軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

狂走車

アーモンドとリックを連れて宿の外に出ると、土煙を上げながらこちらに向かって来る何かが見えた。

「丁度良かったみたいだね」

「……あれは何だい?」と不思議そうに土煙を見つめる二人に対して、ニコリと笑った。

「あれが、『木炭車』だよ」

それから程なくして目の前に荷台を引いている『木炭車』が止まった。

だけど、どうも僕が知っている木炭車とは形状が少し違う。

なんというか、通常よりも大きい上に色々と改造されているようなそんな感じだ。

「なるほど……これが噂に聞く木炭車か。こうして見るのは初めてだよ」

「このような鉄の塊が動くとは……いやはや、バルディアの技術は素晴らしいですね」

アーモンドとリックは感嘆している様子だ。

でも、通常の木炭車を知っている僕からすれば、この車両からは何か嫌な気配を感じる。

「はは……ありがとう」

苦笑していると、木炭車の助手席が開かれて搭乗者が「リッド様、お待たせしました」と言って降車するが、その人物に思わず目を丸くする。

「あれ……? アレックス、君も来たのかい?」

「えぇ。拉致された子達には俺の下で働く子もいましたからね。工房は姉さんがいるから大丈夫です。でも、姉さんの代わりに俺達が改良中だった『木炭車・改』を用意してきました。これなら、すぐに現場に行けるはずです」

「そっか。助かるよ、ありがとう」

決意に満ちた目でアレックスが自信満々にお礼を言うと、後部座席のドアが開かれて鼠人族のセルビアが降車する。

「リッド様、お待たせしました。それと、サルビア姉さんから先程連絡があり、リッド様の指示通り動ける航空隊はすべて現場に向かわせたとのこと。また、ラガードが率いる第六分隊も現場に大分近づいているようです」

「わかった。じゃあ、僕達もすぐに現場に向かおう」

すると、アレックスがアーモンドとリックに気付いて首を傾げた。

「リッド様。ちなみにそちらの方は?」

「大丈夫、彼等は協力者でね。詳細は道中で説明するよ」

そう答えると、僕達は急いで車に乗り込んだ。

アーモンドとリックは木炭車の造りに興味津々という感じで、車内をキョロキョロと見回している。

だけど、運転席に座っている人物の顔を見て僕は目を瞬いた。

「あれ⁉ なんでカペラが運転してるの?」

「ご安心ください。襲撃後の混乱に関する処理は済まして参りました。それと、私が来たのは妻であるエレンの願いとファラ様の指示によるものです。詳細は、運転しながらお伝えします故、今は急ぎましょう」

「そ、そうだね。じゃあ、出発してもらえるかな」

「畏まりました」

カペラはコクリと頷き、全員が搭乗してシートベルトをしたことを確認すると、右手でハンドルを持ちながら、左足でクラッチペダルを踏み込む。

そして、左手で慣れた様子で変速機を動かした。

「では、参ります。急発進します故、舌を噛んだり、頭をぶつけないようご注意下さい」

「え……?」

木炭車がそんな急発進できたかな? と首を傾げるがカペラの丁寧な呟きの後、木炭車からけたたましい音が鳴り響いた。

それから程なくして、僕達の乗っている車両は木炭車とは思えない程の急加速で急発進で動き出す。

「えぇええ⁉」と驚きの声を上げると、アーモンドが興奮した様子で叫んだ。

「これは凄い! こんな乗り物を開発するなんてドワーフはやっぱり……いえ、アレックスさんは実に素晴らしい方です!」

その言葉に反応したアレックスが、咳払いをしてから声を車内に響かせた。

「説明しましょう! この『木炭車・改』は、俺と姉さんで木炭車の性能アップを目的とした試験機なんです。扱いがかなり難しいですが、そこは普段から実験に協力しているカペラさんが運転しているので問題ありません。さらに、実験的機能として『木炭』に魔石の『火焔石』と『水明石』などを調合した特殊燃料を用いることで、今までの木炭車より遥かにパワーアップしているのです」

「な、なな……⁉ そんな報告は聞いてないよ⁉」

「はい。リッド様お得意の事後報告というやつですね」

ニコリと黒い笑みを浮かべるアレックスに「な……⁉」と唖然とするが、彼は意に介さず説明を続ける。

「しかし、まだ他にも機能があるんです。カペラさん、街中も出たのでお願いします」

ハッとして窓の外を見ると、確かにさっきまでいた街の外に出ている。

木炭車とは思えない、なんという速度だろう。そう思っていると、カペラがコクリと頷いた。

「……わかりました。では、皆様。再び、舌を噛んだり、頭をぶつけないよう注意してください」

「は……?」

その言葉の意図がわからず呆気に取られていると、カペラはハンドルの左下にあるレバーを手前に引いた。

それから間もなく、木炭車の背後から『ドン!』という音と衝撃が走り、木炭車の速度がさらに上がる。

「こ、今度は何⁉」と声を上げると、悪い顔のアレックスが不敵に笑う。

「これはですね。俺と姉さんの二人で色々と工夫して造った加速補助装置です。さぁ、カペラさん。俺達の助けを待っている皆の元に、全速力で行きましょう!」

すると、カペラが後部座席に座る僕をチラリと見るように呟いた。

「……ということですが、リッド様。『全速力』を出してよろしいでしょうか?」

「え⁉ う、うん。まぁ、今はともかく現場にいち早く駆けつけることが最優先でお願いするよ」

「畏まりました。では、改めて参ります……!」

その後、『木炭車・改』はさらに速度を上げて襲撃犯が集うと僕達が予測した場所に向かうのであった。