軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

対談の終わりと帝都の日々

曰く、クリスは幼い頃から父親であるマルティンの行商に同行し、様々商談を間近で見て育ったそうだ。

そのような環境もあってか、彼女は幼い内から商人として優れた才能の片鱗を見せ始めたらしい。

サフロン商会の誰もが彼女の才能を喜んだが、中でも一際喜んだのがマルティンとマイティだったそうだ。

二人は事あるごとにクリスを褒め、彼女が活躍しやすいように動いた。

マイティに至っては影からの補助役に徹していた時期もあるらしい。

しかし、クリスが成長していくにつれ、彼等の行動は思いがけない主張を商会内で生み出すことになる。

それこそが、『次期、商会代表はだらしないマイティよりも、クリスの方が良い』というものだったそうだ。

「……あの子は『次期代表になるつもりはあらへん。兄を支える』て言うとったんですけど、二人の、特にマイティの言動に不安覚えた者達がクリスを次期代表にすべきと強う主張したんどす」

「な、なるほど。それは大変だったんですね」

つまり、クリスがクリスティ商会を作るきっかけとなった主張を生み出したのは、マルティンとマイティの言動が原因だったというわけか。

しかも、話を聞く限りだと、クリスはその事に気付いてないみたいだ。

僕が相槌を打つと、マイティが鼻を鳴らした。

「物事の本質を見極められない奴らなど、商人ではない。いっそ、商会から追い出してやればいいのさ」

「……いつも言っているだろう。お前のそうした言動も、クリスを次期代表にすべきという主張を作るきっかけになったのだぞ」

マルティンは深いため息を吐くと、彼を窘めるように言った。

「誰もがお前と同じことができるわけではない、人には得手不得手があるものだ。各々の得意分野を見極めて仕事を振ることが、商会運営で最も重要なことなのだぞ」

「わかっています。だから、以前よりも彼等には優しくしているつもりですよ」

マイティが肩を竦めると、ロレインが黒いオーラを発して一瞥した。

「あんたがだらしないさかい、クリスがサフロン商会を出て行くことになったんやろ。もっと真剣に受け取りや」

「う……。も、申し訳ありません」

彼がたじろぐと、ロレインはこちらに振り向いて畏まった。

「リッド様、ライナー様。そないなわけで、これからもクリスのことをよろしゅうおたのもします」

「はい、勿論です」

僕が即答すると、父上も頷いた。

「こちらこそ、クリスとクリスティ商会にはいつも助けられている。バルディアの名に掛け、彼女と商会を守ると誓おう」

僕達の答えを聞くと、マルティンとロレインは嬉しそうに表情を緩めた。

マイティも口は尖らせているけど、どこか安心したような雰囲気がある。

彼等にとって、娘のクリスが遠く離れた他国にいることはとても気掛かりで心配だったのだろう。

こうして、サフロン商会との商談は終わりを告げる。

彼等との話し合いが終わった後、クリスから内容を問われた僕は『クリスをバルディアの名に懸けて守るって約束したんだよ』と伝えた。

答えを聞いたクリスとエマは、きょとんと首を傾げていたけどね。

サフロン商会との打ち合わせが終わってからの数日間。

僕は帝都にいる間にしか出来ないことを優先的に行っていた。

クリスとマルティン達に案内され、帝都にあるサフロン商会とクリスティ商会の支店訪問。

有力貴族達との懇談会に始まり、狭間砦の戦いに勝利した政治的な祝賀会、バルディアの製品告知活動等々だ。

特に力を入れたのは、以前帝国内で広まったバルディアの悪評を払拭するための『情報対策』だった。

この世界では、情報誌を刊行しているメディア。

大小様々な新聞社や出版社の組織が多数存在している。

大きな組織にもなると、お抱えの『情報ギルド』も運営して色々な情報を集めているそうだ。

僕と父上はそうした情報を扱う組織に所属しており、かつある程度の信用がおけると判断できた人達に声を掛けてバルディア家独自で『記者会見』を行った。

会見の内容は、流布された当家の悪評は全く根拠のないでたらめであるということを主題にし、狭間砦の戦いに至るまでの経緯を簡潔にまとめたものだ。

貴族がこうした『記者会見』を行う事は異例であり、バルディア家は帝都中の注目を浴びることになった。

翌日、会見に参加した各社がこぞって発表した記事の内容に目を落とすと、記事の書き方にそれぞれの『色』が出てくる。

しかし、この『色』こそが僕達の目的だった。

情報発信をする企業がどの『派閥』に属しているのか。

バルディア家に好意的もしくは敵対的なのかを見定めるためのある種の罠だ。

結果、主張に大きな偏りが出たのは三紙だった。

一つ目が、過激な主張が強く『革新派寄り』と思われる『 帝国日出新聞(ていこくひのでしんぶん) 』。

帝国内では『 帝日(ていにち) 』の略称で呼ばれている。

昨今、発行部数が急激に伸びているそうだ。

二つ目が、慎重な主張が強く『保守派寄り』と思われる『 帝国商流新聞(ていこくしょうりゅうしんぶん) 』。

帝国内では『 帝商(ていしょう) 』の略称で呼ばれている。

以前は、帝国内で一番の発行部数を誇っていたらしいけど、昨今は帝日に追いつかれているらしい。

三つ目が、客観的な主張を淡々としている『中立的』と思われる『 帝国実業新聞(ていこくじつぎょうしんぶん) 』。

帝国内では『 帝業(ていぎょう) 』の略称で呼ばれている。

発行部数は先の二紙に続く三番目にあるそうだ。

以上の三紙がそれぞれの色を強く出してきていた。

好意的だったのは意外にも革新派寄りの『帝日』で、『近隣諸国に帝国の威信を示せた。これにより、今後は外交の場面では優位な立場を取れるだろう。バルディアの勝利は帝国の更なる繁栄の暁になるはずだ』とあった。

敵対的というか、批判的だったのは『帝商』の内容だ。

『争いに発展する前段階で対話の解決をもっと模索するべきであり、今回の勝利は次善であり最善では無かった。近隣諸国に威信を示せたと言えば聞こえは良いが、緊張感を高めたとも見れる。争いによる勝利が更なる争いの呼び水にならないことを祈るばかりだ』

最初にこの記事を目にした時は、『当時の状況や現場を知らない癖に何を言っているんだ』と憤りを覚えたけど、『現場を知らぬ頭でっかちの者が書く記事なぞ、そんなものだ。気にするな』と父上から窘められた。

『帝業』は第三者として情報を正確に伝えることを意図しているのか、僕達の伝えた情報をほぼそのまま脚色することなく記事にしていた。

他の大手二紙は主張が強いから、あえて主張を入れずに差別化しているのかもしれない。

他にも注意すべきなのが、様々な冊子を発売している『 帝国大同出版(ていこくだいどうしゅっぱん) 』。

帝国内では『 帝大出版(ていだいしゅっぱん) 』の略称で呼ばれている。

この出版社は一社で様々な文学作品から情報誌まで扱っていて革新派、保守派、中立派とそれぞれの主張を展開した色々な冊子を販売。

どの派閥に属しているのかよくわからない。

もしかすると、どの派閥にも属していない可能性もある。

大小様々な企業があるなか、帝国内で大きな発信力を持っているのは以上の四社だ。

これらの中に、グランドーク家と裏で繋がっていた帝国貴族とも関係を持つ者がいると、僕と父上は睨んでいる。

その理由は、バルディア家とグランドーク家との交渉結果がすぐに帝国全土に広まったからだ。

当時に問題となった情報誌を販売したのはこの四社ではなかったけど、記事を書いた記者は未だに行方不明。

おそらく、足がつかないように四社のいずれかを通して指示を出したのだろう。

行方不明となった記者に直接依頼したことも考えられるけど、それだと足がつく危険性が高いから可能性は低いと見ている。

多忙極める目まぐるしい帝都の日々が過ぎ、いよいよ明日はバルディアに帰る日となった。

そして今日の僕は、バルディア邸で情報交換を行うため、とある少女とゆっくりお茶を飲んでいる。

今までのことを説明し終えると、彼女は頭から頬張っていた『ハムエッグたい焼き』を喉を鳴らして飲み込んだ。

「へぇ、リッドも色々と大変だったのねぇ」

「大変だったのねぇ……って、ヴァレリ。君も他人事じゃないでしょ」

そう、少女とは『ときレラ』の悪役令嬢こと『ヴァレリ・エラセニーゼ』である。