軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

暗雲は戦雲へ2

「リッド、大丈夫?」

「え? あぁ、はい。ちょっと、色々と考え事をしておりました」

母上の声で回想から戻ると、目を細めて微笑んだ。

今は僕は、ファラ達と一緒に母上の部屋を訪れている。

「そうなの? でも、あまり考え過ぎては駄目よ。リッドの可愛い顔が、今から父上みたく仏頂面になるのは残念だもの」

「ぶ、仏頂面・・・・・・」

確かに、父上はいつも難しい顔をしているけどね。

そんな言い方できるのは、母上だけだよ。

唖然としていると、ファラが「ふふ」と吹き出した。

「そうですね。私も、リッド様には今の可愛らしい顔でいてほしいです」

「あはは・・・・・・善処するよ」

頬を掻きながら苦笑すると、ファラと母上は楽しそうに笑みを溢した。

なお、クリス達の襲撃事件に伴い、メルが誘拐された事実は母上も既に知っている。

父上と僕から話を聞いた時も、母上は普段通り、取り乱すことなく凜としていた。

「・・・・・・わかりました。リッド、それに皆も。悪いけれど、少し外してくれるかしら? ライナーと二人だけで話したいの」

その後、父上と母上がどんな話をしたのか、僕は知らない。

でも、暫くして僕の部屋を訪れてきた父上は、とても悔しそうに怒りを滲ませていた。

「リッド。明日以降、ファラと一緒にナナリーの傍に出来る限りいてやってくれ。気丈に振るまってはいたが、ああ見えて、とても落胆しているのだ」

「はい。わかっております」

「・・・・・・頼むぞ」

母上の事を心配する父上の瞳は、とても優しいものだった。

その日以降、僕はこうしてファラと必ず、母上の部屋を朝から訪れている。

僕が行けない時は、ファラだけでも必ず顔を出すようにお願いしたところ、「はい! お任せ下さい」と彼女は二つ返事で了承してくれた。

皆で談笑していると、部屋の扉が叩かれてガルンが入室する。

「リッド様。ライナー様がお呼びでございます。急ぎ執務室に来るようにと仰せでございます」

彼の言葉で室内の空気が張り詰める。

この状況で父上に呼び出される理由なんて、一つしかないからだ。

「・・・・・・わかった。じゃあ、行ってきます。母上、ファラ」

「えぇ。行ってらっしゃい」

「はい。リッド様」

二人に見送られる中、僕は父上の待つ執務室に急いだ。

執務室を訪れた僕は、父上に促されるまま、いつも通りに机を挟んで正面になるようソファーに腰掛ける。

眉間に皺を寄せたままの父上は、一通の封筒を黙って机の上に投げ置いた。

「父上、これは・・・・・・?」

「グランドーク家からの返事だ。目を通してみろ」

「・・・・・・拝見します」

封筒を手に取ると、中にある親書を取り出して目を通していく。

『今回の一件、双方に様々な主張があり、親書によるやり取りでは解決できない。従って数日以内にグランドーク家の三男、アモン・グランドーク。並びに次女シトリー・グランドークを交渉の使者としてバルディアに訪問させる』

要約すれば、こんな感じだ。

前回の使者は、長男エルバと次男マルバスだったけど、今回は違うらしい。

あの二人が来ると言われたら、さすがにこちらから断りするけどね。

「お前は、これをどう見る?」

「どうって・・・・・・時間稼ぎか、また何かしら良からぬ事を企んでいるのでしょう」

今までの経緯から、グランドーク家がまともな交渉をしてくるとは考えられない。

「私も同意見だ。しかし、交渉を求められている以上、受けぬわけにはいかんだろう。メルとクリス達も人質に取られている以上、無闇に攻め入ることもできんからな。それに・・・・・・戦争を始めるのは簡単だが、終わらせるのは難しいものだ。感情に任せて良いものではない」

自分自身に言い聞かせるよう、父上は悔しげに言った。

バルディア家は、グランドーク家に『宣戦布告と見なすことも辞さない』と毅然とした強い姿勢で臨んでいる。

帝国貴族の名を語った親書でクリスティ商会を呼び出し、メルやクリス達を攫った横暴を許せるはずはなく、今も父上の怒りは言動の節々に現れていた。

領主という立場がなければ、本当はすぐにでもメル達を助けに行きたいんだろうな。

その時、ふと親書のある内容が気になり、「それにしても・・・・・・」と切り出した。

「三男のアモンと次女のシトリーは、使者だけではなくバルディア家に人質として来る意味もあるんでしょうね」

「うむ。グランドーク家は、メルとクリス達を人質に取っている。我等と本気で交渉したいという意味を込め、人質をこちらにも寄越したのだろう」

「彼等が囮・・・・・・『捨て駒』ということも考えられますよね?」

父上の眉がピクリと動き、顔がより険しくなった。

「あまり、考えたくはないがな。その可能性もゼロではないだろう」

「それでしたら、万が一の事を考え、狭間砦の騎士と傭兵を増員しておくべきでしょう。加えて、民兵に後方支援を依頼しておくべきかと」

現在、バルディア領にある戦力は正規軍と言えるバルディア騎士団。

ギルドからの情報や戦雲のきな臭さを嗅ぎつけてやってきた冒険者、剣士達で構成された傭兵団。

各地で緊急募集したバルディア領を守らんとする領民で構成された民兵である。

「良かろう。それと、レナルーテ側の国境警備に当たっている騎士達を狭間砦に回すつもりだ」

父上はそう言うと、深いため息を吐いた。

「・・・・・・どのような結果にしろ、次がグランドーク家と行う最後の交渉になるだろう。お前も心しておけ」

「承知しました。それと、御父様のエリアス王に連絡を取り、レナルーテ側の国境地点に兵を待機してもらいたいと存じます。いざとなれば、ファラや母上達はそちらに逃げてもらえれば良いかと」

グランドーク家がバルディアに攻め込んでくれば、退路は帝都かレナルーテ側になる。

でも、帝国貴族がグランドーク家と裏で繋がっている可能性がある以上、帝都は安心とは言えない。

母上の治療の件もあるから、退避場所としてはファラの実家でもあるレナルーテが安全だろう。

「わかった。その手配は、お前とファラに任そう」

「ありがとうございます」

会釈すると、僕は再び親書に目をやった。

アモンとシトリーとは、おそらく『あの子達』のことだろうな。

エルバ達は信用ならないけど、彼等は少し話せるかもしれない。

僕はそんな淡い期待を抱きつつ、父上と打ち合わせを続けた。

そして、数日後。

狭間砦に在中している鳥人族のサリアより、通信魔法で連絡が入る。

狐人族のアモン・グランドークとシトリー・グランドークが、バルディア家と会談を行うため、本屋敷を訪問したいということであった。