作品タイトル不明
発展の序章
帝都で開催した懇親会の反響は思いのほかすごかった。
僕達が帝都からバルディア領に帰り着いて程なくすると、帝国内のあちこちから帝国貴族や商人達が訪れてきたのである。
曰く、懇親会で食べた料理の味が忘れられず、また食べたい。
木炭車や懐中時計を目の当たりにした結果、新たに取引をしたい。
バルディア領の現状を見てみたい。
等々、様々な目的で多くの人達がやってきたのだ。
中には技術を盗もうとか、工房で働く獣人族の子達やドワーフのエレンやアレックスに近付いて、好条件で引き抜こうという輩もいたけどね。
尤もそんな輩は、第二騎士団内で設立した『辺境特務機関』に所属する子達が早々に動きを察知して、現場や証拠を以て逮捕。
その後、逮捕された者達はバルディア領を出禁にしたり、父上と相談しながら厳罰を与えた。
彼等の背後には帝国貴族や大手の商会などがいるだろうから、警告でもあるわけだ。
度が過ぎるようだと、新たな対処を考える必要もあるけどね。
今のところ、そういった輩の数は減っているから様子見をしている段階だ。
ちなみに懇親会の際に友人となった皆とは、あれから手紙のやり取りを定期的に続けている。
その中で頻度がもっとも多いのが、乙女ゲームの『ときレラ!』で悪役令嬢だった『ヴァレリ・エラセニーゼ』だ。
驚いたことに、帝都で出会った彼女は『前世の記憶』を持っていたのである。
ただ、その記憶は朧げであり何となく覚えている程度のものらしいけどね。
ヴァレリはこの世界が『ときレラ!』に酷似していることに気が付くと、運命に抗うべく色んな動きをしていたそうだ。
しかし本人曰く、全部裏目に出たらしい。
『断罪』の道標とも言うべき悪役令嬢とは、当初距離を置くことを考えていた。
でも、ヴァレリが前世の記憶持ちだったことに加えて無鉄砲なところがあったから、表向きは友人として彼女を監視することにしたのである。
だけど、ヴァレリと手紙のやり取りが多くなっている理由は別にある。
それは、『マローネ・ジャンポール』という少女の存在だ。
マローネは『ときレラ!』において、『マローネ・ロードピス』となり男爵家の養女となる物語の主人公だ。
でも、この世界ではジャンポール侯爵家の養女となっていたのである。
ヴァレリもマローネのことは懇親会で出会った時から気に掛けており、僕は父上を通して得た情報を彼女に伝えた。
するとヴァレリは、マローネと親交を深めつつ、内情をそれとなく探ると言い出す。
正直なところ不安はあったけれど、ヴァレリには『ラティガ・エラセニーゼ』という優秀な兄もいるから、多分大丈夫だろうと見守ることにした。
その結果、ヴァレリとは手紙のやり取りが多くなったわけである。
でも、今のところマローネについて有力な情報は得られてないんだよね……。
様々な対応に日々追われる中、ドワーフのアレックスから朗報が届いた。
雷の力を宿すと言われる魔石の『雷光石』の加工に成功、その新たな製品は『蓄電魔石』と名付けられた。
蓄電魔石は宝石でいうところの、ブルーサファイアのロイヤルブルーみたいな色合いの四角い石だ。
なお、石の形は加工時の工夫で丸であったり、楕円など幅広く対応可能だという。
雷の力を蓄えている時の蓄電魔石は青白く淡い光を発しているが、使用したり、放出して雷の力を使い果たすと淡い光が無くなる。
だが、再び雷の力を入れると元通りに淡く光り始めて再使用が可能だ。
前世で言うところの『蓄電池』の誕生である。
アレックスを手伝った獣人族の子達は完成を喜んでいたけれど、「蓄電することに何の意味があるんだろう?」と用途に関しては首を傾げていた。
確かに『蓄電池』だけがあってもその価値はわかりにくいだろう。
でも、同時期にドワーフのエレンから『電動機』が完成したという朗報も届いた。
とは言っても、完成したのはあくまで試作品で大人の親指ぐらいの小型な電動機だったんだけどね。
しかし、『蓄電魔石』と『小型電動機』が揃ったことで何が出来るのか? それを皆に見せる意味では十分だった。
エレンとアレックスは、それらを組み合わせ『超小型電動四輪車』を開発すると、それを走らせる為のコースを工房内に用意。
そして、父上を含めた皆の前でその性能をお披露目した。
「いっけぇえええ! ボクの小型四輪君壱号!」
「姉さん。やっぱりその名前はどうかと思うよ……」
アレックスの指摘を意に介さず、エレンはコースに小型四輪を走らせると、その光景に父上は感心した様子で唸り、獣人族の子供達は驚嘆の声を上げた。
おそらく、この世界で初めて『電気』の力を使って『物』が動いたのだ。
その上、小さいながらも耳をつんざくような音を立てつつ、コースの中を風切り音と共に中々の速度で走っている。
驚くなという方が無理かもしれない。
だけど、あの『小型四輪』の速度は少し速すぎではないだろうか?
その瞬間、案の定と言うべきか『小型四輪』がコースから勢いよく飛び出し、工房の壁に激突した。
「あぁあああああ⁉ ボクの小型四輪君壱号がぁああああ!」
「姉さん……だからあれほど、調整するように言ったのに……」
絶叫するエレンと呆れ果てるアレックスの言動に工房内は大爆笑に包まれるが、この一件により蓄電池の価値と可能性を立ち会った面々はすぐに理解してくれた。
父上は『蓄電魔石』と『電動機』について、「これらの開発は素晴らしいことだ。しかしこの件は当分の間、機密扱いとする」と工房内の皆に向けて発していた。
後日、『蓄電魔石』と『電動機』の使用方法を屋敷の執務室にて父上と打ち合わせを行うことになる。
その場には開発責任者となるエレンとアレックスに加え、魔法分野からサンドラ。
『蓄電魔石』の原料である『雷光石』の仕入れを担当するクリスティ商会のクリスにも参加してもらった。
蓄電池と電動機の品質が向上、かつ安定的な電力源を確保できる『発電所』も建築できれば前世のような快適な生活が少しずつ可能になるだろう。