軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドと静かな朝

「う……ううん」

眠りから目を覚ました僕は、ゆっくりと体を起こす。

目を擦りながらふと隣に視線を移すと、そこにはファラが静かな寝息を立ててまだ寝ている。

可愛らしい寝顔を見た僕は、思わずクスリと笑み溢してしまう。

そして、彼女が起きないように静かにベッドから出た僕は、手早く着替えを行い身を整えていく。

着替えが終わると同時に、ベッドから「ううん……」とファラのくぐもった声が聞こえてきたので、僕はベッドに振り返る。

丁度彼女が目を擦りながら体を起こしていたので、僕は優しく声を掛けた。

「おはよう、ファラ。よく眠れたかい」

「……?」

ファラは寝起きのせいか、きょとんとして首を傾げている。

しかし、すぐにハッとして状況を把握したらしい。

彼女は掛け布団を手元に引き寄せると、照れた様子で顔を隠してしまう。

「お、おはようございます。リッド様」

「ふふ、僕は着替えが終わったから部屋を出て、アスナに声をかけてくるよ」

「はい……ありがとうございます」

照れている様子の彼女にニコリと微笑むと、僕はそのまま部屋のドアを開けた。

そして、廊下で待機してくれていたカペラとアスナの二人に声をかける。

「カペラ、アスナ。二人共おはよう」

「おはようございます、リッド様」

二人はこちらに向かって会釈して答えた後、顔を上げる。

僕は、視線をアスナに向けると話を続けた。

「アスナ、悪いけどファラのことをお願い。部屋の中に僕が居ると、着替えとか準備に困るだろうからね」

「承知しました。お心遣い、感謝致します」

彼女はそう言うと、再び僕に向かって会釈を行う。

その後、僕はファラとアスナに、カペラと共に迎賓館の中にあるロビーに行く事を伝えて、部屋を後にした。

部屋を退室した僕は、迎賓館のロビーでソファーに腰を下ろしていた。

そこにカペラが紅茶を持ってきてくれて、机の上にスッと差し出してくれる。

「リッド様、お茶菓子と紅茶をお持ち致しました」

「ありがとう、カペラ。良ければ、君も座って少し話し相手になってくれない」

「承知しました。では、失礼致します」

彼は小さく頷いてから、「失礼致します」と会釈するとソファーにゆっくりと腰を下ろした。

それと同時に、僕は気になっていたことを問い掛ける。

「そういえば、カペラはエレンと結婚したことをご家族とかに話したの」

「いえ、私に家族はおりません故、ザック殿に報告したのみでございます」

小さく首を横に振ると、彼は淡々と答えた。

「そっか……ちなみに、カペラの幼い頃の話とか聞いて大丈夫かな」

「そうですね。では、あまり面白い話ではありませんが……」

再度の問い掛けに彼が頷き話し始めようとしたその時、こちらに向かってゆっくりと歩いて来る人物に僕は気付いた。

話し始めようとしたカペラを一旦制止すると、僕はその人物に声を掛ける。

「おはよう、ザックさん」

「おはようございます、リッド様。お二人共に早い起床ですな」

「まぁ、少し早く目が覚めてね。朝食までここで時間を潰そうと思ってね」

ザックは話を聞いた後、僕とカペラを交互に視線を向ける。

そして、何かを察したようにニコリと笑みを浮かべた。

「そういえば、昨日の夜はファラ王女がリッド様の部屋にお尋ねになられたとか……楽しい時間はお過ごしになられましたかな」

「そうだね。ファラと二人だけで過ごす時間は初めてだったし、神前式と披露宴の話も出来て楽しかったよ」

「そうですか。それはようございました」

答えを聞いたザックは、満足そうな笑みを浮かべている。

しかし、その笑みの裏に何か黒いものを感じた僕は、考えていたことを彼に話し始める。

「これは、僕の独り言なんだけどさ。きっと今日明日には、僕とファラが迎賓館で過ごしたことが華族の間で噂になると思うんだよねぇ」

「ほう、それは何故そうお思いになられるのですかな」

狸だなぁ、と思いながらも僕は説明を続ける。

そもそも、神前式と披露宴もレナルーテの華族達に、僕とファラの婚姻が正統であることを知らしめるために行われたことだ。

さらに、念を入れて僕達が仲睦まじい姿を知らしめれば、華族達を安心させレナルーテの国内政治は安定しやすくなる……というところだろう。

ザックは僕の話を楽しそうに聞いている。

だけど、これだけは言わないといけない。

僕は視線を改めてザックに向けると呟いた。

「だけど、ザックさん。ファラはもう僕の妻であり、バルディア家の一員だからね。僕達を利用するのは構わないけど、彼女を……妻を悲しませるようなことは許さないよ」

「……そのお言葉。重々承知致しました」

雰囲気が変わった僕の言動を察したのか、彼は表情を引き締めると丁寧に会釈してくれた。

ザックの仕草を見て表情を崩したその時、ロビーに可愛らしい声が響く。

「リッド様、お待たせして申し訳ありません」

声のした場所に視線を移すと、そこには身支度を終えたファラとアスナがこちらに向かって小走りでやってきていた。

彼女達を見たザックは、僕に視線を移すと「では、私は朝食の準備も有ります故、これにて失礼致します」と会釈をした後、この場を去っていった。

ザックは彼女達とすれ違う際も、丁寧に会釈を行っている。

ファラ達もザックとすれ違う際に会釈を返している様子だ。

だけどその際、ザックとファラ達は互いに笑みを浮かべており、少し親密な雰囲気を感じられるものだった。

それから間もなく、彼女達が僕達の前までやってくる。

「リッド様、気を使わせて申し訳ありませんでした」

「ふふ、そんな気にしなくていいよ。それよりファラは、今日この後どうする予定かな。僕は朝食が終わった後、午前中に父上と帝国から来ているバーンズ公爵との話し合いに参加しないといけなくなると思う」

少し慌てた様子のファラの表情に、笑みを溢しながら答える。

すると彼女は、息を落ち着かせながら頷いた。

「それでしたら、私は朝食までご一緒してから、本丸御殿に戻ろうと思います」

「わかった。それと、バルディア領に行く時は『木炭車』を使うから、急いで持っていきたい荷物とかは別にまとめてもらった方がいいかも」

「わかりました。ふふ、『木炭車』に乗れるのを楽しみにしております」

木炭車と聞いた彼女は、ハッとして嬉しそうな笑みを浮かべた。

今回、僕達が迎賓館に来た時にファラは木炭車を見ているから、興味津々なんだろうな。

しかし、彼女との会話をしている中、僕の頭の片隅にはバーンズ公爵との話し合いの件がちらついていた。

もし、僕が断罪される運命を変えることが出来なければ、その時は目の前にいるファラも、辛い目に合わせてしまうかもしれない。

この時僕は、改めてファラと家族。そしてバルディア家を守ると決意を新たにするのであった。