作品タイトル不明
リッドとバーンズ・エラセニーゼ公爵
「リッド君、神前式と披露宴では立派な姿だったよ。改めて結婚おめでとう」
「ありがとうございます、バーンズ様」
正面に腰かけているバーンズ公爵は、笑みを浮かべて気さくな感じで話してくれている。
そんな彼に、僕は少し畏まった面持ちで会釈をしてお礼を伝えていた。
いま僕達は、迎賓館の中にある来賓室を使わせてもらい父上、バーンズ公爵と三人で会談を行っている。
朝食を僕、父上、メル、ファラの四人で済ませると、ファラはバルディア領に向かう際に持っていく荷物の確認で本丸御殿に戻った。
この際、メルが「わたしもひめねえさまと、ほんまるごてんにいってもいい?」と父上とファラに尋ね、二人が了承。
メルは大喜びでファラと一緒に、本丸御殿に向かった。
ちなみに、メルの護衛としてダナエとディアナも本丸御殿に行っている。
迎賓館に残った僕は、予定通り父上とバーンズ公爵との会談に臨んでいるというわけだ。
やがてバーンズ公爵は、何やら感心した表情を浮かべると、おもむろに視線を父上に移した。
「ライナー、君の息子は噂通り中々に聡明じゃないか。これなら、バルディア領の将来は安泰だな」
「そうだと良いがな。しかし、少々悪戯が過ぎるところがあるからな。やはりまだまだ目が離せん子供だよ」
「そうか。いや、それにしても以前と比べてお前はかなり明るくなったな。それも、リッド君のおかげかな?」
何やら含みのあるような笑みを浮かべて楽しそうに話すバーンズ公爵に、父上は決まりの悪い表情を浮かべている。
「茶化すな、バーンズ。それよりも本題だ。式が無事に終わった以上、私達がバルディア領に戻ったら帝都にリッドとファラ王女を連れていかねばならんからな」
「ははは、そう言うな。私を含め、帝都にいるお前の友人は皆一様に心配していたんだぞ」
おどけているバーンズ公爵の言動に、首を傾げた僕は抱いた疑問を尋ねた。
「……差し支えなければ、父上を『心配していた』とはどういうことかお伺いしてもよろしいでしょうか」
「ああ、そうだな。強いて言うなら、ただでさえ鋭い目つきが、一時は人を視線で殺せそうなほど悪い時期があったという感じだな」
「は、はぁ……」
確かに父上の視線は鋭いけど、それだけで人を殺せそうとはどんな眼つきをしていたのだろうか。
疑問を抱きつつ父上にチラリと視線を移す。
すると、父上がわざとらしく咳払いを行い、その鋭い視線をバーンズ公爵に向けた。
「その辺でもう良いだろう。それよりも本題に移るぞ」
「はは、わかった、わかった。そう怖い顔をするな」
「全く……」
相変わらず、楽しそうにおどけるバーンズ公爵に、やれやれと呆れた様子の父上である。
その後、話題は帝都の動きに変わっていった。
バーンズ公爵曰く、バルディア領で生産している『化粧水』や『木炭』を中心に中央貴族から、バルディア家に注目が集まりつつあることを教えてくれた。
「恐らく、リッド君とファラ王女が帝都に来た時にはかなりの貴族が集まるだろう。それを見越して、準備期間も考えておいた方がよいだろうな。それに、『懐中時計』や『木炭車』もお披露目するつもりなのだろう」
「ああ、そのつもりだ。その点については、リッドから説明してもらおう。話せるな」
バーンズ公爵の言葉に父上は頷くと、視線を僕に移した。
「はい、父上。ではバーンズ様、ご説明させて頂きます」
頷きながら答えると、僕はバーンズ公爵に『木炭車』を使用するにあたり重要となる道整備を中心に説明を始めた。
彼が悪役令嬢の父親であることは非常に気掛かりだけど、だからといって中央貴族、それも『公爵』という立場の人と関係を構築できる機会は中々ないはずだ。
『虎穴に入らずんば虎子を得ず』……今後のことを考えれば、多少の危険を冒してもバーンズ公爵との繋がりは作っておくべきだと思う。
それに、うまく行けば彼を通して『悪役令嬢』を監視できるかもしれないしね。
そう思いながら、僕は丁寧に話を続けていく。
『木炭車』に必要な道整備、木炭の補給所。
それらの設置にかかる初期投資の必要性。
しかし、投資以上の見返りがあること等々。
バーンズ公爵は真剣な表情で話を聞きながらも、途中で質疑応答の時間や父上の補足説明も入った。
説明があらかた終わると、バーンズ公爵は感嘆した様子を見せる。
「ふむ……確かに、リッド君は噂に聞く通り『型破りな神童』という感じだな。その歳で、ここまで理路整然と説明が出来るとは、末恐ろしい……君とは政敵となりたくないものだな」
「あはは……」
苦笑している僕の表情を見た彼は、ニヤリと笑みを浮かべると視線を父上に移した。
「話はわかった。私からも『木炭車』や『懐中時計』の件は帝都の貴族達には根回しをしておこう。リッド君とファラ王女が帝都に来るのが今から楽しみだよ。ふふ」
「バーンズ、あまり派手に宣伝する必要はないぞ。こちらとしては、政治ショーにするつもりはないからな」
「言われずともわかっているよ、ライナー。それに、私は君より政治の駆け引きがうまいつもりだ。そう言うのを教国トーガでは『神に教えを説く』と言うらしいぞ」
話し終えたバーンズ公爵は、おどけた様子で楽しそうに笑っている。
そんな彼の様子に、父上はやれやれと呆れ顔で首を小さく横に振っていた。
場の空気が緩んだことで、僕はずっと気掛かりだったことを恐る恐る問い掛ける。
「あの、そういえばバーンズ様には『ヴァレリ』というお嬢様がいると伺いましたが、どのような方なのでしょうか」
「ふむ……ヴァレリのことか。そうだな、我が娘ながらとても可愛いらしいぞ。しかし、気が強くて、少々我儘なところがあるかな。だがまぁ、子供なんてそんなものだろうし、私と妻も娘には甘くてね。しかし、それがどうかしたのかな」
彼は話しながらも何か引っかかりを感じたらしく、抱いた疑念をこちらに問い掛けてきた。
僕は戸惑いながら誤魔化すように答える。
「い、いえ。私は帝都に行った事がないので、同い年の子がどんな感じなのかなと思いまして……」
「はは、そうか。それなら、帝都に来た時には私の家族をリッド君に是非とも紹介しよう」
「はい、ありがとうございます」
どうやら、バーンズ公爵は僕の答えに納得してくれたらしく、笑みを浮かべてくれている。
返事をしながら会釈をしたその時、部屋のドアがノックされた。
僕が答えるとカペラが「失礼致します」と入室してきて、僕に近寄り耳元で囁く。
「リッド様。そろそろ研究所建設地の視察に行くお時間となりますが、如何いたしましょう」
「あ、ごめん。もうそんな時間か」
彼の指摘にハッとした僕は、上着の内ポケットから懐中時計を取り出し時間を確認する。
そして、この場にいる父上とバーンズ公爵に視線を交互に向けた。
「父上、バーンズ様、申し訳ありません。この後も予定があります故、私はこれで一旦失礼させて頂きます」
「良かろう。バーンズ、この後はまだ時間はあるのだろう。私も話したい事がある。少し付き合え」
父上が僕の言葉に頷きながら話す途中で、バーンズ公爵に視線移す。
「わかった。では、リッド君。帝都で会えるのも楽しみにしているよ」
「はい、私も楽しみにしております」
笑みを浮かべる彼に対して、僕もニコリと笑みを浮かべて会釈をするとそのままカペラと共に部屋を後にした。
気が強くて、少々我儘なところがある悪役令嬢こと『ヴァレリ・エラセニーゼ』か。
前半の話し合いが思ったより長引いたことで、彼女のことはそこまで情報を得ることはできなかった。
やはり、直接会ってどんな人物か確かめるべきだろう。
知らないところで何かされるよりも、目の届く範囲で行動を監視した方が危険度合いは下がるはずだ。
それに今日の話し合いで、僕が帝都に行けば彼女に出会えるのはほぼ確実だろうからね。
はてさて『ヴァレリ・エラセニーゼ』とは、どんな女の子なんだろうなぁ。