、僕の後ろに隠れろ」

「は、はい」

僕は皆を守るように魔障壁を大きな球体状に展開する。

黒い魔力は魔障壁にぶつかると、まるでナメクジが這うような不気味な動きを見せる。

「り、リッド様。あれ、あれ見てください」

戦くダンが指差す場所を見て、僕は目を疑った。

「な、なんだ。やめろ、こっちにくるな」

「あっちだ、あっちいけ」

黒い魔力が次々と拘束していた傭兵達を飲み込んでいるのだ。

しかも、黒い魔力に飲み込まれた傭兵は瞬く間に衣服と武器だけ残し、解けるように消えていく。

その様子を目の当たりにした傭兵達はぎょっとして血の気が引き、必死に拘束を解いて逃げようと体を動かしはじめる。

僕は魔障壁を維持しつつ、彼等を拘束していた『蔓』を緩め、風の属性魔法『風槍』を放ってアリス達が拘束していた傭兵達の縄を切った。

「魔障壁を発動するか、この場からすぐ逃げるんだ」

「うわぁあああああああ⁉」

拘束から解放された傭兵達は、蜘蛛の子を散らすように走り出す。

だが、黒い魔力は彼等を逃がすまいと追いかけていく。

武器を必死に振るうが飲み込まれる者。

魔障壁を展開するが出力が足りず、黒い魔力に浸食されて飲み込まれる者。

ひたすら逃げるが、追いつかれて飲み込まれる者。

辺りは一瞬で、傭兵達の悲痛な叫び声が轟く地獄絵図となっていた。

そうした中、傭兵の一人が助けを求めるようにこちらへ走ってくる。

でも、僕の魔障壁の上を這いずっていた黒い魔力が気付いたらしく、彼に向かって蛙のように跳ねた。

「駄目だ。こっちに来るな」

咄嗟に叫んだがもう遅かった。

「い、いやだ。いやだ。こんな、こんなの嫌だぁああああああ⁉」

黒い魔力は、上空から覆い被さるように容赦無く傭兵を飲み込んだ。

傭兵は苦悶と絶望の表情を浮かべ、僕に助けを求めるように手を伸ばすが、身に着けていた衣服と道具だけ残してすぐに消え去ってしまう。

傭兵を飲み込んだ黒い魔力は、再び跳ねてガリエルの中へ入り込んでいった。

まさか、人を魔力原として吸収しているのか。

どうにかして傭兵達を救いたいが、気を抜けば魔障壁が維持できず、下手に動けば皆を危険に晒してしまう。

「嫌だよ。あんなもの存在したら駄目なのに。あれは人を不幸にする塊だよぉ」

傭兵達の阿鼻叫喚が轟く中、アリアが耳を両手で塞ぎながら体を震わせてしゃがみ込んだ。

ラムル、アリス、ダンが心配して励ますが、アリアは頭を振っている。

周辺から傭兵達の声が聞こえなくなると、黒い魔力はガリエルの中へ次々と入り込んで同化していった。

程なく、死人のような風貌だったガリエルに変化が訪れる。

目に強い光が宿って肌にあった青筋が消え、胸の傷がみるみる再生し、押し出されるように僕のレイピアが地面に転がった。

瞬く間に生者の色を取り戻した彼は、ゆっくりと天を仰ぎ、大きく深呼吸をした。

「素晴らしい。素晴らしいぞ、これは。まさか、此程の力を得られるとはな」

ガリエルはこちらに振り向き、不気味に笑った。

目が合った瞬間、全身に寒気が走る。

圧倒的な強さや魔力量を感じたわけじゃない。

奴の体の内から傭兵達の阿鼻叫喚する姿。

そして、絶望の感情が電界を通じて伝わってきたからだ。

「皆、少し離れて。あいつは危険過ぎる」

「……畏まりました」

ラムルは何か言いたげだったが、悔しげに頷いた。

自分達がいても、足手まといになりかねないと考えたのかもしれない。

「君達が弱いということじゃないんだ。ガリエルは、さっきの様子から察するに普通じゃない。だから、少し離れた場所で彼女を守ってほしいんだ」

そう言うと、しゃがみ込んだまま体を震わせているアリアに視線を向けた。

「アリアは、僕のことを『お兄ちゃん』と呼んでくれる可愛い妹だからね。お願いできるかな」

ラムル、アリス、ダンの三人はハッとすると「承知しました。お任せ下さい」と頷き、三人でアリアを守るように離れた馬車一団側に走り出す。

「愚かな。逃がすわけがなかろう」

ガリエルは喉を鳴らして笑うと、彼等に向けてどす黒い魔力弾を放った。

「やらせるわけないだろう」

すかさず火槍を発動し、魔力弾にぶつけて相殺する。

辺りに爆音が轟き、周囲に黒煙が立ち込める。

しかし、ガリエルが魔波を発して黒煙を吹き飛ばした。

「面白い。見かけは奇天烈だが、剣技に加え魔法もここまで扱えるとはな。ゼロとやら、貴様一体何者だ」

「さぁね。気になるなら、実力でこのマスクを取ってみなよ」

僕が目元のマスクを左手で指差すと、奴は眉を少し動かした。