軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勧誘2

「……という訳なんです」

レナルーテから訪れた、カーティス、シュタイン、レイモンドに先日の襲撃事件における全容を説明する。

それから程なくして、カーティスは眉間に皺を寄せると自身の顎をさすった。

「うーむ。それは確かに、何ともきな臭い話ですな。襲撃は本懐に非ず、バルディア領の情報だった。……ということであれば、ズベーラもしくは狐人族。彼等が何かしら次の一手を打って来る可能性は、高いでしょうな」

一度の説明で状況を察してくれたらしく、彼は含みのある視線をこちらに向けている。

同意するように、ゆっくりと頷いた。

「はい。父上と私も同じ意見です。それ故、私直属の第二騎士団をより組織的な強化を図ることが決まりました。その為に必要な経験豊富な『指揮官』として、ファラとアスナより貴殿を推薦されたという次第です」

「成程。しかし、アスナだけでなく、姫様からも推薦されたとは大変光栄ですな。姫様、感謝いたします」

カーティスはそう言うと、視線をアスナとファラに向けて会釈する。

ファラはすぐに顔を彼に上げてもらうと、首を横に振った。

「いえいえ。アスナとカーティスの訓練を何度か拝見したこともありましたから。それに、カーティスが文武に長けた優れた武人であることは父上からも聞いたことがありましたので」

彼女がニコリと笑うと、カーティスは「そうでしたか」と目尻を下げて破願する。

すると間もなく、シュタインが「しかし、祖父上」と話頭を転じた。

「いくら何でも『帝国の剣』と称されるバルディアをここまで刺激する必要がどこにあるのでしょうか? 我々なら、貿易を活発化させると思いますが……」

「私も兄上の意見に同意します。バルディアの情報を得た上で、貿易交渉を優位に進める。その為の襲撃だったという認識で良いのではないでしょうか?」

二人の言葉に、カーティスはゆっくりと首を横に振る。

「……その可能性もゼロではない。しかし、相手は獣王国ズベーラ。強者が民を率いるという考え方が根強い。貿易という友好策よりも、奪い取る方が手っ取り早いと考えるであろうな」

「な……⁉」

二人が目を丸くすると、部屋の空気が張り詰める。

『奪い取る方が手っ取り早い』ということは、その先に武力的な行為がある可能性は高い。

言葉にすると、改めてその脅威を実感する。

カーティスは、淡々と続けた。

「よいか。国と文化が違えば、それこそ考え方も違うのだ。我々、レナルーテはバルディアの発展を快く思っている。それは、帝国との同盟があり、姫様がバルディアと縁を結んだ故、なおのことだ。だが、ズベーラと狐人族からすればどうだ?」

その問い掛けに、シュタインは俯いて思案するとゆっくり顔を上げる。

「……隣国が豊かになるということは、貿易先として自国も潤う機会を得れる……と考えるのではありませんか?」

「残念だが、違う」

カーティスは首を振って断言すると、真剣な面持ちを浮かべる。

「その考えであれば、今回の襲撃など起きん。獣人族の思考としてはこうだろう。『国境の領地が大きくなるということは、いずれ自分達を飲み込むはずだ。故に、飲み込まれる前に、飲み込まなければならない』とな。それが、自領を守る最善の方法と考えるが『弱肉強食』の獣人族だ」

「しかし、それでしたら敵意がない事を伝えれば良いのでは?」

レイモンドの問い掛けに、カーティスが肩を竦めた。

「こちらに敵意がないと言ったとしても、獣人族は信じんよ。それに……」

「何時攻めて来るかもしれない。しかも、時が経つ程に大きくなる存在が隣に居ては、枕を高くして寝ることができない……ということですね?」

被せるように口を挟むと、彼は目を見張るがすぐに目尻を下げて頷いた。

「その通りです、リッド様。バルディアは時を経つほど、その存在は大きくなるでしょう。しかし、今ならまだ狐人族にも勝機がある判断をした……故に飲み込もうとしているのやも知れませぬな」

その言葉で部屋に重い沈黙が訪れ、皆は思い思いの表情を浮かべている。

だけど、カーティスの話を聞いて工房が無傷だった理由がわかった気がした。

襲撃犯のクレア達は、バルディアの情報収集と合わせて品定めをしていたのかもしれない。

危険を冒してまで、奪う価値の存在があるかどうかの確認だ。

それなら、こちらに犠牲者が居なかったことや重要施設に破壊工作が見られなかった点にも辻褄があう。

舐めたことを考えてくれたものだ。

「ふぅ……」と息を吐くと、改めて正面に堂々と腰かける好々爺のカーティスを見据えた。

「それで改めて本題になるんだけど、第二騎士団の組織力向上の為、カーティスの力を貸して欲しいんだ。お願いできるかな?」

「そうですな……」

カーティスが顎をさすりながら思案する仕草を見せると、ファラとアスナが身を乗り出した。

「レナルーテの元王女として、私からもお願いします」

「祖父上、私からもお願いします。どうか、リッド様にそのお力を御貸し下さい」

二人が頭を下げると、彼は「ふむ」と相槌を打ってこちらを一瞥すると目を細めた。

「姫様、顔をお上げ下さい。貴女はレナルーテの元王女……つまり、王族でございます。従いまして、家臣にはお願いするのではなく『命じる』べきでしょうな」

カーティスの優しく諭すような言葉に、ファラはハッとするとアスナと僕の顔をチラリを一瞥する。

その眼差しにコクリと頷くと、彼女は深呼吸をして再び彼を見据えた。

「……わかりました。では、カーティス・ランマークに命じます。私とバルディア家の為、その力を貸して下さい」

「承知しました。ダークエルフとして、老い先短い身ではありますが、残りの時間は姫様とリッド様に捧げましょうぞ」

彼が畏まって深々と頭を下げると、ファラの表情がパァっと明るくなった。

「ありがとうございます。カーティス、どうか頭を上げてください」

彼女の言葉で彼がゆっくりと顔を上げると、僕は改めて手を差し出して微笑んだ。

「本当にありがとう、カーティス。改めてよろしくね」

「こちらこそ、隠居していたにもかかわらず、身に余る大変光栄なお話だと感激しておりますぞ」

しかし、一連のやり取りを見ていたシュタインとレイモンドが同時に呆れた様子で肩を竦めた。

「祖父上。陛下と父上から言われたことをもうお忘れですか」

「そうです。この件、なんとご報告するつもりです」

「おぉ⁉ そうだったな。いやいや、すっかり忘れておったわ。まぁ、丁重に断られたとでも手紙を書いておくわい」

カーティスはそう言うと、豪快に笑い始めた。

言動の意図がわからず、この場にいる彼等以外の面々はきょとんしている。

しかし、冷静に考えてみればエリアス王とオルトロスが彼の協力を条件に交渉してくるのは当然かもしれない。

探るように「どういうことでしょうか?」と問い掛けると、カーティスは笑いながらアスナに目をやった。