軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

来訪者

その日、宿舎の執務室には僕、ファラ、ディアナ、アスナ、カペラといういつもの面々が集まっていた。

「今日は来賓が来るかもしれないから、早く事務処理を終わらせないといけないね」

宿舎の執務机の椅子に腰かけてそう呟くと、傍にいたファラがコクリと頷いた。

「はい、私達もお手伝い致します」

「うん。いつもありがとう」

執務室にいる皆にお礼を述べると、第二騎士団に関係する書類作業を手分けして始める。

身体強化・弐式と身体属性強化・烈火を使いこなす為、『特別強化訓練』をクロスと共に実施して少しの時が経過した。

なお、『特別強化訓練』とは、まず弐式で体に限界まで魔力負荷を与える。

次いで、原材料を抽出蒸留して効果を高めた魔力回復薬の原液で大量に飲むことで、消費した魔力を極短期間で回復させる。

これを繰り返すことで、弐式と烈火を短期間を使いこなせることを目的とした訓練だ。

しかし、問題点もある。

魔力回復薬の原液は『ともかく不味い』のだ。

おかげで、僕とクロスはその味にいつも悶絶する羽目になっている。

まぁ、多少は慣れたけどね。

だけど、その効果は絶大と言っても良いものであり、僕は既に『弐式』をある程度使いこなせるように成りつつある。

この調子で頑張れば、上位互換である『身体属性強化・烈火』を扱えるようになるのも近いだろう。

ちなみに、この訓練に付き合うことになったクロスも、短期間でかなり実力が上がったそうだ。

折角だからと、第二騎士団の分隊長や副隊長の子達にも『特別強化訓練』に参加してもらったんだけど、それは悉く失敗に終わった。

獣人族の子達は、人族の僕達と比べて嗅覚や味覚が敏感らしい。

魔力回復薬の原液を口にするなり、昇天しそうな勢いでもだえ苦しむという、拒否反応を起こしたのだ。

特に、一口食べれば料理を再現できるという優れた味覚を持つ兎人族の子達。

彼等の拒否反応はとりわけ凄かった。

それでも、強くなれるならとオヴェリアは果敢に挑戦していたけどね。

「ぐうぇええ。だ……だけど、これで強くなれるなら……あたしは……あたしはやってやるぜ!」

そう言って彼女は原液を一気に呷った。

あまりに壮絶な様子だったので、思わず心配になり声を掛ける。

「お、オヴェリア。無理はしなくて良いんだからね? 原液が無理なら別の方法で……ってあれ?」

ふと気が付くと、彼女の瞳が白眼に変わり、コップを持っていた手が力なくぶらんと下がる。

そして、手から地面にコップが転がると、彼女はそのまま前に倒れていくではないか。

「オヴェリア⁉」

慌てて彼女を抱きかかえるが、反応がまるでない。

すると、その様子を見ていた鳥人族のアリアが横からボソッと呟く。

「返事がない。只の屍みたいだね」

「こら、縁起でもないことを言うんじゃない。誰か、急いでサンドラを呼んで来て!」

幸い、オヴェリアは意識を失っただけであり、大事には至らなかった。

しかし、本人曰く「死んだ爺が川の向こうで、まだ来るなって言ってたぜ……」とのこと。

この一件で、原液を用いた『特別強化訓練』は獣人族の子達は当面禁止となったのは言うまでもない。

だけど、原液を『カプセル』に入れるとか加工をすれば、いずれ彼等もできるようにはなるだろう。

そんなことをしている間に、父上は襲撃事件の詳細を皇帝陛下に報告する為、帝都に向けて出立。

その見送りの際、父上は険しい表情を浮かべていた。

「ズベーラや狐人族の動きが気になるが、帝都に行かねばならん。私が留守の間、しっかり頼むぞ」

「はい、承知しております」

そう言って頷くと、父上は「うむ」と相槌を打ってからハッとする。

「あぁ、それと忘れるところだった。レナルーテのカーティス・ランマーク殿に親書を出した件だが、先方とエリアス王から承諾の返事があった。詳細は後でガルンに確認しておけ」

「本当ですか。それは、お会い出来るのが楽しみですね。あ、でも、どうして御父様から承諾の返事があったのでしょうか」と首を傾げる。

確か親書を出したのは、ランマーク家宛だったはずだ。

どうして、エリアス王も出てきたのだろう。

「カーティス殿は隠居したとはいえ、元はレナルーテの軍人だからな。色々と制約もあるのだろう」

「あ、そういうことですね」

合点がいき頷くと、父上は言葉を続けた。

「私は時期によって帝都に行っている場合があり、カーティス殿と入れ違いになる可能性も伝えている。もし、私が帝都に行っている間に先方が来訪した場合、失礼のないよう丁寧に対応するようにな」

「畏まりました。その旨、屋敷の者達にも伝えておきます」

「うむ。では、後を頼むぞ」

父上はそう言うと、木炭車の運転席に乗り込んで帝都に向けて出発した。

なお、バルディアから帝都までの道路と補給所整備は完了している。

従って、以前よりも行き来にかかる時間はかなり短縮されているはずだ。

だからこそ、父上も急いで帝都に向かったのだろう。

ここ最近の出来事を思い返して事務処理を進めていると、腰に付けている『受信機』から「リッド様。こちら、サルビアです。応答願います」と音声が流れる。

すぐに、通信魔法を発動した。

「リッドです。サルビア、どうしたの?」

「お忙しいところ申し訳ありません。只今、本屋敷のガルン様より、レナルーテから『カーティス・ランマーク様』が到着されたとのことです」

「わかった。すぐに僕達も本屋敷に向かうとガルンに伝えて」

「畏まりました。そのように申し伝えます」

通信魔法を終了して、「ふぅ」と息を吐くとファラが心配そうにこちらを見つめる。

「どうかされましたか?」

「いや、カーティス・ランマーク殿が本屋敷に到着されたそうなんだ。終わってない事務処理は後にして、皆で本屋敷に行こう」

その後、カーティス・ランマークと対面するべく皆で移動を開始する。

ファラは彼と久しぶりに会えることを喜んでいたけれど、アスナが眉間に皺を寄せて心配そうにしていたのが印象的だった。

僕も彼とは披露宴で一度だけ会ったきりだ。

まぁ、その時も中々に豪快な人だったけどね。

さて、改めてどんな人なんだろうな。

そう思い、人知れず胸を躍らせるのであった。