軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

発展と後継者教育

父上から後継者教育を直接学ぶことになり数ヶ月が過ぎると、僕とファラは八歳。

妹のメルは六歳となった。

その短い期間の中でもバルディア領では様々なこと起きている。

まず挙げられるのが、サンドラとアレックス達の協力によって『蓄電魔石』を使用した携帯できる『通信魔法の受信機』が開発されたことだろう。

これにより、通信魔法の受信は術者でなくても可能になった他、受信の為に術者が常時通信魔法を発動する必要性が無くなり、緊急時における情報の伝達能力が飛躍的に向上したのである。

分かりやすく言えば、前世で言う『警察無線』みたいなものだ。

とはいえ、発信だけは相変わらず『術者』がいないと難しいけどね。

でも、受信装置の開発により発信に関しても研究が進めているからその内、本当に無線通信も可能になるかもしれない。

次いで、バルディア領から帝都に続く道路整備と木炭車の補給所設置も第二騎士団の施工にて完了。

クリスティ商会が『木炭車』で荷台を引き、帝都との物流と取引がどんどん増えつつある。

その取引で得た資金を元手に、ファラの故郷でありバルディア領と隣接するレナルーテ王国から原料を仕入れてバルディア領で加工を行い、再び帝都に出荷する。

レナルーテの国民であるダークエルフは、過去の出来事から『同胞の奴隷解放に貢献した帝国』に対して好印象を抱いており、以前から『帝国に訪問してみたい』という潜在的な需要があった。

それに応えたのが、レナルーテとバルディア家が結んだ『特別辺境自由貿易協定』だ。

協定はレナルーテから仕入を円滑に行う為でもあったが、レナルーテの国民をバルディア領に誘引する目的もある。

結果、バルディア領には帝国民だけではなく、レナルーテのダークエルフ達も多く来訪させることに成功した。

つまり、バルディア家が帝国内の取引で得た資金は、仕入によってレナルーテに一度流れる。

その資金は、ダークエルフ達の来訪や取引によって帝国に属するバルディア家に再び辿り着く……という経済を回す流れを生むことに成功したわけだ。

補足すると、この流れの中にはエルフのクリスが率いるクリスティ商会が大きく関わっているから、エルフ国のアストリアも多少は関わっていると言っていいかもしれない。

実際、クリスの話ではアストリアもバルディア家を注視しているそうだ。

東に位置するバルディアと西に位置するアストリアは立地的に距離が離れ過ぎているから、さすがに直接取引は無理そうだけどね。

お金が回り始めたことで、一番安堵していたのは何気に父上だった。

今までの取引でも収入はあったけれど、それ以上の投資を行っていたから当然だろう。

信じてくれた父上には感謝しかない。

一度回り始めた経済の歯車は、余程のことが無い限り止まることはない。

それこそ、空気で膨らみ続ける泡のように大きくなっていくはずだけど、『泡が弾ける危険性』もあるから油断はできない。

そうならない為にも、経済を回す新たな起爆剤も今から考えておく必要もある。

何故ここまでするかというと、これも『断罪回避』に繋がっているからなんだよね。

帝国の経済を回しつつ、莫大な資金を有するバルディア家……そう成ることができれば、将来的なバルディア家の帝国内における影響力は相当なものになるはずだ。

それこそいざという時、断罪をはねのける力となるだろう。

その為にも、常にこの世界に新しい何かを提供する必要があるわけだ……ちょっと頭が痛くなる話だけどね。

そして、ここ最近で開かれた催しで印象に残っているのは、ドワーフのエレンとダークエルフのカペラの結婚式だ。

二人が結婚すると言い出した時は本当に驚いたけどね。

式は僕とファラが住む新屋敷の中庭を使いつつ、関係者だけが参列する形で開かれた。

とはいえ、第一、第二騎士団の面々。

クリスティ商会からはクリスとエマや幹部の方々。

加えてバルディア家に仕える皆が多く参加したから、最終的な規模は結構大きくなった。

式の最後にエレンが投げた花束がディアナの手元に行った時には、黄色い歓声も上がり中々に楽しい雰囲気の中で式は終わったのである。

ここ数ヶ月の出来事を思い返していたその時、「おい、リッド」と声を掛けられてハッとした。

「いつまで長考しているつもりだ。お前の番だろう」

「あ、すみません。じゃあ、ここに……」

将棋盤上の駒を動かすと、父上は腕を組みながら「ふむ」と唸った。

だが、父上はすぐに『角』の駒を動かした後、不敵に笑う。

「それにしても、お前が考案したこの『ショーギ』というのは実に面白い。相手から奪った駒を使用することで、より戦術が複雑となっている。それにある種、戦には裏切りもあることを暗示しているようだな」

「気に入って頂いて良かったです。相手の打ちたいところに打て……というのがこの将棋の極意らしいですよ」

「なるほど」

相槌を打った父上は盤面に目を落としている。

僕は今、『将棋』を父上と指しているが、これも後継者教育の一つだそうだ。

最初は『チェス』だったんだけど、父上が強すぎていつも負けてしまう。

悔しいから勝てる方法を考えた結果、似て非なる『将棋』を提案したのである。

ちなみに、将棋盤と駒を製作してくれたのはアレックス達だ。

父上は将棋について当初は懐疑的だったけれど、すぐにその魅力に気付いてくれた。

そして、『この世界で』初めて指す将棋で僕は見事に勝利することができたわけだ。

でも、父上は負けたことが余程悔しかったらしく、猛烈に上達してしまったのは予想外だった。

「父上。僕はここに打ちたいのですが……」

そう言って、先程動かされた『角』を指差すが父上はニヤリと笑って首を小さく横に振る。

「待ったが無しも、『ショーギ』の決まりだろう?」

「むぅ……」

父上の将棋の腕前はすでに僕を超えている。

最初の対局に負けた父上は、こっそりと執事のガルンや第一騎士団のダイナス、クロス、ルーベンス、ネルス達と夜な夜な将棋を指して腕を磨いていたらしい……ちょっと大人気ないよね。

後継者教育は、チェスや将棋を『騎士団』と見なして戦略的な動きや兵法の他、バルディア領の強みや弱み、他国との関係性を学んでいく。

特に印象に残っているのは『決断力と判断力』を鍛える目的で無理難題の選択し、その理由を説明させられることだった。

例えば、「私、ナナリー、メルの三人が命の危機に立たされている。しかし、リッド。お前が助けられるのは一人だけだ。その中でお前は誰を助ける。そして、その理由を述べよ」という具合だ。

なお、「勿論、全員です!」と即答したら、それでは訓練にならんだろうが! と言われてめちゃくちゃ怒られたけどね……。

将棋盤を見つめて考えを巡らせながら首を捻っていると、執務室のドアがノックされディアナの声が響いた。

「ライナー様、リッド様。メルディ様がお見えですが、よろしいでしょうか?」

「うむ。構わんぞ」と父上が答えるとドアが勢いよく開かれて、頬を膨らませたメルが肩にクッキーとビスケットを乗せてこちらにやってきた。

「兄様⁉ 今日は剣術と魔法の稽古をしてくれる約束だったでしょ。いつまで待たせるの!」

メルはそう言うと、持っていた懐中時計を開いて文字盤を僕と父上に見せつける。

呆気に取られつつ、その文字盤を凝視すると確かに約束の時間を大きく過ぎていた。

「あ……あはは。ごめんね、メル」

「もう……!」とメルが口を尖らせてそっぽを向いたその時、クッキーが彼女の肩から飛び降りて盤面上の僕の駒を前脚でちょいと一つ動かした。

「あ、駄目だよ。クッキー」と声を掛けると、彼は首を傾げて「んにゃ?」と呟く。

でも、動かされた駒の有効性に気付いて思わず目を見張った。

「そ、そうです! 僕はそこに動かすつもりだったんですよ、父上」

「な……⁉」

目を丸くする父上だが、そんなやり取りを間近で見聞きしていたメルが声を荒らげる。

「兄様、約束は⁉」

「あ、うん。すぐ行くよ。じゃあ、父上。続きは次の時にしましょう」

「お、おい!」

父上が声を発するも、メルに手を引かれる形で僕は部屋を後にする。

ふと後ろを振り向くと、ディアナが室内に向かって一礼した後、こちらを追いかけて来ていた。