軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

外伝・エルバとラファ

アモンとの話が終わったラファは、エルバの呼び出しで彼の部屋を訪れていた。

二人は机を挟んでソファーに腰かけており、エルバはラファがまとめた『報告書』に目を通している。

やがて、彼が手に持っていた書類を無造作に机の上に置いた。

「ラファ、バルディアでの諜報活動。ご苦労だった」

「いいえ。私も色々と楽しませてもらいましたわ、兄上」

威圧的な物言いをするエルバに、彼女は臆することもなく口元を緩める。

だが、エルバは頬杖を突き怪訝な眼差しを向けた。

「しかし、可能なら数人ほど攫って来いと言ったはずだ。何故、それができなかった。お前らしくもない」

「それは思いがけない『邪魔』が入ったのよ」

「邪魔……だと?」

首を捻るエルバに、ラファは襲撃後に起きた一連の流れを説明する。

襲撃は上手くいったが、鳥人族による空の監視と騎士団の動きが連携していたことが想定外だったのだ。

空の監視は事前にわかっていた事であり、煙幕や森を通るなど対策は考えていた。

しかし、空の監視が得た情報が、どうやったのか地上の騎士団に伝わっており、あまりに対応が早かったのだ。

さらに、可能性が低いと見ていた意外な動きも発生する。

「アモンとリッド・バルディアが共闘したか」

「えぇ。兄上の指示通り、二人の邂逅を演出したわ。でも、襲撃のことを知ると、あの子、リッドに協力すると言い出したそうなの」

その話を聞き、エルバは合点がいったらしく頷いた。

「なるほど。それで、当初の計画を変更したということだな?」

「あの子の性格を考えると、可能性は低いけど想定はしていたわ。だから、二人の仲がより深まるように救出劇を演出をしたの。この件でリッドから得たあの子の信用、いざという時に使えそうでしょ?」

彼女が怪しく目を細め、冷淡に告げるとエルバはニヤリと口元を緩める。

「さすが、俺の妹だ。よくわかっているじゃないか」

「褒めてもらえて嬉しいわ。兄上」

ラファが微笑むと、エルバは「ところで……」と話頭を転じた。

「お前の目で見た実際の『バルディア』はどうだった?」

「そうねぇ。まず、領主である辺境伯のライナー・バルディアは相当のやり手ね。領地運営、治安維持、騎士団の統率、隣国の監視体制、外交。どれを取っても上手くやってる。それに、化粧水や木炭車とかも開発して発展の勢いも凄いの。あと数年も経てば、私達でも手を出せない程に発展するかもしれないわね」

「ふむ。ライナー・バルディア辺境伯。『帝国の剣』と呼ばれているのは、伊達ではないということか」

エルバが相槌を打つと、ラファが不敵に笑った。

「ふふ、兄上。その件で、私なりに気付いたことがあるの」

「なんだ、言ってみろ?」

「化術を用いて、バルディアのあちこちの施設に潜り込んで色んな情報を集めたわ。それで、バルディア発展に繋がる化粧水や木炭車の発案者についても調べたの。でも、木炭車を発案したというドワーフ。化粧水を発案したというエルフ。誰を調べても、その閃きを得た本人には思えなかったのよ」

彼女の言葉に、エルバは興味深げに「ふむ……」と相槌を打った。

「それは妙な話だ。帝国から得た情報によると、木炭車を発案したのはバルディア家に仕えるドワーフ姉弟。化粧水などの商品は、クリスティ商会とバルディア家に仕える研究者。それぞれが、ライナーによる指示の元に開発した聞いているが、それは違う……ということだな?」

「えぇ」と頷き、ラファは真面目な表情を浮かべて続けた。

「帝国貴族達は表向きの情報しか見ていないのよ。バルディア家の内部に入り込めば、その違和感はすぐにわかるわ」

「なるほどな。それで、お前のことだ。その発案者とやらにも目を付けているのだろう?」

「勿論。おそらく、バルディア発展の中心にいるのはあの子。『リッド・バルディア』よ」

ラファは自信ありげに断言した。

バルディア家の関連施設は厳重な警備体制が敷かれていたのである。

安易な化術では、正体が露見する恐れすらあった。

だが、厳重であるという事は、それだけ秘匿情報がある事の証拠でもある。

しかし、いくら時間と人員を割いても『発案者』が確定できる情報は出てこなかった。

その代わり、バルディア家の長男『リッド・バルディア』が『型破りな人物である』という情報だけは、あちこちから集まったのである。

ラファは断片的に集まった様々な情報をまとめ、ある仮説を立てた。

全ての商品開発に関わっている中心人物が表に出てこないのではなく、表に出られない。

だから、開発と販売に関わっているドワーフ、エルフ、バルディアが前面に出ているのだと。

そして、その動きを統率しているのが辺境伯の『ライナー・バルディア』である。

そうなれば、『型破りな人物』として噂される彼の息子、『リッド・バルディア』が中心人物の可能性が高いのではないか? ラファは、そう結論付けたのだ。

エルバはその言葉に、「なに……?」と懐疑的な様子で首を捻る。

「それは、流石に過大評価だろう。リッド・バルディアはまだ年端もいかない子供のはずだ」

「そうね。私もあの子と直接対峙するまで、確信していたわけじゃない。でも、これで考えが変わったの」

ラファはそう言って、左腕の袖をおもむろにめくる。

すると、彼女の腕には焼け爛れたような酷い傷が出来ていた。

エルバはその傷をまじまじと見つめ、「ほう……」と驚嘆する。

「これ、リッド・バルディアが本気で放った魔法を受けた時にできたの。獣化はしていたけれど、下手すれば死ぬところだったわ」

「……獣化しているお前にそこまでの傷を与えるとはな。なるほど、確かにリッド・バルディアは只者でなさそうだ」

ラファは左腕の袖を戻すと、話を続けた。

「ローブだったかしら? 彼の裏にいる帝国貴族は、まだあの子の本当の価値に気付いていないのよ。だから、兄上がリッドを屈服させて手中に収めるのはどうかしら。そうすれば、本当の意味でバルディアの力を兄上が得られるはずよ」

彼女の提案を聞くと、エルバは身を乗り出して不敵に笑う。

「それは面白い。帝国にはリッドを殺したと伝えおけば、後で価値に気付いたとしても奴らを出し抜くことができるからな」

「えぇ、それにあの子には『守りたいモノ』が沢山あるみたいなの。だから、兄上だったら屈服させることは容易いはずよ」

そう言うと、ラファは怪しく目を細めた。

すると、エルバは呆れ顔で鼻を鳴らす。

「ふん。まるで、俺が血も涙もないような言い方だな」

「そう言ったつもりだったんだけど。まさか、怒ったの?」

「失礼な奴だな。俺のような紳士はそういないのだぞ。ふふ、それにしても、リッド・バルディアか。せいぜい、覇道の礎となってもらうとするか」

まるで残忍を極めたかのように、エルバは楽しそうに笑う。

その時、部屋のドアがノックされた。

「兄上、マルバスです。バルディア家より書状が届きました故、お持ちしました。よろしいでしょうか?」

「ああ、構わんぞ」

エルバが返事をすると、彼は静かにドアを開けて入室する。

マルバスはラファを見て眉をピクリとさせるが、淡々と書状をエルバに渡した。

彼は書状に目を通すとニヤリと笑う。

「予想通りの回答だ。さて、マルバス。近いうちに領外に出かけるぞ」

「は……? えっと、どちらにでしょうか」

「決まっている、バルディアだ。それに、品定めはこの目でしたいからな」

きょとんとしていたマルバスは、ハッとして目を丸くした。

「な……⁉ 兄上が直接いかれるのですか。そ、それに、品定めとは一体……」

「ふふ、兄上らしいわ。でも、あの子には先に私が唾を付けたの。そこは、汲んで欲しいわね」

ラファが怪しく目を光らせると、エルバはやれやれと肩を竦めて頷いた。

「あぁ。屈服させた後は、お前の好きにすれば良い」

「あら、それは楽しみだわ」

「お、お二人共、仰っていることがよくわからないのですが……」

途中からやってきたマルバスは、兄姉の言葉に戸惑うばかりであった。