作品タイトル不明
リッドの朝
「ん……ううん……」
朝になり目を覚ました僕は、体をゆっくりと起こして目を擦った。
そして、隣で可愛く「すーすー」と寝息を立てているファラに視線を移す。
すると、彼女が「うう……ん」と呟き寝返りをして布団にくるまってしまう。
その様子に僕は思わず「ふふ、可愛いな」と笑みを溢していた。
程なくして、僕はベッドから静かに降りると、彼女に掛け布団を掛け直す。
それから、自分の服を着替え始めた。
着替えが終わる頃、ベッドから「あれ……ここは……」と少し寝ぼけた声が聞こえてきたので、僕は振り返り優しく声をかける。
「おはよう、ファラ。よく眠れたかい」
「リッド様……?」
呼びかけに対して、彼女はベッドから上半身を起こした状態できょとんとしている。
どうやら、まだ寝ぼけているらしい。
しかし、彼女はハッとすると慌てて掛け布団で顔を隠してしまった。
「そうでした……ここは私の部屋じゃなくて、リッド様のお部屋でしたね。すみません、本当はリッド様の御迷惑にならないように早く起きるつもりだったんですけど……」
「あはは、気にしなくて大丈夫だよ。それに……」
あえてもったいぶるように間を置くと、彼女が隠れていた掛け布団から顔を出して首を傾げた。
「それに……なんでしょうか」
「ファラの可愛い寝顔も見られるからね」
「……えぇ⁉」
少し意地悪な笑みを浮かべて伝えると、彼女は顔を赤らめ耳を動かしながらまた掛け布団に隠れてしまう。
そんなファラの言動に、僕は終始笑みを浮かべていた。
その後、落ち着きを取り戻した彼女はアスナと共に用意された部屋である貴賓室に戻り、身嗜みを整える為に僕の部屋を後にする。
この時、僕は着替えも終わっていたので、彼女を貴賓室まで送ることにした。
そして、歩きながら今日の予定を伝える。
「昨日も少し話したけど今日は屋敷で朝食を取った後、新屋敷を案内するから楽しみにしていてね」
「はい、今からとっても楽しみです」
彼女が笑みを浮かべて答えると、僕は視線をアスナに移して声をかける。
「それと、アスナ。君から要望された室内訓練場……わかりやすく言えば『道場』も用意出来たから、楽しみにしていてね」
「なんと、本当ですか⁉」
アスナは、話を聞くなり表情がパァっと明るくなった。
そして、間近に勢いよく迫ってきたので、僕は思わず後ずさりしてしまい苦笑する。
「は、はは……そんなに喜んでくれるなんて、僕も嬉しいよ」
「ええ、感動しております。これは是非、リッド様や騎士団の方々と手合わせをお願いしなければなりませんね」
「……お手柔らかにお願いね。新築だし、修繕費がかかるようなことは勘弁して欲しいかな」
アスナの勢いに押されながら、僕は少し釘を刺すように答える。
しかし、彼女は笑みを崩さずに頷いた。
「それは勿論です。いやぁ、楽しみですね、姫様」
「ふふ、そうですね」
ファラはそう言うと、アスナの言葉に笑みを浮かべて頷いていた。
雑談しながら歩くうちに、彼女達に用意した貴賓室に到着する。
「じゃあ、僕はここで失礼するね。朝食は食堂で皆で取っているから、良ければファラも一緒にどうかな」
「はい、是非ご一緒させて下さい」
「ありがとう。じゃあ、先に行って皆にも伝えておくね」
そう言うと、僕はファラとアスナに一時の別れを告げて食堂に向かうのであった。
◇
食堂に着くとそこにはすでにカペラとディアナの姿あった。
二人に「おはよう」と挨拶して席に座ると、ディアナが紅茶を淹れて僕の前に置いてくれる。
「ありがとう、ディアナ」
「とんでもないことでございます」
彼女はスッと一礼すると、そのまま後ろに下がった。
それと交代するように、カペラが僕に話しかけてくる。
「リッド様、我々がレナルーテに行っている間の第二騎士団の活動内容について、昨日の内にまとめておきました。今日はファラ様とご一緒に過ごすと伺いました故、良ければ朝食前にこちらの資料をご覧ください」
「ありがとう、カペラ。でも、君もレナルーテから帰って来て疲れていたんじゃないの? 無理しちゃ駄目だよ。エレンも心配するでしょ」
「お気遣い頂き、ありがとうございます。しかし、エレンも承知していたことですから、ご心配に及びません。私も仮眠を取りながら作業致しました」
「はは……それが無茶じゃないかと思うんだけどね。何事もほどほどにしないと駄目だよ」
「承知しました。以後、気を付けます」
会釈する彼から書類を受け取った僕は、ディアナの淹れてくれた紅茶を飲みながら目を通していく。
第二騎士団は道路整備、木炭製造、領内警備等々、多岐に渡る業務を行っている。
父上の率いる第一騎士団の主な任務が治安維持ならば、第二騎士団の主な任務は公共事業という感じと言えるかもしれない。
貰った書類に目を通す限り、問題は起きていないようだ。
まぁ、少し荒っぽい子達が仕事の出来を競って、お祭り騒ぎのようになったということがあったらしいけど、それも大きな問題にはなっていない。
読み終えた僕は、書類をカペラに差し出した。
「特に大きな問題は起きていないみたいだね」
「はい。それと、本日はファラ様と第二騎士団の宿舎に訪れる予定と伺いましたので、第二騎士団の面々は全員待機するように伝えております」
彼は書類を受け取りながら話を続ける。
そう、今日は新屋敷をファラに案内した後に、第二騎士団の皆にも彼女を紹介するつもりだ。
僕は彼の答えに笑みを浮かべて頷いた。
「わかった、手配してくれてありがとう、カペラ」
「とんでもないことでございます。お役に立てれば幸いです」
一礼して返事をする彼を見て、僕はあることを思い出してハッとする。
「あ、そういえば、カペラとエレンの結婚式はまだだったよね」
「そうですね。私も彼女も中々に忙しいですから、その辺の話はあまり出来ておりませんね」
悪気はないのだろうけど、彼の言葉はグサリと心に突き刺さる。
確かに、以前からエレンとカペラの二人にはかなり仕事をお願いしているのは事実だ。
思わず決まりの悪い顔を浮かべた僕は、苦笑しながら答えた。
「あはは……それは、君達を忙しくさせてしまっている身としては申し訳ない限りだね……。あ、それならさ。今度、君達の結婚式を開催しようよ」
「私達のですか……?」
予想外の答えだったのか、カペラは珍しくきょとんしている。
その時、僕の後ろにいるディアナから何やら熱い視線を感じたのは気のせいだろう。
僕としては、カペラとエレンの二人には本当に幸せになって欲しい。
それに彼らは、僕に仕えてくれているバルディア家の家臣でもある。
だからこそ、二人の門出を心から祝福したい。
僕は微笑みながら、畳み掛けるように話を続けた。
「カペラとエレンにはいつも助けられているからさ。結婚式の準備は僕も手伝うよ。だから、どうかな」
言い終えてから程なくして、彼が微笑みながら頷いた。
「承知しました。妻のエレンもそのお言葉、大変喜ぶと存じます」
「ふふ、じゃあ、決まりだね。今度、その辺も打ち合わせしよう」
僕とカペラの会話が落ち着いたその時、控えていたディアナがスッと挙手をする。
「リッド様、少しよろしいでしょうか」
「……? どうしたの」
先程感じた熱い視線と何か関係あるのだろうか。
ディアナの瞳から何やら光るもの感じる。
僕の問い掛けに、彼女は淡々と答え始めた。
「僭越ながらカペラとエレンさんは、バルディア家に仕える家臣でございます。従いまして、帝国文化の結婚式で行うのがよろしいかと存じます」
「なるほど……そういうのも確かにあるかもね」
一般人であれば、結婚式の形式に周りがとやかく言う事はないだろう。
しかし、バルディア家の家臣の式となれば周りから見られることも意識する必要はあるかもしれない。
そう思いながら僕が呟くと、その様子を見ていたカペラが話始める。
「特に私は結婚式の形式に拘りはありません。聞いてみないとわかりませんが、恐らくエレンも拘りはないかと存じます」
「そっか。じゃあ、とりあえず帝国文化の式を挙げる方向で進めようか」
僕が頷いたその時、ディアナがわざとらしく咳払いを行った。
「リッド様、カペラさん。帝国の結婚式については私も知識を持っております故、お手伝いできると存じます」
「わかった。じゃあ、ディアナにも協力してもらおう。カペラもそれで良いかな」
「はい。エレンもディアナさんに相談出来ると知れば喜ぶと存じます」
こうして、カペラとエレンの結婚式を挙げることが纏まったその時、食堂に父上やメル。
ファラ達もやってきた。
僕はカペラとディアナに向けて小声で声を掛ける。
「じゃあ、さっきの話はまた今度ね」
そう言うと、二人は畏まった面持ちで会釈を行う。
「承知しました」
その後、話を切り上げた僕はファラに声を掛けるのであった。