軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アーモンドとリッド2

「……みたいだね」

意図を計りかねていると、彼はふっと笑って話を続けた。

「その上、彼等は元々バルストで売買される予定の奴隷だったとか。でも、バルディア家の嫡子が獣人族とはいえ同年代の子供が他国で奴隷として売買されることに怒りを覚えたそうだよ。そこで、クリスティ商会を通して彼等を購入。このバルディアで保護して第二騎士団という公務に就かせている。通常では考えられないことだよ」

バルディア家がクリスティ商会を通して奴隷を購入した話について、彼が言うように広がっているというのは聞いたことがない。

おそらく、彼が独自に得ている情報だろう。

「確かに……少し変わった話かもしれないね」

はぐらかすように相槌を打つと、アーモンドはどこか嬉しそうに微笑んだ。

「だけどね。僕も獣人族の一員として、もっとすごいと思うことがあるんだ。奴隷として売られた子達は、獣人族の弱肉強食の考えに従って『強者としての才能が無い』と見捨てられた子達ばっかりだったはずなんだよ。にもかかわらず、バルディアにいる獣人族の子達は、見る限りズベーラ国内にいる同年代の子達より、おそらくも強い。その上、礼節も身に着けているんだ。一体、バルディア家は何を考えて、何をするつもりなんだろうね」

彼は表情を改めて真剣な眼差しをこちらに向けてきた。

それはまるで、僕を見定めようとでもいうようなものだ。

曖昧に返事をしてもいいけれど、彼には真剣に答えるべきかもしれない。

ふとそう思い、ふぅ……と息を吐いた。

「バルディア家がどう思っているかは知らなけれど、少なからず『強者としての才能が無い』なんて誰が決めるんだろうね。人が人の才能や運命を決めるなんておこがましいと思うけれど、君はどうかな? アーモンド」

「それは……僕もそう思うよ」

彼がそう言って頷くと、僕は話を続けていく。

「それに、獣人族の弱肉強食の考えもおかしなものさ。人族、獣人族、ダークエルフ、ドワーフ、エルフ……種族の違いはあれど、人は一人では生きていけないんだ。自分は強者で他人を弱者だといくら言ったところで、その沢山の人が用意してくれる農作物、衣服、水とかが無ければ生きていけない。それを忘れて……いや、気付かずに強者だなんて愚の骨頂さ」

「……じゃあ、リッド。君の考える『強者』とはなんだい?」

「そうだね……」と考えた時、ふと父上との後継者教育で行った問答が脳裏に蘇る。

そういえば、あの時も似たような問いかけがあったんだよね。

その時の事を思い出しつつ、おもむろに答えた。

「僕の場合は……『己の責務を果たす者』かな」

「己の責務を果たす者……」

復唱しながら難しい顔を浮かべるアーモンドに対して、僕は自分で言っておきながら少し恥ずかしくなり頬を掻いた。

「あはは。まぁ、ある人の受け売りだけどね。でも、その人も言っていたけれど、何を持って『強者』とするかは、人の立場によって異なると思うよ。政治家であれば政治力、商人であれば経営力、武芸者であれば武力……みたいな感じでね。ともかく、獣人国の『弱肉強食』は極端過ぎるかな」

ちなみに、当然『その人』とは父上のことだけどね。

それから程なくして、納得した様子で彼が頷いた。

「そうか……。リッド、とても良い話を聞けたよ。おかげで僕も覚悟が決まった。ありがとう」

「そ、そう? 何だかよくわからないけど、力になれたなら良かったよ」

何故か清々しい表情を浮かべるアーモンドにお礼を言われて首を傾げていると、セルビアが「リッド様、よろしいでしょうか?」と呟いた。

「うん。どうしたの?」

「襲撃犯に動きがあり、馬車が動き始めたようです」

その一言で車内にいる皆の表情が引き締まり、空気が張り詰めたものに変わった。

「わかった。じゃあ、すぐにアリア達に連絡して襲撃犯の向かった方角を確認して。次はこちらから仕掛けるよ」

「はい。畏まりました!」

その後、僕達の乗る木炭車・改は、飛行小隊と情報本部から送られてくる情報を元に襲撃犯が向かう場所に先回りするのであった。

木炭車・改で移動する中、一番奥の後部座席に座っているセルビアが発した。

「リッド様。もう間もなく、襲撃犯が乗っていると思われる馬車が見えてくるはずです」

「わかった。じゃあ、ディアナとカペラは段取り通りによろしくね」

その言葉に頷き、二人に向かって声を掛けると彼等はコクリと頷いた。

「はい。バルディアに手を出したこと、後悔させてご覧に入れます」

「私の妻を泣かせたこと。断じて許すつもりはありません」

「あはは……まぁ、気持ちはわかるけれど、冷静にね」

宥めるように答えると、アーモンドとリックに視線を向ける。

「じゃあ、リックさんとアーモンドは木炭車・改とアレックス、セルビアの護衛をお願いね」

「畏まりました」とリックは頷くが、アーモンドは真剣な眼差しをこちらに向ける。

「リッド、リックは強い。彼が居れば、木炭車と二人の護衛は問題ないはずだ。だから、僕はやっぱり君達と一緒に襲撃犯を相手にするよ。それに、襲撃犯が狐人族である可能性が高い以上、同族である僕が近くに居た方が不測の事態に対応しやすいと思うんだ」

「アーモンド……」

彼はそう言って、僕の目を真っすぐに見据えてくる。

これは、言っても聞かないな。

「わかった。じゃあ、アーモンドには僕の傍にいてほしい」

「……! ありがとう、リッド」

その返事を聞くと、助手席に座るアレックスにも声を掛けた。

「それからアレックスは、木炭車・改がいつでもすぐ動かせるように運転席で待機していてね」

「はい。わかりました!」

アレックスが返事をしたその時、遠巻きに馬車が見えてきた。

すると、カペラが車内に声を轟かせる。

「見えました。このまま、馬車の前に割り込みます。皆様、何かにしっかり捕まってください!」

カペラは再びハンドルの左下にあるレバーを引いた。

それとほぼ同時に『ドン!』という音と衝撃が車体の背後から響き、木炭車は襲撃犯が乗っている馬車の前方に目指してすごい速度で向かっていく。

やがて、馬車の傍まで来ると再びカペラが「行きますよ!」と叫んだ。

同時に車が勢いよく横滑り……ドリフトをしながら馬車の行く手を塞ぐように止まる。

「カ、カペラ……ちょっと運転が荒いよ……」

あまりに激しい動きに、思わず呆れるとカペラはペコリと頭を下げた。

「申し訳ありません。速度最優先でしたので」

「リッド様。恐れながら、今回だけはカペラさんに同意します。さぁ、それよりも降りましょう」

「はぁ……そうだね。じゃあ皆、段取り通りよろしくね」

木炭車から降りると、馬車を引いていた馬が急に割り込んできた木炭車に驚いたらしく、前脚を上げて嘶いている。

それを、馭者の人が必死に抑えているようだ。

まぁ、馬でなくてもあんな割り込みされたら誰でも驚くよ。

「こちらは、バルディア家所縁の者だ。そちらはクリスティ商会の馬車とお見受けする。訳あって、そちらの馬車と荷を確認したい。この一団の代表者はおられるか?」

カペラが威圧的に声を張り上げると馬車の戸が開き、小柄な青年と少女を引きつれて深く被ったフードで顔を隠した女性が降りてくる。

彼女はこちらにゆっくりやってくると、フードを脱いだ。

だが、その素顔を目の当たりにした僕達は目を瞬いた。

「お待たせしました……私がこの馬車の代表ですよ。ふふ」

そう言って怪しく笑う彼女の顔は、クリスと瓜二つだったのだ。