作品タイトル不明
狐人族という強敵
「くそ……」
襲撃犯の一部を逃がしてしまったことに、思わず舌打ちするとアーモンドが心配そうにこちらを見つめた。
「リッド、大丈夫かい?」
「うん、ありがとう助かったよ。アーモンド」
そのやり取りを見ていたクレアは、こちらに向かって怪しく微笑んだ。
「安心なさい。あの馬車の中には、間違いなく坊やが取り返そうとした子達が全員乗っているわ。だから今は私と遊んで、どうか楽しませて頂戴」
その言動に苛立ちつつも、僕は現状に違和感を覚えて眉を顰めた。
「一体……君達の目的はなんだ? バルディアの工房を襲撃して技術者を拉致した。それ程の危険を冒しておきながら、いざとなると荷と拉致した技術者を放棄する……やっていることが滅茶苦茶だ」
「ふふ、すべての行いに何でも意味があると思っちゃダメ。私は自分が面白そうと思ったことに忠実なだけなの」
「つまり、工房の襲撃も面白そうだからやってみたとでも言うつもりかい?」
再び怒気を込めて睨むが、彼女は肩を竦めておどけている。
「さぁ、どうかしらね。でも、工房の襲撃を計画している時は楽しかったわ。細工は流々仕上げを御覧じろ……って言うじゃない? まぁ、最後にこうして追いつかれたのは少し意外だったけれど、それまでは良い動きだったでしょう?」
「そうか。じゃあ、その計画を立案に至った経緯について教えてもらえるかな?」
「あら、何でも質問したら答えてくれると思ったらダメ。時には強引さも必要よ」
クレアはスッと武器を構えた。
「わかった。じゃあ、続きは君を縄に掛けてからするとしよう」
「怖い目をするのね。でも、すっごくそそられるわ」
会話にならないな。
そう思つつ、僕は身体強化を発動して徒手空拳で構えた。
その姿を見たクレアは、ニヤリと笑った後「ローゼン、リーリエ」と声張り上げる。
「今から少しだけ、本気を出すわ。貴方達も力を見せてあげなさい」
「承知しました!」
二人の返事が聞こえた後、クレアは再びこちらを見つめた。
「さぁ、楽しませてちょうだい……がっかりさせないでね」
彼女はそう言うと、武器を構えたまま獣化を始めて容姿がみるみる変わっていく。
程なくしてクレアは全身が白い毛に覆われ、尻尾が五本ある神秘的な白狐の姿となった。
だが、その容姿を見たアーモンドの表情が険しくなる。
「彼女を相手にするのは、少し骨が折れそうだよ」
「……どうしてだい?」
彼の言わんとしていることは、クレアから感じる魔力量や威圧感で何となく察するが、あえて尋ねてみると彼は苦笑する。
「ズベーラでは数年に一度だけ『獣王』を決める試合があるのは知っているかい?」
「うん。詳細は知らないけどね」
そう答えると、アーモンドは淡々と続けた。
「……狐人族が試合に出す代表を選出する時、最低条件が獣化時における尻尾の数が五本……『白狐』と呼ばれる状態になれることなんだ」
狐人族が獣化した際、増える尻尾の数で呼び名があることに少し驚きつつ視線を前に戻す。
そして、「……なるほど」と相槌を打った。
「つまり、クレアはかなり強い狐人族……そういうことだね」
「そうなるね……」
その時、ふとあることが気になり問い掛けた。
「ちなみに、アーモンドはどうなの?」
「僕かい? 僕が獣化した時の尻尾の数はまだ三本。『仙狐』と言われる状態さ。残念ながらね」
彼はそう言って、小さく首を横に振った。
さて、どうしたものか。
獣化が扱える狐人族と手合わせをするのは始めてだ。
その上、それぞれの実力や魔力数も未知数の状態で共闘すれば、お互いの足を引っ張ってしまう可能性も高い。
クレアが行った獣化は身体能力を大きく向上させるけど、その分発動中は魔力をずっと消費してしまう。
従って獣化は長期戦には不向きと言える。
だけど、僕は自分の魔力量に結構自信があるんだよね。
そして、もうしばらくすれば第二騎士団の応援も到着するはずだ。
最善は、クレアを倒して捕縛すること。
次善は、クレアを逃がさないよう持久戦で耐えつつ、応援を待つ……といったところだろう。
考えがある程度まとまったところで、アーモンドに耳打ちする。
「……という方法でいこう」
「……! それだと君の負担が大きくないかい?」
「まぁね。でも、こう見えても僕は結構怒っているんだよ。だから、やらせてほしい」
アーモンドは僕の顔をみると、ごくりと息を飲んだ。
「わかった。君の指示に従うよ」
「ありがとう、アーモンド」
お礼を言うと、僕はクレアの前に踏み出した。
「作戦会議は終わったのかしら?」
「まぁね……クレアだっけ。先に言っておくよ。僕は……」
「……なにかしら?」
彼女が首を傾げると同時に僕は魔力を解放する。
そして、瞬時にクレアの懐に飛び込むと魔力を込めた手刀をクレアの腹部に抉り込む。
虚を衝かれた形になり、「ぐ……⁉ こ、これは⁉」と彼女の表情が苦悶に染まる。
だが、まだ終わらない。
「僕は……本気で怒っているんだ。弾けて爆ぜろぉおおおお!」
そう叫ぶと抉り込んだ手刀の先で魔力が爆発して彼女を吹き飛ばした。
しかし、クレアは吹き飛ばされた場所で受け身を取り、何事も無かったかのように立ち上がる。
彼女は舌なめずりしながら目を細めた。
「あはは、良いわね。そうこなくっちゃ、面白くないわ」
「絶対に許さないからね。その減らず口……二度と叩けないようにしてあげるよ」
「あは。素晴らしいわ。坊や、最高よ。じゃあ、次はこちらからいくわね……!」
クレアは言うが否や、こちら目掛けて突っ込んで来る。
対してこちらは、全十魔槍大車輪を暗唱して最大火力で発動した。
すると、周りに全属性の魔槍が大量に生成されて彼女目掛けて飛んでいく。
「あははは! こんなすごい魔法は見たことがないわ。でも、私に当てることはできるのかしらねぇ!」
クレアは楽しそうに答えると、そのまま魔槍の弾幕に真っすぐ突っ込んでくる。
彼女は数々の魔槍を躱しつつ、時には魔法で相殺。
またある時は、手に持つ棒で魔槍を切り払ってどんどんこちらに近づいていくる。
「もうすぐ坊やの元に辿り着いちゃうわよ? 次はどうするのかしら?」
「次はこれさ!」そう答えると、土の属性魔法を発動して彼女が進む正面に土壁を生成する。
「な……⁉ こ、これは土の属性魔法⁉」
「驚くのはまだ早いさ。これで君を捕縛するんだよ!」
その言葉に反応して土壁がうねり、クレアの周りを取り囲みドーム状に固まった。
中は空洞だから、一応は彼女を捕まえたことになる。
だけどすぐにドーム状の土壁が鈍い衝撃音と共に壊され、彼女が猛スピードで間合いを詰めてきた。
魔法は間に合わない。
そう判断して、咄嗟に腰に差していた魔刀に手を伸ばす。
それから間もなく、辺りに金属がぶつかり合う高い音が鳴り響いた。
「やっと、近くで顔が見れたわね。坊や」
「それは……お互い様でしょ」
クレアと鍔迫り合いを行いつつ睨みあった後、互いに離れて間合いを取った。
先程より、近い位置にいるが仕切り直しという感じだ。